1,055 / 1,100
第35章 ざまぁは熱いうちに打て
327.ヒジリの治療は高くつく(1)
しおりを挟む
無事だったぁ……膝から力が抜けて座り込む。振り返った侍女が息を飲んだ。リアは眠っているのか、目を開けないが呼吸は感じ取れた。薄掛けをかけた胸元が僅かに動いている。
「……誰か、事情を教えて」
呟いた声をかき消すような騒ぎに、オレは振り返る。後ろの扉を叩くシンとヴィオラの騒ぎに苦笑いした。声が漏れてるぞ。一度立ち上がり、扉の前で話しかける。
「ケガ人の部屋だから静かにして。オレは何ともない」
さすがに2人とも黙った。オレが突然扉をすり抜けたんで、驚かせたと思うけど……そもそも突然の転移だったし。コウコがするりと足を伝って腹に巻きついた。ベルトのようだ。
『ごめんなさい、知らせるのが遅くなってしまったわ。彼女に大きなケガはないの。襲撃犯から逃げるときに、転んでしまっただけ。今は落ち着かせて眠らせたところよ』
「うん、ありがとう。コウコが守ってくれたんだよな」
音を出さないよう気をつけて、リアの顔を覗き込む。侍女達が気を利かせて場所を空けてくれた。枕元で膝を突いて彼女の手に触れる。握らずに、上掛けに乗せられた指先に重ねるだけ。温かいし、眠ってるだけ。大丈夫、オレの結界もあったんだから。
自分に言い聞かせ、後ろ髪を引かれる思いで部屋を出た。シンとヴィオラは何も言わない。リアの専属侍女が一人、部屋から出てオレに頷いた。説明してくれるらしい。クリスティーンやシフェルがいないのが気になった。
「ねえ、護衛のシフェルは?」
「メッツァラ公爵夫妻は、陛下を守って手傷を負い、治療中です」
オレの想像より大規模な襲撃だったらしい。近衛騎士で無事だった者がリアの部屋を守り、残りは治療中だという。侍女が向かう先は、騎士団が使う建物に通じる廊下だった。
「ヒジリ、治療を頼むかも」
『主殿の命令とあらば、我に異存はなし』
のっそりと足元から顔を見せた黒豹は、オレの手に頭を擦り付ける。猫科特有の甘える仕草に、慰められたのかな? と手を動かした。ゆっくり撫でるたび、ささくれ立った神経が穏やかになっていく。気持ちを落ち着けて、騎士団の本部へ足を踏み入れた。
散らかった現場は戦場ほどでないにしろ、血の臭いが漂う。クリスティーンは赤く濡れた金髪を乱雑に結び、右腕の切り傷を縫われていた。シフェルは心配そうに身を起こすたび、周囲に注意されて横になる繰り返し。どうやら腹か背に傷を負ったらしい。
オレや皇帝陛下の侍女が来たことに気づかない現場で、オレはパチンと大きな音で手を叩いた。注目が集まる。そこで声を張り上げた。
「聖獣のヒジリに治療をさせるから、重傷の人を教えて」
「隊長です」
「公爵閣下から」
言われてよく見れば、上半身血塗れだった。どんだけ出血したんだ? 右手の指先も切れてる上、左足かな? も出血するケガだったらしい。ベッドの上に横たわる重傷者に近づき、にやりと笑う。
「治してあげようか?」
「キヨ、すぐにお願いします。皇帝陛下の警護に戻ります」
言われて慌てた。
「コウコ、戻って。リアが狙われるかも!」
『今は、スノーとマロンが残ってるわ。医師や侍女も同席してるから問題ないわよね』
先回りして懸念材料を潰され、ほっとして頷く。
「うん、ありがとう」
視線を戻すと、シフェルはぐったりとベッドに沈んでいた。安心して気が抜けたのか。痛みで顔が歪んだ。美形って、どんな顔しても美形なんだよな。鼻をほじっても美形なんだろうか。ちょっとした興味が湧くが、動けないケガ人相手は卑怯だから諦めた。
「……誰か、事情を教えて」
呟いた声をかき消すような騒ぎに、オレは振り返る。後ろの扉を叩くシンとヴィオラの騒ぎに苦笑いした。声が漏れてるぞ。一度立ち上がり、扉の前で話しかける。
「ケガ人の部屋だから静かにして。オレは何ともない」
さすがに2人とも黙った。オレが突然扉をすり抜けたんで、驚かせたと思うけど……そもそも突然の転移だったし。コウコがするりと足を伝って腹に巻きついた。ベルトのようだ。
『ごめんなさい、知らせるのが遅くなってしまったわ。彼女に大きなケガはないの。襲撃犯から逃げるときに、転んでしまっただけ。今は落ち着かせて眠らせたところよ』
「うん、ありがとう。コウコが守ってくれたんだよな」
音を出さないよう気をつけて、リアの顔を覗き込む。侍女達が気を利かせて場所を空けてくれた。枕元で膝を突いて彼女の手に触れる。握らずに、上掛けに乗せられた指先に重ねるだけ。温かいし、眠ってるだけ。大丈夫、オレの結界もあったんだから。
自分に言い聞かせ、後ろ髪を引かれる思いで部屋を出た。シンとヴィオラは何も言わない。リアの専属侍女が一人、部屋から出てオレに頷いた。説明してくれるらしい。クリスティーンやシフェルがいないのが気になった。
「ねえ、護衛のシフェルは?」
「メッツァラ公爵夫妻は、陛下を守って手傷を負い、治療中です」
オレの想像より大規模な襲撃だったらしい。近衛騎士で無事だった者がリアの部屋を守り、残りは治療中だという。侍女が向かう先は、騎士団が使う建物に通じる廊下だった。
「ヒジリ、治療を頼むかも」
『主殿の命令とあらば、我に異存はなし』
のっそりと足元から顔を見せた黒豹は、オレの手に頭を擦り付ける。猫科特有の甘える仕草に、慰められたのかな? と手を動かした。ゆっくり撫でるたび、ささくれ立った神経が穏やかになっていく。気持ちを落ち着けて、騎士団の本部へ足を踏み入れた。
散らかった現場は戦場ほどでないにしろ、血の臭いが漂う。クリスティーンは赤く濡れた金髪を乱雑に結び、右腕の切り傷を縫われていた。シフェルは心配そうに身を起こすたび、周囲に注意されて横になる繰り返し。どうやら腹か背に傷を負ったらしい。
オレや皇帝陛下の侍女が来たことに気づかない現場で、オレはパチンと大きな音で手を叩いた。注目が集まる。そこで声を張り上げた。
「聖獣のヒジリに治療をさせるから、重傷の人を教えて」
「隊長です」
「公爵閣下から」
言われてよく見れば、上半身血塗れだった。どんだけ出血したんだ? 右手の指先も切れてる上、左足かな? も出血するケガだったらしい。ベッドの上に横たわる重傷者に近づき、にやりと笑う。
「治してあげようか?」
「キヨ、すぐにお願いします。皇帝陛下の警護に戻ります」
言われて慌てた。
「コウコ、戻って。リアが狙われるかも!」
『今は、スノーとマロンが残ってるわ。医師や侍女も同席してるから問題ないわよね』
先回りして懸念材料を潰され、ほっとして頷く。
「うん、ありがとう」
視線を戻すと、シフェルはぐったりとベッドに沈んでいた。安心して気が抜けたのか。痛みで顔が歪んだ。美形って、どんな顔しても美形なんだよな。鼻をほじっても美形なんだろうか。ちょっとした興味が湧くが、動けないケガ人相手は卑怯だから諦めた。
32
あなたにおすすめの小説
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜
あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい!
ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット”
ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで?
異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。
チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。
「────さてと、今日は何を読もうかな」
これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。
◆小説家になろう様でも、公開中◆
◆恋愛要素は、ありません◆
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました
黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。
彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。
戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。
現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと!
「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」
ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。
絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。
伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進!
迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る!
これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー!
美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。
人生、逆転できないことなんて何もない!
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる