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27.そんな未来許せるはずがない――SIDE母
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あの夜、なぜ一緒にいなかったのか。同じ広間で過ごさなかったことを、こんなに後悔するとは思わなかったわ。
夫クリフォードと結婚して、一男一女を授かった。キースは立派に育ち、文官として独り立ち出来る実力を得たので、残るは婚約者探しだけ。私達の小さなお姫様は、請われて第二王子の婚約者となった。
どの国もほぼ同じだけれど、王子妃への教育は厳しい。おそらく王女より詰め込まれるでしょう。その理由のほとんどが、夫になる王子を支えるため。つまり、王子の不得手だったり未熟な部分を補う目的だった。
そんな愚王子なら、さっさと放逐しなさいよ。それが無理なら再教育すればいいじゃない。私の実家である隣国ブラッドリーは、それは厳しかった。王女であっても剣を持って戦うのは当たり前、文官以上に書類処理に詳しいのは義務。数カ国の言語と慣習を身につけ、礼儀作法も出来るのが当然とされた。
軍事国家として名を馳せるブラッドリー国だけれど、教育面での厳しさも一流なの。そんな私の娘だから、小さなお姫様であるグロリアも優秀だった。いえ、優秀でなければならないの。王族は人の上に立ち、導くのが役割よ。他の人より劣る姿を見せれば、民は揺らぐ。そう教えて厳しく叩き込んだ。
我が国の王女教育を受けて育ったグロリアは、まさに「小さなお姫様」だった。どこへ出しても恥ずかしくない優秀さと美しさを誇る。そんな彼女を見初めたのは、この国の王族――国王陛下だ。己の息子の妻に欲しいと王族令を出した。
臣下として従うか、隣国の王族として跳ね除けるか。迷った末に選んだのは、第二王子の婚約者の地位だ。その理由は簡単、娘グロリア自身が承諾したため。いずれ彼女が「嫌だ」と言ったら、お父様の力を借りても取り戻す気だった。
国王が望んだ婚約にも関わらず、あの日……夜会で私達の宝物は奪われた。騒ぎに気づいて飛び込んだ私の目に映ったのは、床に転がる娘の生首だった。私譲りの黒髪は乱れて、瞳は閉ざされている。首から流れ出す血は鮮やかで、転がる体は奇妙に捩れていた。無理やり押さえつけた跡だと気づき、私の目が見開かれる。
全身にざわりと不快な感覚が走り、それは魔力と相まって全身を包んだ。悲鳴すら出ない。私の可愛い、小さなお姫様……なんてこと。あの子が私より早く死ぬなんて。そんな未来許せるはずがない。絶対にあり得ない! 強く願う気持ちと否定する強烈な感情が、私の魔力を高めながら黒く染めていった。
暴走して爆発する。理解した夫は、グロリアの体を抱き上げ、キースを連れて数歩下がる。物陰に蹲った彼らを見ることなく、私は落ちた首を拾い上げた。涙の跡が残る頬を撫で、優しく声をかける。
「もう大丈夫よ、ママが来たわ。悪い奴はみんな……滅ぼしてあげるっ!」
ぶわっと噴き出した魔力が、稲妻のように走る。すぐ近くで小さな悲鳴をあげた銀髪の少女に目を細めた。ああ、彼女は助けなくちゃね。私の小さなお姫様が悲しむわ。
「こちらへいらっしゃい、メイベル」
呼ばれた彼女は、涙で濡れた頬を乱暴に拭い、化粧が取れるのも気にせず唇を噛んだ。魔力の放出で乱れた風で切り傷を作りながら、私のところまで這ってくる。泣き叫ぶ王侯貴族を見ながら、私はさらに力を解放した。
「滅びてしまえ」
夫クリフォードと結婚して、一男一女を授かった。キースは立派に育ち、文官として独り立ち出来る実力を得たので、残るは婚約者探しだけ。私達の小さなお姫様は、請われて第二王子の婚約者となった。
どの国もほぼ同じだけれど、王子妃への教育は厳しい。おそらく王女より詰め込まれるでしょう。その理由のほとんどが、夫になる王子を支えるため。つまり、王子の不得手だったり未熟な部分を補う目的だった。
そんな愚王子なら、さっさと放逐しなさいよ。それが無理なら再教育すればいいじゃない。私の実家である隣国ブラッドリーは、それは厳しかった。王女であっても剣を持って戦うのは当たり前、文官以上に書類処理に詳しいのは義務。数カ国の言語と慣習を身につけ、礼儀作法も出来るのが当然とされた。
軍事国家として名を馳せるブラッドリー国だけれど、教育面での厳しさも一流なの。そんな私の娘だから、小さなお姫様であるグロリアも優秀だった。いえ、優秀でなければならないの。王族は人の上に立ち、導くのが役割よ。他の人より劣る姿を見せれば、民は揺らぐ。そう教えて厳しく叩き込んだ。
我が国の王女教育を受けて育ったグロリアは、まさに「小さなお姫様」だった。どこへ出しても恥ずかしくない優秀さと美しさを誇る。そんな彼女を見初めたのは、この国の王族――国王陛下だ。己の息子の妻に欲しいと王族令を出した。
臣下として従うか、隣国の王族として跳ね除けるか。迷った末に選んだのは、第二王子の婚約者の地位だ。その理由は簡単、娘グロリア自身が承諾したため。いずれ彼女が「嫌だ」と言ったら、お父様の力を借りても取り戻す気だった。
国王が望んだ婚約にも関わらず、あの日……夜会で私達の宝物は奪われた。騒ぎに気づいて飛び込んだ私の目に映ったのは、床に転がる娘の生首だった。私譲りの黒髪は乱れて、瞳は閉ざされている。首から流れ出す血は鮮やかで、転がる体は奇妙に捩れていた。無理やり押さえつけた跡だと気づき、私の目が見開かれる。
全身にざわりと不快な感覚が走り、それは魔力と相まって全身を包んだ。悲鳴すら出ない。私の可愛い、小さなお姫様……なんてこと。あの子が私より早く死ぬなんて。そんな未来許せるはずがない。絶対にあり得ない! 強く願う気持ちと否定する強烈な感情が、私の魔力を高めながら黒く染めていった。
暴走して爆発する。理解した夫は、グロリアの体を抱き上げ、キースを連れて数歩下がる。物陰に蹲った彼らを見ることなく、私は落ちた首を拾い上げた。涙の跡が残る頬を撫で、優しく声をかける。
「もう大丈夫よ、ママが来たわ。悪い奴はみんな……滅ぼしてあげるっ!」
ぶわっと噴き出した魔力が、稲妻のように走る。すぐ近くで小さな悲鳴をあげた銀髪の少女に目を細めた。ああ、彼女は助けなくちゃね。私の小さなお姫様が悲しむわ。
「こちらへいらっしゃい、メイベル」
呼ばれた彼女は、涙で濡れた頬を乱暴に拭い、化粧が取れるのも気にせず唇を噛んだ。魔力の放出で乱れた風で切り傷を作りながら、私のところまで這ってくる。泣き叫ぶ王侯貴族を見ながら、私はさらに力を解放した。
「滅びてしまえ」
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