【完結】魔法は使えるけど、話が違うんじゃね!?

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

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第35章 ざまぁは熱いうちに打て

329.1人いたらもう1人(2)

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「おかえり、セイ」

 この呼び名も慣れた。リアの柔らかな声によく似合うし、彼女にとってのオレが特別な証拠だから嬉しい。

「ただいま、もう起きて平気なの?」

「転んだだけだが、心配させてしまったか?」

「口調が硬いよ」

 隣に座って黒髪にキスをする。日本人で生活してた時は、黒髪をこんなに綺麗だと思ったことはない。みんな同じだから、特に興味もなかった。染めたのも中学生の頃だけで、すぐに面倒になってやめた程度の感覚だ。なのに、リアの黒髪はとても魅力的だった。

 こっちに来て、イケメンにしてもらって淡い金髪と紫瞳になった。その直後に出会ったリアに一目惚れしたんだから、結局惚れる相手の色がピンクでも黒でも関係ないんだな。

「襲撃犯の眼帯野郎は、ヴィヴィアンに預けてきたからね」

 安心してくれと言うつもりで説明したところ、きょとんとした顔で首を傾げた。こてりと倒れる首が愛らしいぞ。同じように首を傾げて視線を合わせたら、リアが笑いながらオレの首を戻した。

「私を襲った者は眼帯などしていなかったぞ。ただ前髪が長くて目の下まで覆っていたが」

「……妖怪、毛女郎かな?」

「よくわからないが、男の声だった」

 証言を元に頭の中に描いたのは、前後が分からないほど毛に覆われた男……妖怪じゃなく変態か。

「眼帯野郎は何もしなかったの?」

「告白された」

 普通は顔を赤らめる場面だが、リアの顔色は青い。本音では安心した。嬉しそうに頬を染めながら言われたら、眼帯野郎の未来は終了だった。

「シフェル達と戦ったのは、毛むくじゃら?」

「そこまで毛に覆われてなかったが、そうだな」

 中途半端な否定をさらりと流し、考え込む。さっき異世界人が複数いる可能性を口にしたばかりだが、どうやら2人で間違いなさそうだ。眼帯野郎は鈍臭いから置いていかれ、もう1人の毛女郎は逃げたと。

「逃げた奴の特徴、毛の色とか覚えてない?」

「黒髪でした」

 一緒に居て、リアを庇って逃げた侍女が静かに答える。こう言う場面で口を挟むのは珍しいと思ったら、許可を得るなり勢いよく捲し立てた。腹が立っていたらしい。

 要約すると――麗しの皇帝陛下は愛らしいドレスを身に纏い、ウィッグを被って着飾っていた。眼帯野郎が玄関ホール付近で騒動を起こし、知らずに通った彼女に惚れる。毛玉野郎が「重要人物だ」と叫んでリアの拘束を試みるが、シフェルやクリスティーン達騎士が防ぐ。攻防の中、毛玉野郎が突然逃げた。

「逃げる直前、妙な言葉を……チート野郎、絶対に許さねえとか」

 オレのことか? もしかして聖獣コウコを護衛につけたことに関係あるかも。何にしろ、名前はわからないが外見で指名手配だ。

 近衛騎士団も動くし、レイルにも依頼をかけ、独自に探るとじいやが外出許可を求めたので頷く。あっという間に手配を終えると、リアの頬に手を当てる。熱はなさそう。

「リアが無事でよかった。襲撃されたと聞いて、心臓が止まるところだった」

「安心してくれ、貞操を守るための魔法陣は持っている」

 やや膨らみを帯びた胸元から、ずるりと紙が引き出される。僅かな温もりの残るそれを手渡され、紳士的に受け取った。本音だと顔を押し付けたい。が、我慢だ。

「発動するとどうなるの?」

「触れた相手を串刺しにするらしい。ヴィヴィアン発案だぞ」

 こえええ! 普通に弾くとか、びりっとするスタンガンレベルの武器を想像してた。甘かった。でもリアが持つならこのくらいの方が……え? オレ相手に発動しないよな?

「は、発動条件を聞いても?」

「女の秘密だ」

 にっこり笑うリアに、咄嗟に微笑み返しながら、内心で恐れ慄くオレだった。
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