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80.お兄ちゃんなのに抜かれそう

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 十年が経って、妹レラジェと弟キマリスは大きくなった。僕と同じくらいの大きさがある。狡い。僕はお兄ちゃんなのに、このままでは抜かれてしまう。

 唇を尖らせた僕に、同じ高さでキマリスが首を傾げる。見つけた石の上に乗って、少しだけ身長を高くした。僕の方がお兄ちゃんなんだからね! 

「ウェパル、おいで」

 ベル様がすっと僕を抱き上げた。うんと背が高くなる。僕は得意げに顎を逸らした。その顎をベル様の指が撫でていく。気持ちいい。ぐるると声が漏れてしまった。

「ウェパルはゆっくりでいい。長く生きられる証拠だ」

「そうなの?」

 びっくりした。じゃあ、キマリスとレラジェは早く大きくなって、早く亡くなるのかな。泣きそうな気持ちで、地面で遊ぶ二人を見つめた。でも、ベル様に指摘されて気づいたの。人間じゃあるまいし、魔族は長生きだ。当然魔力量が影響するけれど、数千年は普通に生きる。だったら今から心配しなくていいよね。

「そうだ、賢いな」

 撫でられる僕を見て、レラジェがベル様の足にしがみ付いた。

「あたしも抱っこ!」

「じゃあ、僕も」

「ダメだよ、ベル様の腕は僕のなの!」

 きゃあきゃあとケンカして、少しして仲直りした。一緒に果物を齧りながら、ベル様は僕のだと何度も教える。この子達はまだ十歳だから、ちゃんと教えないといけない。魔族のルールはお母さんに教わるとして、ベル様は僕の旦那様なんだから。勝手に触れたり抱っこされたらダメなの。

「お兄ちゃんだけ狡い」

「狡くない!」

 またケンカになりそうだけど、その前にお母さんがお迎えに来た。レラジェを咥えて背中に放り投げ、さっさと連れていく。すぐにお父さんも下りてきて、キマリスが背中に飛び乗った。いると煩いのに、いないと寂しい。

「ベル様」

 毎日のことだ。ベル様に頬をすり寄せ、寂しいと訴える。たくさん撫でてもらい、一緒にご飯を食べて、お風呂も入った。その頃には僕も寂しいのが薄れてくる。巣を整えて、並んで横になった。

「ベル様、僕いつ大人になる?」

「この感じだと……数百年くらいかかる」

「その間に、他に好きな子出来たりしない?」

 心配になった。先日、耳長のおねえさんが話していたんだ。夫婦はえっちをしないと仲良しじゃない。僕はまだえっちをしていない。ベル様は大人になったらな、と頭を撫でたけれど……いつだろう。不安になってしまった。

 えっちは何をするのか、お母さんにそっと尋ねたら「そういうのは魔王陛下にお任せしなさい」と返された。つまりベル様は何をするか知ってるんだよ。大人になるまで早いと言うなら、早く大人になりたかった。

「ずっとウェパルだけだ。心配するな」

 ぽんぽんと背中を軽く叩かれ、僕は目を閉じる。目が覚めたら大人になっていたらいいな。ベル様の奥さんとして、綺麗な銀色の鱗を煌めかせる大きな竜――そんな未来の僕がベル様を背中に乗せる夢を見た。夢でなくなる日が早く来てほしい。
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