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25.何を優先すべきか、間違えることはない

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 狡猾で貪欲な女、それが王妃の印象だ。嫌悪を隠す必要もなく、敬う相手とも思わなかった。だから弟であるシモーニ公爵リベルトに注意する。王妃は絶対に何らかの手段で、ジェラルディーナに接触を試みると。まだ王妃を信じている純粋な姫に、使者と話をさせてはいけない。

 言い聞かされた弟は半信半疑の様子だった。王妃には領地に戻る旨を説明し、彼女が納得したと思っているのだ。国の頂点に立つ国母である王妃が、無理やりジェラルディーナを連れ戻す危険など考えもしない。それが普通だ。最初から疑っていなければ、この悪意に気づくのは難しかった。

 幼いジェラルディーナ姫を親元から引き離す話が出た時も注意した。しかしまだ根拠に乏しく、預けた後に監視しておかしな動きがあれば介入するつもりで、あれこれと宮廷内に手を回す。分家から数人の女性を選び、王宮へ侍女として送り込んだ。

 王宮に勤める資格があるのは、親に貴族位を持つ者だ。次男や次女を中心に、跡取りではない子息令嬢から選んでもらった。数年がかりの任務だが、彼や彼女らは本家を守る重要性を理解している。

 シモーニ公爵家はもうひとつの王家なのだから。絶対に血を絶やしてはならない。分家が己を犠牲にしても守る存在、この認識は分家共通の物だった。王宮内に入り込んだ侍女や侍従は、次々と情報を持ち帰った。その内容に当初は違和感を覚えなかったのだ。

 対応が遅れた責任は、指揮を執った分家頭の自分だ。アロルドはそう考える。己を責めるのも、責任を取るのも事件が終わってからすること。今は本家の姫を守るために動き、己の持つ能力や肩書きを最大限に利用する。リベルトはまだ王妃を疑いきれていなかった。この状態で姫を渡したら、二度と救出できない。

「姫、林檎はいかがかな?」

「ありがとうございます」

「どういたしまして」

 丁寧に剥いた林檎を差し出す。侍女達のように飾り切りは出来ないが、ジェラルディーナは喜んでくれた。微笑む彼女の純粋さを穢されなかったことは、唯一の救いだろう。王妃も姫を傷つける気はなかった。だから我らが気づくのも遅れたのだ。

 己の意のままになる人形のように、姫が王妃だけを味方と思い込むよう仕向けられている。その事実は、巻き込まれた現場に立つ当事者には見えないだろう。外にいて、冷静に判断するから理解できる。

 王家を示す紋章を付けた馬に乗る使者が到着し、出ていこうとする姫を留めた。弟は公爵として謀略を退けた経験もある。姫の居場所を上手に隠したまま応対し始めた。親書を受け取り目を通し、帰るように促す。食い下がる使者は、おそらく姫に直接手紙を渡すよう命じられていたはず。

 強固に拒むシモーニ公爵の対応に、諦めた様子で踵を返した。気の毒だが、彼は王妃に罰を与えられるだろう。それでも優先順位は本家だった。

 父が受け取った親書を気にする姫に、リベルトは誤魔化して内容を答えなかった。その表情は政を行う時のもので、感情を上手に消している。

「早く領地に入ろう。今夜は屋敷でゆっくり眠れるぞ」

「楽しみですわ」

 何も知らずに微笑む姫。それでいい。ジェラルディーナが汚い世界を目にする必要はないのだから。領地内に無事入った馬車を見た時、一番安心したのは俺かも知れない。アロルドは馬の上で、笑いだしたくなる衝動を耐えた。
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