【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

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21.早く大きくなれ(ベルSIDE)

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 あれはわざとなのか。煽っているのか? 完全な無自覚だとしたら……それはそれで恐ろしい。

 魔族の誰もが恐れ敬い距離を置いた。ウェパルだけだったのだ。恐れずに笑いかけ、ベル様と幼い声で愛称を呼び、俺の気持ちを揺らした。

 向こうの世界で魔王の一人に数えられ、実力者として名を馳せた。その俺が、生まれて五十年の若いドラゴンに翻弄されるとは……。グッと堪えて蹲る。暴発しないだけ褒めてほしい。

 ウェパルはまだ幼子だ。長寿の竜種においても、成長が遅い部類に入るだろう。俺を呼び出してこの世界に固定した。考えてみれば、それ自体がおかしい。強者が弱者を召喚するのはわかるが、逆はあり得ない。世界の法則に反していた。

 他の世界同士を繋ぐ召喚など、俺でも難しいだろう。自分を助けてくれる者を選び、その声を届けて招く。複雑な手順を、ウェパルが行えるとは思えなかった。まだ何も知らない赤子のような子なのだ。

「ベル様、こっちも」

 蜂蜜を舐め終わったと訴えるウェパルは、次の箱が気になるらしい。だが俺は彼を抱き上げた。やはり……鱗がベタベタしている。

「先に体を洗おう」

「冷たいお水で?」

 尋ねられて気付いた。そうか、ウェパルは水竜ではない。父親と同じ火竜でもないが、両方とも耐性があると聞いた。ならば風呂を沸かしてやろう。

「いいや、温かいお湯だ」

「お湯……」

 不思議そうな顔をする。準備をする間、詳しく聞いた。マグマの中を泳いだことはあるらしい。冷たい氷水も泳いだそうだが、やはり平気だったと。祖父のラウムによれば、全属性を持っているようだ。明らかに変異種だった。

 成長が遅くても末っ子という先入観が手伝い、誰も気にしていない。ウェパルは恵まれているな。

 湧水に近い一角の土を盛り上げて焼き固め、そこへ水を流し込む。熱を流し入れて、一瞬で沸かした。沸騰した湯に、ウェパルは尻尾の先を入れる。止める間もない行動に、安全だとわかっていてもドキッとした。幼子は突拍子もない行動をすると聞いたが、確かにこれは心臓に悪い。

 ぐるぐると回し、ウェパルはにっこり笑った。

「あったかい!」

「入るか?」

「うん!」

 足からゆっくり入れて、手を離せば沈んでしまう。沸騰は止まったが、熱い湯の中でウェパルは瞬いた。ぱちんと指を鳴らして服を脱ぎ、俺も中に入った。温度は問題ない。ウェパルを引っ張り上げ、膝の上に座らせる。

「ぷはっ、お湯って気持ちいいね」

 まったく恐怖を感じていない。怖いもの知らずで片付けていいものか。迷うところではあるが、こんな姿も愛らしい。丁寧に鱗のべたつきを落とし、しっかり温まった。

「ベル様、箱開け……あふっ」

 温まって眠くなったらしい。子どもは、何かと変化が多くて忙しい生き物だ。ウェパルの体に温風を吹きかけ、乾かしてから寝床へ運んだ。上手にできたと胸を張る姿が可愛くて、当初予定したベッドを設置しなかった。

 柔らかな干し草の上に敷いた絨毯に寝かせると、くるりと丸くなる。風呂はそのままでいい、俺も休むか。

 魔王の肩書きを得た日から、常に忙しくしてきた。この世界に来てのんびり過ごしているが、こんなのも悪くない。いや、ウェパルがいなかった日々と比べられなかった。

「早く大きくなってくれ」

 ぽんぽんと背中を叩けば、ウェパルの手足が緩む。俺に腹を押しつけ、がっちりしがみ付いた。この愛らしいドラゴンが、いつか俺の妻になる。出来たら、成長するまで俺が我慢できるように……これ以上煽らないでくれ。返答なのか、ウェパルはへらりと笑った。
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