【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
31 / 79

31.胸の空白を埋める宝物の積み重ね

しおりを挟む
 穏やかに過ぎていく数日は、胸に空いた穴を塞ぐ宝物のようでした。最初の夜は伯父様達も含めて集まってくれた分家の方々や家族と食事を済ませ、甘える弟と並んで眠る。もう絵本を読み聞かせる歳ではないけれど、王宮での小さな話をいくつか話した。

 ダヴィードの勉強や剣術、分家の跡取り達と過ごした休暇の話に頬が緩む。次はお姉さまもご一緒にと誘われ、社交辞令でないことを祈りつつ頷いた。疲れて眠ったダヴィードの肩まで包んで、隣で目を閉じる。久しぶりの実家は余所余所しいかと思ったけれど、優しい。

 翌日は約束通りお母様と家具を選んだ。使われていない家具の中に、美しいセットを見つける。ベッドからドレッサーや応接セットまで、すべて同じ素材で統一されていた。白い木目を生かし、苺の葉や実を彫刻した逸品だ。

「私の嫁入りの道具だったの。よかったら、ルーナが使ってちょうだい」

「ですが……」

 花嫁道具であったなら、お母様の大切な思い出ではありませんか? 辞退しようとした私に、お母様は思わぬことを仰いました。

「嫁いで来たら、あの人が全部用意してくれていたのよ。それで持ってきたこれを使うと言えなくて、執事に頼んでこっそり隠したの」

 お父様には内緒よ。そう囁いたお母様の微笑みは幸せそうで、この家具を見るたび思い出す甘酸っぱい記憶なのだと理解しました。使わないのはもったいない。でも準備して到着を心待ちにした夫の気持ちも大切。お母様はお父様を愛しておられるのですね。

 幸せな結婚をして、その陰でこうしてしまわれた婚礼家具達。丁寧に仕上げられた彫刻は美しく、繊細で心惹かれました。お母様が重ねて勧めてくださるので、こちらの家具を譲り受けて使うことにします。人工的な着色ではなく、天然の素材で淡く色を重ねた家具はその日のうちに運び込まれました。

 代わりに幼い頃に使用した家具が片付けられます。思い出の品なので、入れ替わりに保管するのだとか。もう着られない小さなドレスや靴は、分家の幼い少女達に分け与えることにしました。型遅れを心配しましたが、質の良いドレスなので飾りを付け替えて使用できるそうです。

 大切に保管してくれた両親や侍女達に感謝しながら、ドレスを選ぶ少女達を見守りました。お父様が王都の屋敷を引き払ったことで、多くの分家が領地に戻っています。今年の社交シーズンの王宮は、少し寂しいかも知れませんね。

「本当に貰っても構わないのですか?」

 目を輝かせてオレンジ色のドレスを抱き締める少女に視線を合わせ、笑顔で「差し上げるから、大切に着てね」とお願いしました。まだ礼儀作法も身についていない年齢なのに、とても魅力的に見えます。もしかしたら、淑女に近づくほど魅力は半減するのでしょうか。

「お茶を淹れたわ、休憩にしましょう」

 お母様の一声で、少女達は連れてきた侍女にドレスを預けます。行儀よく並んで椅子に座り、用意された茶菓子に目を輝かせました。和やかで、礼儀より美味しく食べることを優先したお茶会は、王宮で行ったどのお茶会より楽しくて――私は自然に声を立てて笑っていました。
しおりを挟む
感想 264

あなたにおすすめの小説

婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~

ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」 義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。 父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。 けれど―― 公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。 王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。 さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。 そして下されたのは――家ごとの褫奪。 一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。 欲しがったのは肩書。 継いだのは責任。 正統は叫びません。 ただ、残るだけ。 これは、婚約を奪われた公爵令嬢が “本当に継がれるべきもの”を証明する物語。

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

私と幼馴染と十年間の婚約者

川村 あかり
恋愛
公爵令嬢ロゼリアは、王子アルベルトとの婚約を結んでいるが、彼の心は無自覚に幼馴染のミナに奪われていた。ミナの魔法【魅了】が無意識に周りの男性を狂わせ、アルベルトもその例外ではない。 それぞれが生まれつき得意な魔法があり、ロゼリアは見たものや聞いたものを完璧に記録できる【記録・再生】の魔法を持ち、二人の関係に耐えきれず胃の痛みに悩む日々。そんな中、彼女の唯一の理解者の冷静沈着なキースや毒舌のマリーが心の支えとなる。 アルベルトの側近であるガストンは、魔法【増幅】で騒動を盛り上げる一方、ミナの友人リリィは【幻影】の魔法を使ってロゼリアを貶めようと画策する。 婚約者と幼馴染の行動に振り回されるロゼリア。魔法が絡んだ恋愛模様の中で、彼女は本当の愛を見つけられるのか?

【完結】婚約破棄を3時間で撤回された足枷令嬢は、恋とお菓子を味わいます。

青波鳩子
恋愛
ヴェルーデ王国の第一王子アルフレッドと婚約していている公爵令嬢のアリシアは、お妃教育の最中にアルフレッドから婚約破棄を告げられた。 その僅か三時間後に失意のアリシアの元を訪れたアルフレッドから、婚約破棄は冗談だったと謝罪を受ける。 あの時のアルフレッドの目は冗談などではなかったと思いながら、アリシアは婚約破棄を撤回したいアルフレッドにとりあえず流されておくことにした。 一方のアルフレッドは、誰にも何にも特に興味がなく王に決められた婚約者という存在を自分の足枷と思っていた。 婚約破棄をして自由を得たと思った直後に父である王からの命を受け、婚約破棄を撤回する必要に迫られる。 婚約破棄の撤回からの公爵令嬢アリシアと第一王子アルフレッドの不器用な恋。 アリシアとアルフレッドのハッピーエンドです。 「小説家になろう」でも連載中です。 修正が入っている箇所もあります。 タグはこの先ふえる場合があります。

悪役令嬢は自称親友の令嬢に婚約者を取られ、予定どおり無事に婚約破棄されることに成功しましたが、そのあとのことは考えてませんでした

みゅー
恋愛
婚約者のエーリクと共に招待された舞踏会、公の場に二人で参加するのは初めてだったオルヘルスは、緊張しながらその場へ臨んだ。 会場に入ると前方にいた幼馴染みのアリネアと目が合った。すると、彼女は突然泣き出しそんな彼女にあろうことか婚約者のエーリクが駆け寄る。 そんな二人に注目が集まるなか、エーリクは突然オルヘルスに婚約破棄を言い渡す……。

【完結】恋は、終わったのです

楽歩
恋愛
幼い頃に決められた婚約者、セオドアと共に歩む未来。それは決定事項だった。しかし、いつしか冷たい現実が訪れ、彼の隣には別の令嬢の笑顔が輝くようになる。 今のような関係になったのは、いつからだったのだろう。 『分からないだろうな、お前のようなでかくて、エマのように可愛げのない女には』 身長を追い越してしまった時からだろうか。  それとも、特進クラスに私だけが入った時だろうか。 あるいは――あの子に出会った時からだろうか。 ――それでも、リディアは平然を装い続ける。胸に秘めた思いを隠しながら。

捨てられた令嬢と、選ばれなかった未来

鍛高譚
恋愛
「君とは釣り合わない。だから、僕は王女殿下を選ぶ」 婚約者アルバート・ロンズデールに冷たく告げられた瞬間、エミリア・ウィンスレットの人生は暗転した。 王都一の名門公爵令嬢として慎ましくも誠実に彼を支えてきたというのに、待っていたのは無慈悲な婚約破棄――しかも相手は王女クラリッサ。 アルバートと王女の華やかな婚約発表の裏で、エミリアは社交界から冷遇され、"捨てられた哀れな令嬢"と嘲笑される日々が始まる。 だが、彼女は決して屈しない。 「ならば、貴方たちが後悔するような未来を作るわ」 そう決意したエミリアは、ある人物から手を差し伸べられる。 ――それは、冷静沈着にして王国の正統な後継者、皇太子アレクシス・フォルベルト。 彼は告げる。「私と共に来い。……君の聡明さと誇りが、この国には必要だ」

処理中です...