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第6章 聖獣、一方的な契約

26.魔法は無効、魔力は有効?(5)

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「……それって魔力が少ない人間は術を使われても、大したケガしない可能性があるってこと?」

「そうだ」

 うわぁ……魔力量が多いと、傷が深くなるってか。あの激痛の背中をサシャが癒してくれたからいいけど、治癒魔法使える奴がいなかったら、自分の魔力で切り裂いた痛みで寝られなかったかも……あれれ?

 眉を顰めて「うーん」と唸る。

「治癒魔法の仕組みは? 生き物に魔法が通用しないなら、治癒魔法も同じじゃないの?」

「本当に賢かったのだな」

 スコーンを割って口に運ぶリアムは驚いたように目を見開く。いい加減失礼だが、相手がリアムなので聞き流した。庭の一角は蔓が襲い掛かる薔薇に囲まれている。他人の目が気にならないので、以前も勉強の際に使った場所だった。

 伸びて絡み付こうとする蔓を魔力で弾くが、不思議とリアムは襲われないのだ。異世界人だから襲われるのかと思ったら、隣のヒジリも絡みつかれていた。尻尾で弾き飛ばしたけど。1人と1匹で薔薇と戦いながら、新しいお菓子に手を伸ばす。

 紅茶のスコーンの食べかすがリアムの唇の端に残っていることに気付き、ちょっと手を伸ばして指先で拭った。そのままぱくりと自分の指を咥える。

 うん、いま食べかけの焼き菓子より美味しい。次はこっちを食べよう。

「……セイっ」

「何?」

 真っ赤な顔で叫んだリアムが立ち上がり、陶器のカップがカチャンと音を立てる。紅茶のスコーンを手元に引き寄せて首を傾げると、彼は何も言わずに椅子に座りなおした。首をかしげている間に、ヒジリが手のスコーンを横から咥える。

 なんて食い意地のはった獣だ。

「いや……何の話だったか」

 顔を赤くしたまま呟くリアムの後ろで、ポットを落としそうに驚く侍女の姿があった。ついでに言うなら、彼女の手に刺繍の施されたナプキンが握られている。もしかしてオレがリアムの口元を拭ったから、彼女の仕事を奪ってしまったとか? だとしたら、悪いことをした。

「治癒魔法の仕組み」

 謝ったほうがいいかな。迷いながらリアムに返事をすると、深呼吸して気合を入れたリアムが口を開いた。仕方なく謝罪は後回しにする。

「治癒魔法は、正確には魔法ではない。対象の魔力の流れを整え、誘導し、自己治癒力を導く手腕を治癒魔法と呼んでいる。こちらも術と同じで、本人の魔力量に左右されるものだ」

 サシャが治療した際は、術によって乱れたオレの魔力を整えて、治癒したってことか。凄い早さで楽になったから、魔法って凄いと思ったんだけど……あれもオレの非常識な魔力量の結果だったわけだ。そういや、バズーカ砲を3発撃ったら驚かれたが、通常はもっと魔力量が少ないのかも知れない。

「オレやリアムなら、早くケガが治るって意味?」

「そうだ。飲み込みが早い」
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