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第30章 マロンの複雑な事情
209.思ったより重い計画(3)
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後になれば、見せないことはジャックへの気遣いだったと知る。
何があったか尋ねても、父は青ざめた顔で何も言わない。義母はただ泣くだけ。双子ゆえに感情を共有した妹は恐怖に震える。引退して別宅に住む祖父に幼い妹が引き取られた頃、ようやく事情が分かった。それは顔を出した夜会の噂話だった。
弟は、王子の誘いを断った――と。側近になる話ではない。顔立ちがそっくりな妹ともども、愛人になれと命じられたのだ。自分だけならまだしも、妹を巻き込めないと断った。直後、激昂した王子の剣に足を切られ……動けない状態で全身を刻まれて……穢された。最後は首まで切り落とされたという。
眉をひそめて話す貴族たちは、家族であるジャックが聞き耳を立てていると気づかず、最後にこう締め括った。他にも犠牲者が出ているが、王家に子供は1人だけ――どんなに暴君だろうと殺せない。
絶望した。自分が仕える主君は幼い弟を殺し、妹を襲おうとした存在なのに、罰を与えることさえ出来ない。王家が聖獣の契約を持つ限り、何をしても殺すわけにいかないのだ。父の次は自分が宰相となり、民のために尽くすのだと思っていた。その夢や希望を打ち砕く真実に、そのまま飛び出した。
二度と帰りたくなくて、森の中で彷徨っていたところを傭兵団に拾われたのだという。ノアとサシャはその頃から一緒で、途中でライアンが加わった。
壮絶な過去だ。彼自身が傷つけられたのは体ではなく、心だった。それを「軽い」と言える奴がいたら殴ってやる。悔しくて、悲しくて、自分が情けなかっただろう。兄として弟を守ってやれず、祖父に預ける形でしか妹を救えず……無力感に苛まれた。
「……オレは安い同情はしない。だけど、東の国の王家はスノーが契約を解除した。もう殺してもいいよ」
震えず、掠れさせず声を出せた。何度も舌で唇を湿らせ、喉に力を入れて呟いた声は無感情に響く。その意味に気づいたジャックの大きな手が、くしゃりとオレの髪を撫でる。
ああ、そっか。ジャックにとって、拾った頃のオレは弟の代わりだったんだ。だから面倒を見て、拐われたら必死に探してくれた。赤瞳の竜で暴走する可能性があっても、見捨てずに庇った。得心が行ったオレの頬に流れた一筋を、ヒジリが隠すように舐める。
「仇を討とうぜ、お兄ちゃん」
「……っ、そうだな」
照れ臭そうにジャックは足早にテントに向かい、振り返って手招きした。
「早く来い。風邪ひくぞ」
「おう!」
いつも通りに答えて、ジャックの姿がテントに入ったのを見届けて、もう一筋だけ涙を零す。乱暴に拭って、震える息を深呼吸のフリで誤魔化した。
「ベルナルド、戻ろう」
「はっ」
何も聞かないベルナルドを従え、オレはテントに戻る。すでに毛布を被ったジャックに「おやすみ」と声をかけて、言葉を発しないヒジリと一緒に簡易ベッドに横たわった。
何があったか尋ねても、父は青ざめた顔で何も言わない。義母はただ泣くだけ。双子ゆえに感情を共有した妹は恐怖に震える。引退して別宅に住む祖父に幼い妹が引き取られた頃、ようやく事情が分かった。それは顔を出した夜会の噂話だった。
弟は、王子の誘いを断った――と。側近になる話ではない。顔立ちがそっくりな妹ともども、愛人になれと命じられたのだ。自分だけならまだしも、妹を巻き込めないと断った。直後、激昂した王子の剣に足を切られ……動けない状態で全身を刻まれて……穢された。最後は首まで切り落とされたという。
眉をひそめて話す貴族たちは、家族であるジャックが聞き耳を立てていると気づかず、最後にこう締め括った。他にも犠牲者が出ているが、王家に子供は1人だけ――どんなに暴君だろうと殺せない。
絶望した。自分が仕える主君は幼い弟を殺し、妹を襲おうとした存在なのに、罰を与えることさえ出来ない。王家が聖獣の契約を持つ限り、何をしても殺すわけにいかないのだ。父の次は自分が宰相となり、民のために尽くすのだと思っていた。その夢や希望を打ち砕く真実に、そのまま飛び出した。
二度と帰りたくなくて、森の中で彷徨っていたところを傭兵団に拾われたのだという。ノアとサシャはその頃から一緒で、途中でライアンが加わった。
壮絶な過去だ。彼自身が傷つけられたのは体ではなく、心だった。それを「軽い」と言える奴がいたら殴ってやる。悔しくて、悲しくて、自分が情けなかっただろう。兄として弟を守ってやれず、祖父に預ける形でしか妹を救えず……無力感に苛まれた。
「……オレは安い同情はしない。だけど、東の国の王家はスノーが契約を解除した。もう殺してもいいよ」
震えず、掠れさせず声を出せた。何度も舌で唇を湿らせ、喉に力を入れて呟いた声は無感情に響く。その意味に気づいたジャックの大きな手が、くしゃりとオレの髪を撫でる。
ああ、そっか。ジャックにとって、拾った頃のオレは弟の代わりだったんだ。だから面倒を見て、拐われたら必死に探してくれた。赤瞳の竜で暴走する可能性があっても、見捨てずに庇った。得心が行ったオレの頬に流れた一筋を、ヒジリが隠すように舐める。
「仇を討とうぜ、お兄ちゃん」
「……っ、そうだな」
照れ臭そうにジャックは足早にテントに向かい、振り返って手招きした。
「早く来い。風邪ひくぞ」
「おう!」
いつも通りに答えて、ジャックの姿がテントに入ったのを見届けて、もう一筋だけ涙を零す。乱暴に拭って、震える息を深呼吸のフリで誤魔化した。
「ベルナルド、戻ろう」
「はっ」
何も聞かないベルナルドを従え、オレはテントに戻る。すでに毛布を被ったジャックに「おやすみ」と声をかけて、言葉を発しないヒジリと一緒に簡易ベッドに横たわった。
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