【完結】魔法は使えるけど、話が違うんじゃね!?

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

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第35章 ざまぁは熱いうちに打て

327.ヒジリの治療は高くつく(1)

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 無事だったぁ……膝から力が抜けて座り込む。振り返った侍女が息を飲んだ。リアは眠っているのか、目を開けないが呼吸は感じ取れた。薄掛けをかけた胸元が僅かに動いている。

「……誰か、事情を教えて」

 呟いた声をかき消すような騒ぎに、オレは振り返る。後ろの扉を叩くシンとヴィオラの騒ぎに苦笑いした。声が漏れてるぞ。一度立ち上がり、扉の前で話しかける。

「ケガ人の部屋だから静かにして。オレは何ともない」

 さすがに2人とも黙った。オレが突然扉をすり抜けたんで、驚かせたと思うけど……そもそも突然の転移だったし。コウコがするりと足を伝って腹に巻きついた。ベルトのようだ。

『ごめんなさい、知らせるのが遅くなってしまったわ。彼女に大きなケガはないの。襲撃犯から逃げるときに、転んでしまっただけ。今は落ち着かせて眠らせたところよ』

「うん、ありがとう。コウコが守ってくれたんだよな」

 音を出さないよう気をつけて、リアの顔を覗き込む。侍女達が気を利かせて場所を空けてくれた。枕元で膝を突いて彼女の手に触れる。握らずに、上掛けに乗せられた指先に重ねるだけ。温かいし、眠ってるだけ。大丈夫、オレの結界もあったんだから。

 自分に言い聞かせ、後ろ髪を引かれる思いで部屋を出た。シンとヴィオラは何も言わない。リアの専属侍女が一人、部屋から出てオレに頷いた。説明してくれるらしい。クリスティーンやシフェルがいないのが気になった。

「ねえ、護衛のシフェルは?」

「メッツァラ公爵夫妻は、陛下を守って手傷を負い、治療中です」

 オレの想像より大規模な襲撃だったらしい。近衛騎士で無事だった者がリアの部屋を守り、残りは治療中だという。侍女が向かう先は、騎士団が使う建物に通じる廊下だった。

「ヒジリ、治療を頼むかも」

『主殿の命令とあらば、我に異存はなし』

 のっそりと足元から顔を見せた黒豹は、オレの手に頭を擦り付ける。猫科特有の甘える仕草に、慰められたのかな? と手を動かした。ゆっくり撫でるたび、ささくれ立った神経が穏やかになっていく。気持ちを落ち着けて、騎士団の本部へ足を踏み入れた。

 散らかった現場は戦場ほどでないにしろ、血の臭いが漂う。クリスティーンは赤く濡れた金髪を乱雑に結び、右腕の切り傷を縫われていた。シフェルは心配そうに身を起こすたび、周囲に注意されて横になる繰り返し。どうやら腹か背に傷を負ったらしい。

 オレや皇帝陛下の侍女が来たことに気づかない現場で、オレはパチンと大きな音で手を叩いた。注目が集まる。そこで声を張り上げた。

「聖獣のヒジリに治療をさせるから、重傷の人を教えて」

「隊長です」

「公爵閣下から」

 言われてよく見れば、上半身血塗れだった。どんだけ出血したんだ? 右手の指先も切れてる上、左足かな? も出血するケガだったらしい。ベッドの上に横たわる重傷者に近づき、にやりと笑う。

「治してあげようか?」

「キヨ、すぐにお願いします。皇帝陛下の警護に戻ります」

 言われて慌てた。

「コウコ、戻って。リアが狙われるかも!」

『今は、スノーとマロンが残ってるわ。医師や侍女も同席してるから問題ないわよね』

 先回りして懸念材料を潰され、ほっとして頷く。

「うん、ありがとう」

 視線を戻すと、シフェルはぐったりとベッドに沈んでいた。安心して気が抜けたのか。痛みで顔が歪んだ。美形って、どんな顔しても美形なんだよな。鼻をほじっても美形なんだろうか。ちょっとした興味が湧くが、動けないケガ人相手は卑怯だから諦めた。
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