【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
53 / 82

53.氷の山の頂上から落ちる

しおりを挟む
 氷の山は歩きづらい。寒いけど、僕は寒さが平気だった。熱いのも平気だけれど、温かいくらいが一番好き。持ってきた煙の臭いのお肉は食べてしまった。この煙の臭いは燻すと表現する。そんな話を聞きながら、あーんでベル様にお肉を差し出した。

 お肉を千切るのが難しくて、こっそり牙で噛んで引っ張る。様子を窺うけれど、ベル様は気づいていない。だからもう一度牙で裂いて、お肉を小さくした。

「ベル様、あーん」

「うん、うまいな」

 褒めてくれた。嬉しい! 僕は何度も牙と爪でお肉を裂いて食べる。気づいたら両手のお肉は無くなっていた。ここは山の真ん中くらいの高さだから、残りは歩くよ。

 ベル様に頼んで下ろしてもらい、一緒に並んで進む。魔力を纏ったベル様は寒さも暑さも関係なくて、ゆっくり山を登った。ついていく僕は、時々雪に埋もれちゃう。

 ずぽっと頭まで埋もれた時は、ベル様の腕が伸ばされた。外へ出すたびに「どうする?」と目で問う。僕はそのたびに首を横に振った。大変だけど、自分で山を登る。その方が自慢できるから。いつもベル様に抱っこされて、おまけになっていたら成長しないと思うの。

 お母さんが昔聞かせてくれた物語の魔王様は、幼い頃に苦労して大きくなって強さを手に入れた。僕はあのお話に憧れているんだ。青の魔王様というお話だよ。綺麗な青い目の魔王様だったみたい。魔力の強い人は目がキラキラ輝いているから、きっと輝く青い瞳だね。

 そのお話をベル様に聞かせながら、僕は氷と雪を踏みしめて進んだ。時々忘れちゃった部分もあったけど、ほとんどは話せたと思う。足りない部分はお母さんに教わりに行かなくちゃ。

「あと少しだ」

 ベル様の言葉に顔を上げる。滑ったり埋もれないよう歩こうとして、いつの間にか俯いていた。見上げた先は、山が途切れている。あそこが頂上なのかな。疲れていたのに、急に元気になった。嬉しいから走っていく。ベル様は笑いながら付いてきた。

 頂上に立つと、向こう側に凍った山がいっぱい! いくつも並んでいた。初めて見る景色に興奮して、足を踏み外す。勢いよく滑って、慌てて体を丸めた。それからうつ伏せに向きを変えて、爪を立てる。ずずずと滑って、ようやく止まった。

「……ウェパル、俺を殺す気か」

 お尻にあったかい手が触れて、振り返る。ベル様が僕がもう落ちないように支えてくれていた。怖かっただろう、ではなく「怖かった」とベル様は口にする。僕がケガをすると思ったみたい。

「ごめんなさい、ありがとう」

 心配させたお詫びと、助けられたお礼を一度に口にする。抱っこされ、しばらくはまだ下ろしてやれないと言われた。失敗したから仕方ない。成長は安全な場所でゆっくりする。

「ベル様、好き」

 ちゅっと音を立てて頬に口を押し付けたら、ベル様が唇を口にくっつけた。特別な口付けだ! うっとりしながら目を閉じて開いたら、また頂上だった。景色を眺めて、満足する前にお腹が空いて鳴った。

「成長期だから仕方ない」

 大人ならもっと我慢できるのに。そう思って肩を落とした僕に、ベル様は笑って首を横に振った。大きくなるにはいっぱい食べないと! ベル様の言葉で気合を入れた僕は、山の麓で大きなお肉を捕まえた。

 足が細くて長い。鹿に似てるけど、もう少し大きくてツノはなかった。これ、何のお肉だろう。
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話

あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」 トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。 お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。 攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。 兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。 攻め:水瀬真広 受け:神崎彼方 ⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。 途中でモブおじが出てきます。 義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。 初投稿です。 初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 内容も時々サイレント修正するかもです。 定期的にタグ整理します。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。

【本編完結済】神子は二度、姿を現す

江多之折(エタノール)
BL
1/7外伝含め完結 ファンタジー世界で成人し、就職しに王城を訪れたところ異世界に転移した少年が転移先の世界で神子となり、壮絶な日々の末、自ら命を絶った前世を思い出した主人公。 死んでも戻りたかった元の世界には戻ることなく異世界で生まれ変わっていた事に絶望したが 神子が亡くなった後に取り残された王子の苦しみを知り、向き合う事を決めた。 戻れなかった事を恨み、死んだことを後悔し、傷付いた王子を助けたいと願う少年の葛藤。 王子様×元神子が転生した侍従の過去の苦しみに向き合い、悩みながら乗り越えるための物語。 ※小説家になろうに掲載していた作品を改修して投稿しています。 描写はキスまでの全年齢BL

【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!

黒木  鳴
BL
「これが人生に三回訪れるモテ期とかいうものなのか……?そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!そして俺はモブっ!!」アクションゲームの世界に転生した主人公ラファエル。ゲームのキャラでもない彼は清く正しいモブ人生を謳歌していた。なのにうっかりゲームキャラのイケメン様方とお近づきになってしまい……。実は有能な無自覚系お色気包容主人公が年下イケメンに懐かれ、最強隊長には迫られ、しかも王子や戦闘部隊の面々にスカウトされます。受け、攻め、人材としても色んな意味で突然のモテ期を迎えたラファエル。生態系トップのイケメン様たちに狙われたモブの運命は……?!固定CPは主人公×年下侯爵子息。くっついてからは甘めの溺愛。

炎の精霊王の愛に満ちて

陽花紫
BL
異世界転移してしまったミヤは、森の中で寒さに震えていた。暖をとるために焚火をすれば、そこから精霊王フレアが姿を現す。 悪しき魔術師によって封印されていたフレアはその礼として「願いをひとつ叶えてやろう」とミヤ告げる。しかし無欲なミヤには、願いなど浮かばなかった。フレアはミヤに欲望を与え、いまいちど願いを尋ねる。 ミヤは答えた。「俺を、愛して」 小説家になろうにも掲載中です。

【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり
BL
 帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。  着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。  凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。  撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。  帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。  独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。  甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。  ※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。 ★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!

処理中です...