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第34章 婚約まで走り抜けろ
294.丸投げ作戦は順調だ(2)
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「騙されてない」
言い切って足元へ魔法陣を描いた。光が踊りながら文字を作り出し、模様を描いていく。完成した魔法陣に関係者を乗せ、オレは官舎の入り口へと飛んだ。
犯人を引きずって移動するジャック達を見送り、じいやがリアムとオレをお茶に誘う。ベルナルド付きで官舎に足を踏み入れ、がらんとした静かな食堂を見回した。そうか、みんな北の国で働いてるんだっけ。
常に多くの傭兵で賑わっていた官舎が、こんなに静かなのは初めてか? オレが全員を引き連れて出かける時は、戻ってくるのも一緒だったし。
じいやが手早くお茶を淹れる手元を見ながら、根拠のない不安でリアムの手を握る。強く握り返されて顔を上げ、息をのんだ。ほわりと柔らかな笑みを浮かべたリアム……どう見ても女性にしか見えない。出会った頃の凛々しい姿も素敵だけど、今の彼女は本当に、ただただ綺麗だった。表現できない自分がもどかしい。
照れた様子のリアムが何度か唇を湿らせてから、小さく呼びかける。その声に耳を傾けた。何を言うんだろう。近づいてキスで塞いでみたい。
「セイ、私は」
ドキドキしながら続きの言葉を待つオレの耳に飛び込んだのは、女性の声だった。世間的には美しいとか麗しいと表現される美女の叫び声は、しかし愛しいリアムのものではない。
「いた!! 転移魔法陣の仕組みを教えなさいよ、キヨ! 私とあなたの仲じゃない」
「キヨ様と呼べ! それと仲はない」
思わず叫び返していた。いいとこだったんだ、キスできそうな雰囲気もあったし、邪魔者もいないはず。そう思っていたのに、誤解されそうな言葉を撒き散らしながら、メッツァラ公爵令嬢は飛び込んできた。ドレスではなく、魔術師のローブ姿だ。宮廷魔術師の資格があるんだっけね。
「ヴィヴィアン嬢、久しぶりだ」
切り替えた皇帝陛下バージョンのリアムが返答し、オレは崩れるように机に顔を押し付けた。くそっ、くそ。邪魔するタイミングが兄妹そっくりだぞ。嫌なタイミングで現れやがって。
「よくやりました、ヴィヴィアン。おかえりなさいませ、陛下。ついでにキヨ」
オレはついでか? シフェルの声に全身から力が抜けた。キスのチャンスは遠のいていく。悔しいが一度諦めるか。深呼吸して気持ちを落ち着けながら、入ってきたメッツァラ公爵と妹令嬢に向き直った。
じいやがお茶のカップを足していく。手際良く菓子も追加された。場所が傭兵の官舎じゃなけりゃ、優雅なお茶会そのものだろう。
「セイ、こちらを向いて」
言われるまま隣を向いた瞬間、するりと白い手がオレの頬を撫でる。嬉しいのと驚きでフリーズした。近づいた蒼い瞳と見つめ合いながら、触れて離れた柔らかさを追うように手で唇を押さえた。
一瞬だけ触れて離れたのは、間違いなくリアムの唇。甘い香りとしっとりした温もりが残っていた。
「いま……」
「先に部屋に戻っている。後で来てくれ」
「あ、うん」
もちろん。夕食を一緒に食べようと約束して別れ、ベルナルドに送っていくようお願いした。そこまでは理性を保っていたのだが、彼女の姿が視界から消えた途端に椅子から転げ落ちる。掃除しても汚れが目立つ床を転がり、うおおお! と絶叫した。
「キスしちゃった」
「キヨ、落ち着きなさい。今のは幻覚です」
幻覚で片付けようとするシフェルの震える声、素敵と踊りまくる宮廷魔術師ヴィヴィアン嬢。そして、感情の見えない笑みを浮かべて叱るじいや。
「キヨ様、お召し物が汚れます。作法としても問題がございますよ」
「わかってるけど、あと5分だけ見逃して」
転がりながら昂る感情を散らし、オレは約束通り5分後に起き上がった。汚れた淡い金髪を手櫛で撫でながら、まだ緩む口元を引き締める。
「最高に幸せなんだけど」
言い切って足元へ魔法陣を描いた。光が踊りながら文字を作り出し、模様を描いていく。完成した魔法陣に関係者を乗せ、オレは官舎の入り口へと飛んだ。
犯人を引きずって移動するジャック達を見送り、じいやがリアムとオレをお茶に誘う。ベルナルド付きで官舎に足を踏み入れ、がらんとした静かな食堂を見回した。そうか、みんな北の国で働いてるんだっけ。
常に多くの傭兵で賑わっていた官舎が、こんなに静かなのは初めてか? オレが全員を引き連れて出かける時は、戻ってくるのも一緒だったし。
じいやが手早くお茶を淹れる手元を見ながら、根拠のない不安でリアムの手を握る。強く握り返されて顔を上げ、息をのんだ。ほわりと柔らかな笑みを浮かべたリアム……どう見ても女性にしか見えない。出会った頃の凛々しい姿も素敵だけど、今の彼女は本当に、ただただ綺麗だった。表現できない自分がもどかしい。
照れた様子のリアムが何度か唇を湿らせてから、小さく呼びかける。その声に耳を傾けた。何を言うんだろう。近づいてキスで塞いでみたい。
「セイ、私は」
ドキドキしながら続きの言葉を待つオレの耳に飛び込んだのは、女性の声だった。世間的には美しいとか麗しいと表現される美女の叫び声は、しかし愛しいリアムのものではない。
「いた!! 転移魔法陣の仕組みを教えなさいよ、キヨ! 私とあなたの仲じゃない」
「キヨ様と呼べ! それと仲はない」
思わず叫び返していた。いいとこだったんだ、キスできそうな雰囲気もあったし、邪魔者もいないはず。そう思っていたのに、誤解されそうな言葉を撒き散らしながら、メッツァラ公爵令嬢は飛び込んできた。ドレスではなく、魔術師のローブ姿だ。宮廷魔術師の資格があるんだっけね。
「ヴィヴィアン嬢、久しぶりだ」
切り替えた皇帝陛下バージョンのリアムが返答し、オレは崩れるように机に顔を押し付けた。くそっ、くそ。邪魔するタイミングが兄妹そっくりだぞ。嫌なタイミングで現れやがって。
「よくやりました、ヴィヴィアン。おかえりなさいませ、陛下。ついでにキヨ」
オレはついでか? シフェルの声に全身から力が抜けた。キスのチャンスは遠のいていく。悔しいが一度諦めるか。深呼吸して気持ちを落ち着けながら、入ってきたメッツァラ公爵と妹令嬢に向き直った。
じいやがお茶のカップを足していく。手際良く菓子も追加された。場所が傭兵の官舎じゃなけりゃ、優雅なお茶会そのものだろう。
「セイ、こちらを向いて」
言われるまま隣を向いた瞬間、するりと白い手がオレの頬を撫でる。嬉しいのと驚きでフリーズした。近づいた蒼い瞳と見つめ合いながら、触れて離れた柔らかさを追うように手で唇を押さえた。
一瞬だけ触れて離れたのは、間違いなくリアムの唇。甘い香りとしっとりした温もりが残っていた。
「いま……」
「先に部屋に戻っている。後で来てくれ」
「あ、うん」
もちろん。夕食を一緒に食べようと約束して別れ、ベルナルドに送っていくようお願いした。そこまでは理性を保っていたのだが、彼女の姿が視界から消えた途端に椅子から転げ落ちる。掃除しても汚れが目立つ床を転がり、うおおお! と絶叫した。
「キスしちゃった」
「キヨ、落ち着きなさい。今のは幻覚です」
幻覚で片付けようとするシフェルの震える声、素敵と踊りまくる宮廷魔術師ヴィヴィアン嬢。そして、感情の見えない笑みを浮かべて叱るじいや。
「キヨ様、お召し物が汚れます。作法としても問題がございますよ」
「わかってるけど、あと5分だけ見逃して」
転がりながら昂る感情を散らし、オレは約束通り5分後に起き上がった。汚れた淡い金髪を手櫛で撫でながら、まだ緩む口元を引き締める。
「最高に幸せなんだけど」
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