156 / 159
第155話 婚約者を迎える離れ
しおりを挟む
迎えに行ったルイは、大きなバッグを一つ手にしていた。他の荷物は、大商人バローが船で運ぶらしい。航海の順路も確定し、沈没の危険は大きく減ったのだとか。
そんな話をしながら、予定通り到着したルイを離れに案内する。独立した棟として建てられたため、母屋と繋がっていない。このおかげで、未婚の婚約者が一つ屋根の下、という醜聞を避けられるらしい。もう結婚するんだから、一緒だと思うけれど。
母屋と離れの間は、わずか十数歩。石畳を歩けば、すぐの距離だった。離れで静養する皇族のために建てられ、その後は来客用に利用してきた。今でも流行病に罹れば、離れに隔離するのがルールになっている。
「床の間があるんですね」
なぜか感激するルイの側近ニコラが、床の間を撫で始めた。倭国に留学してから、急速に和風の文化に傾倒していると聞いて、アイリーンはくすくす笑って頷く。柱を撫でて感動しきりのニコラに、様々な由来を説明した。
ドナルドは中庭に興味津々だった。本格的な和風庭園は初めて見たようで、樹形や岩の配置に目を丸くする。清掃や食事の運搬は侍従達が行うため、引き合わせた。ここで本日の予定は終了だ。
「よかったら、離れを見て回って」
学校を休んだ二人と、ルイを促す。今回使用するのは、離れの南側の一角だ。大きな建物の北側は来客用に開けておく。その上で、さらに小さな茶室があった。すべてを案内し、それぞれの部屋を決めていく。
戻るとお茶の支度がされていた。ドナルドが苦手と聞いていたので、抹茶ではなく煎茶だ。茶菓子は無難に饅頭にした。手で掴んで頬張れる菓子は、作法の心配は不要だ。アイリーンの説明に、ドナルドは両手に掴んだ。
山盛りに持ってきたので問題はない。残ったら置いていくつもりだったし。アイリーンは気にせず、一緒になって手掴みで口に運んだ。その姿を見て、ルイは好感度が高まる。ドナルドは貴族育ちには思えない無作法続きだが、それを咎めなかった。
一般的な貴族令嬢なら眉を顰め、嫌味の一つも口にしただろう。その点はニコラも同様に評価した。ルイの護衛としてドナルドが確定している以上、未来の奥方に嫌われる可能性を心配していたのだ。この様子なら平気そうだ、とニコラも胸を撫で下ろした。
けろりとした態度のアイリーンは、本人も知らぬうちに評価が高まっていく。手掴みで美味しそうに頬張るアイリーンへ、ドナルド自身も良い感情を抱いた。お茶を終えると、アイリーンはあっさりと母屋へ引き上げる。
今日は荷物の整理もあるし、邪魔をしたら悪いわ。珍しく気を利かせたアイリーンは、帰り道で姉二人に捕まった。
「ちょうどよかったわ。一緒に来て」
夫の着物は妻が縫うもの。過去の慣習を口にする公家を黙らせるため、着物を縫うよう伝える。裁縫が苦手なアイリーンを手伝うため、ヒスイとアオイは妹の自室に泊まり込んだ。一晩で仕上げたとは思えないほど立派な着物を桐の盆に載せ、三人は顔を見合わせた。
夜明けまで縫っていて眠い。そのまま重なり合うようにして、畳の上で休んだ。覗いたキエがそれぞれに上掛けをのせ、盆を遠ざけてから出ていく。朝食と昼食兼用のお握りを作るために。
そんな話をしながら、予定通り到着したルイを離れに案内する。独立した棟として建てられたため、母屋と繋がっていない。このおかげで、未婚の婚約者が一つ屋根の下、という醜聞を避けられるらしい。もう結婚するんだから、一緒だと思うけれど。
母屋と離れの間は、わずか十数歩。石畳を歩けば、すぐの距離だった。離れで静養する皇族のために建てられ、その後は来客用に利用してきた。今でも流行病に罹れば、離れに隔離するのがルールになっている。
「床の間があるんですね」
なぜか感激するルイの側近ニコラが、床の間を撫で始めた。倭国に留学してから、急速に和風の文化に傾倒していると聞いて、アイリーンはくすくす笑って頷く。柱を撫でて感動しきりのニコラに、様々な由来を説明した。
ドナルドは中庭に興味津々だった。本格的な和風庭園は初めて見たようで、樹形や岩の配置に目を丸くする。清掃や食事の運搬は侍従達が行うため、引き合わせた。ここで本日の予定は終了だ。
「よかったら、離れを見て回って」
学校を休んだ二人と、ルイを促す。今回使用するのは、離れの南側の一角だ。大きな建物の北側は来客用に開けておく。その上で、さらに小さな茶室があった。すべてを案内し、それぞれの部屋を決めていく。
戻るとお茶の支度がされていた。ドナルドが苦手と聞いていたので、抹茶ではなく煎茶だ。茶菓子は無難に饅頭にした。手で掴んで頬張れる菓子は、作法の心配は不要だ。アイリーンの説明に、ドナルドは両手に掴んだ。
山盛りに持ってきたので問題はない。残ったら置いていくつもりだったし。アイリーンは気にせず、一緒になって手掴みで口に運んだ。その姿を見て、ルイは好感度が高まる。ドナルドは貴族育ちには思えない無作法続きだが、それを咎めなかった。
一般的な貴族令嬢なら眉を顰め、嫌味の一つも口にしただろう。その点はニコラも同様に評価した。ルイの護衛としてドナルドが確定している以上、未来の奥方に嫌われる可能性を心配していたのだ。この様子なら平気そうだ、とニコラも胸を撫で下ろした。
けろりとした態度のアイリーンは、本人も知らぬうちに評価が高まっていく。手掴みで美味しそうに頬張るアイリーンへ、ドナルド自身も良い感情を抱いた。お茶を終えると、アイリーンはあっさりと母屋へ引き上げる。
今日は荷物の整理もあるし、邪魔をしたら悪いわ。珍しく気を利かせたアイリーンは、帰り道で姉二人に捕まった。
「ちょうどよかったわ。一緒に来て」
夫の着物は妻が縫うもの。過去の慣習を口にする公家を黙らせるため、着物を縫うよう伝える。裁縫が苦手なアイリーンを手伝うため、ヒスイとアオイは妹の自室に泊まり込んだ。一晩で仕上げたとは思えないほど立派な着物を桐の盆に載せ、三人は顔を見合わせた。
夜明けまで縫っていて眠い。そのまま重なり合うようにして、畳の上で休んだ。覗いたキエがそれぞれに上掛けをのせ、盆を遠ざけてから出ていく。朝食と昼食兼用のお握りを作るために。
71
あなたにおすすめの小説
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています
六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。
しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。
「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
EX級アーティファクト化した介護用ガイノイドと行く未来異星世界遺跡探索~君と添い遂げるために~
青空顎門
SF
病で余命宣告を受けた主人公。彼は介護用に購入した最愛のガイノイド(女性型アンドロイド)の腕の中で息絶えた……はずだったが、気づくと彼女と共に見知らぬ場所にいた。そこは遥か未来――時空間転移技術が暴走して崩壊した後の時代、宇宙の遥か彼方の辺境惑星だった。男はファンタジーの如く高度な技術の名残が散見される世界で、今度こそ彼女と添い遂げるために未来の超文明の遺跡を巡っていく。
※小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様、ノベルバ様にも掲載しております。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる