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第156話 初心者、恋愛を語る
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家族や側近だけで行った結納は、とても和やかだった。ルイのために縫った着物も役立ち、アイリーンはほっとする。
久しぶりに着用した振袖は、未婚女性の晴れ着だ。綺麗だと褒めてくれるルイの言葉に頬を赤らめながら、始終、笑顔を絶やさなかった。
「幸せになりなさい、リン」
父の思わぬ言葉に、アイリーンの頬が濡れる。突然溢れた感情が、涙の形になってぽつりぽつりと降った。
「あらあら」
アオイが胸元から取り出したハンカチで吸い取る。白粉が付いたあぶら紙を手に、ヒスイが手早く化粧直しを行なった。
「リンは苦労したから、泣かせたら承知しない。いいね?」
ルイに絡む兄シンが、さらに言葉を重ねようとするも……キエにさり気なく止められた。祝いの場は穏やかに締めくくられ、会食が始まる。懐石料理の箸に苦戦するドナルドの隣で、ニコラは慣れた様子で扱った。その姿を見様見真似で、ドナルドがなんとか料理を口に運ぶ。
お膳は三柱の神獣の前にも用意され、それぞれの好物が並んだ。侍女長のキエも、アイリーンたっての願いで末席に座る。母親の代わり、そう言われてキエは色無地で華を添えた。
『それにしても、リンが一番最初にお相手を見つけるなんて』
稲荷寿司を頬張りながら、ココは呟く。隣のネネは肉に齧り付いて返事ができなかった。ミミが小さな鶏肉を飲み込む。
『外へ出ねば、出会いもなかろう。何より、我の後押しが効いたのではないか』
紫陽花の祠で願掛けをしたルイ、その熱心さを買ったのだと白蛇神は笑う。なるほどと頷く神狐は、ひらりと尻尾を振った。白蛇神は金運を司るが、人の縁も結ぶ。恋愛は別の神の領域でも、人としての縁を結ぶなら蛇神に勝る神はいなかった。
「何にしろ、私も婚約者を見つけなくてはいけないな」
寂しそうにシンが溜め息を吐く。面倒なのと、誰も婚約者が決まっていないのをいいことに、逃げ回ってきた。だが末妹が婚約したとなれば、騒々しくなるだろう。同じ想像をして、姉二人が肩を落とす。
「恋愛っていいものよ。お兄様もお姉様達も、楽しんだらいいじゃない」
経験者は語る、それも初心者なのに饒舌に。呆れ顔になる神々の心境も知らず、アイリーンはふふんと得意げに胸を張った。
結婚まであと数年。年単位での我慢か。ルイは離れを用意した未来の義父と義兄に感謝した。万が一、同じ屋根の下で暮らし、彼女が夜中に訪ねてきたら……。何もしないで帰せる自信がない。
離れならば、途中で護衛や侍従が止めてくれるはず。ルイのこの常識は、王城での経験から来ていた。だが……当然ながらお転婆姫が正面から訪ねてくるわけもなく、数週間後には頭を抱えて窓を眺める羽目に陥った。
窓の外、笑顔でノックする婚約者を見ながら。いろいろ耐えて送り出す苦行が始まる。男の複雑な心情を理解せず、アイリーンは結婚直前まで引っ掻き回し続けた。
久しぶりに着用した振袖は、未婚女性の晴れ着だ。綺麗だと褒めてくれるルイの言葉に頬を赤らめながら、始終、笑顔を絶やさなかった。
「幸せになりなさい、リン」
父の思わぬ言葉に、アイリーンの頬が濡れる。突然溢れた感情が、涙の形になってぽつりぽつりと降った。
「あらあら」
アオイが胸元から取り出したハンカチで吸い取る。白粉が付いたあぶら紙を手に、ヒスイが手早く化粧直しを行なった。
「リンは苦労したから、泣かせたら承知しない。いいね?」
ルイに絡む兄シンが、さらに言葉を重ねようとするも……キエにさり気なく止められた。祝いの場は穏やかに締めくくられ、会食が始まる。懐石料理の箸に苦戦するドナルドの隣で、ニコラは慣れた様子で扱った。その姿を見様見真似で、ドナルドがなんとか料理を口に運ぶ。
お膳は三柱の神獣の前にも用意され、それぞれの好物が並んだ。侍女長のキエも、アイリーンたっての願いで末席に座る。母親の代わり、そう言われてキエは色無地で華を添えた。
『それにしても、リンが一番最初にお相手を見つけるなんて』
稲荷寿司を頬張りながら、ココは呟く。隣のネネは肉に齧り付いて返事ができなかった。ミミが小さな鶏肉を飲み込む。
『外へ出ねば、出会いもなかろう。何より、我の後押しが効いたのではないか』
紫陽花の祠で願掛けをしたルイ、その熱心さを買ったのだと白蛇神は笑う。なるほどと頷く神狐は、ひらりと尻尾を振った。白蛇神は金運を司るが、人の縁も結ぶ。恋愛は別の神の領域でも、人としての縁を結ぶなら蛇神に勝る神はいなかった。
「何にしろ、私も婚約者を見つけなくてはいけないな」
寂しそうにシンが溜め息を吐く。面倒なのと、誰も婚約者が決まっていないのをいいことに、逃げ回ってきた。だが末妹が婚約したとなれば、騒々しくなるだろう。同じ想像をして、姉二人が肩を落とす。
「恋愛っていいものよ。お兄様もお姉様達も、楽しんだらいいじゃない」
経験者は語る、それも初心者なのに饒舌に。呆れ顔になる神々の心境も知らず、アイリーンはふふんと得意げに胸を張った。
結婚まであと数年。年単位での我慢か。ルイは離れを用意した未来の義父と義兄に感謝した。万が一、同じ屋根の下で暮らし、彼女が夜中に訪ねてきたら……。何もしないで帰せる自信がない。
離れならば、途中で護衛や侍従が止めてくれるはず。ルイのこの常識は、王城での経験から来ていた。だが……当然ながらお転婆姫が正面から訪ねてくるわけもなく、数週間後には頭を抱えて窓を眺める羽目に陥った。
窓の外、笑顔でノックする婚約者を見ながら。いろいろ耐えて送り出す苦行が始まる。男の複雑な心情を理解せず、アイリーンは結婚直前まで引っ掻き回し続けた。
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