63 / 173
63.甘くて酸っぱい果実(SIDEベアトリス)
*****SIDE ベアトリス
先日の騒ぎ以来、エリクは忙しいみたい。一緒に食事を取れない、と謝罪するエリクの手紙を貰ったのは昨日だった。一緒に大きな花束が添えられているところが、エリクらしいわ。私が機嫌を損ねると思ったのね。
一緒に食事を取れないことが数回あっても、それで私がエリクを責めることはないわ。皇帝陛下の肩書きにのしかかる責任や仕事量は想像がつくもの。
かつて王太子の代わりに執務の一部を代行させられた。その時も大変な量だったのよ。大陸すべてを征服しそうな帝国の頂点に立つ皇帝陛下が暇だったらおかしいわ。忙しさは朝も続いているようで、ごめんと謝罪があった。
ソフィにお願いして一緒に食べてもらおうとしたら、断られてしまったので、命令してしまったわ。1人の食事は味がしないから。以前はそれが当たり前だったのに、いつの間にこんなに贅沢になってしまったのかしら。
「皇帝陛下は、夜に姫様の寝顔を確認しに来られましたよ」
愛されていますね。果物を剥きながら、ソフィは微笑む。この国に来てから、ソフィは笑顔が増えた。そう言ったら、彼女に姫様も同じですよと返される。そうね、確かに以前より感情が動く気がするわ。笑ったり拗ねたり、エリクの心配をしたり。私の感情は数年分くらい動いたもの。
「恥ずかしいわ」
「姫様がそのように幸せそうなお顔をなさるなんて、皇帝陛下には感謝しかありませんわ」
薄い紫のドレスの裾を捌いて立ち上がったソフィが、私の前に果物を並べていく。綺麗な飾り切りの果物からひとつ選んで、口元に運んだ。甘酸っぱい味に頬が緩む。
「そんなに幸せそうかしら」
自分では分からない。ただ苦しかったり泣きたくなる時間は減った。大好きな野花に囲まれて、ソフィやエリクとお茶を飲んで、心穏やかに過ごす。これを幸せと呼ぶなら、過去の私に幸せはなかったでしょう。
「今もお幸せそう。ふふ……早く皇帝陛下にお時間が出来るといいですね」
照れてしまうけれど、今は私達だけだから……いいわよね。
「ええ。早く会いたいわ」
微笑んだ私はもうひとつ果物を口に入れた。今度はとても甘くて、紅茶をひと口含んだ。甘過ぎる果物は紅茶に合いそうね。でもエリクはきっと好きじゃないわ。彼の好きな食べ物や色、仕草も知りたい。これが恋なら、私は今まで誰とも恋愛をしてこなかった。
初めての恋ね。くすぐったい気持ちと恥ずかしい気持ちが入り混じって、照れ隠しのように別の果物を齧る。小ぶりで赤い果物は中が黄色で、顔を顰めるほど酸っぱかった。
「これ、酸っぱいわ」
「珍しいですわね。皇帝陛下がお持ちになる果物は甘いものばかりですのに」
不思議そうにしたソフィは、咄嗟に私が皿に戻した果物を切って口に運ぶ。それから同じように顔を顰めた。
「本当に酸っぱいですわ。これはやめましょう」
急いで口直しに甘酸っぱい果物を剥き始めたソフィの手元を見ながら、私はおかしくなって笑ってしまった。だって、こんな経験したことないから。嫌われ者だった私は無理だったけれど、もし同性の友人がいたら……こんな時間も過ごせたのかも。仮定の話を振り切るように首を振り、新しく用意された柑橘をソフィと分け合いました。
そうだわ、忙しいエリクに手紙を書きましょう。届けずに部屋に置いておけば、きっと夜に読んでくれるわ。思いつきをソフィに相談し、便箋やインクを選ぶ作業で午前中を潰してしまいました。
先日の騒ぎ以来、エリクは忙しいみたい。一緒に食事を取れない、と謝罪するエリクの手紙を貰ったのは昨日だった。一緒に大きな花束が添えられているところが、エリクらしいわ。私が機嫌を損ねると思ったのね。
一緒に食事を取れないことが数回あっても、それで私がエリクを責めることはないわ。皇帝陛下の肩書きにのしかかる責任や仕事量は想像がつくもの。
かつて王太子の代わりに執務の一部を代行させられた。その時も大変な量だったのよ。大陸すべてを征服しそうな帝国の頂点に立つ皇帝陛下が暇だったらおかしいわ。忙しさは朝も続いているようで、ごめんと謝罪があった。
ソフィにお願いして一緒に食べてもらおうとしたら、断られてしまったので、命令してしまったわ。1人の食事は味がしないから。以前はそれが当たり前だったのに、いつの間にこんなに贅沢になってしまったのかしら。
「皇帝陛下は、夜に姫様の寝顔を確認しに来られましたよ」
愛されていますね。果物を剥きながら、ソフィは微笑む。この国に来てから、ソフィは笑顔が増えた。そう言ったら、彼女に姫様も同じですよと返される。そうね、確かに以前より感情が動く気がするわ。笑ったり拗ねたり、エリクの心配をしたり。私の感情は数年分くらい動いたもの。
「恥ずかしいわ」
「姫様がそのように幸せそうなお顔をなさるなんて、皇帝陛下には感謝しかありませんわ」
薄い紫のドレスの裾を捌いて立ち上がったソフィが、私の前に果物を並べていく。綺麗な飾り切りの果物からひとつ選んで、口元に運んだ。甘酸っぱい味に頬が緩む。
「そんなに幸せそうかしら」
自分では分からない。ただ苦しかったり泣きたくなる時間は減った。大好きな野花に囲まれて、ソフィやエリクとお茶を飲んで、心穏やかに過ごす。これを幸せと呼ぶなら、過去の私に幸せはなかったでしょう。
「今もお幸せそう。ふふ……早く皇帝陛下にお時間が出来るといいですね」
照れてしまうけれど、今は私達だけだから……いいわよね。
「ええ。早く会いたいわ」
微笑んだ私はもうひとつ果物を口に入れた。今度はとても甘くて、紅茶をひと口含んだ。甘過ぎる果物は紅茶に合いそうね。でもエリクはきっと好きじゃないわ。彼の好きな食べ物や色、仕草も知りたい。これが恋なら、私は今まで誰とも恋愛をしてこなかった。
初めての恋ね。くすぐったい気持ちと恥ずかしい気持ちが入り混じって、照れ隠しのように別の果物を齧る。小ぶりで赤い果物は中が黄色で、顔を顰めるほど酸っぱかった。
「これ、酸っぱいわ」
「珍しいですわね。皇帝陛下がお持ちになる果物は甘いものばかりですのに」
不思議そうにしたソフィは、咄嗟に私が皿に戻した果物を切って口に運ぶ。それから同じように顔を顰めた。
「本当に酸っぱいですわ。これはやめましょう」
急いで口直しに甘酸っぱい果物を剥き始めたソフィの手元を見ながら、私はおかしくなって笑ってしまった。だって、こんな経験したことないから。嫌われ者だった私は無理だったけれど、もし同性の友人がいたら……こんな時間も過ごせたのかも。仮定の話を振り切るように首を振り、新しく用意された柑橘をソフィと分け合いました。
そうだわ、忙しいエリクに手紙を書きましょう。届けずに部屋に置いておけば、きっと夜に読んでくれるわ。思いつきをソフィに相談し、便箋やインクを選ぶ作業で午前中を潰してしまいました。
あなたにおすすめの小説
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)
【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~
塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます!
2.23完結しました!
ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。
相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。
ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。
幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。
好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。
そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。
それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……?
妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話
切なめ恋愛ファンタジー
偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて
奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】
※ヒロインがアンハッピーエンドです。
痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。
爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。
執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。
だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。
ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。
広場を埋め尽くす、人。
ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。
この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。
そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。
わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。
国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。
今日は、二人の婚姻の日だったはず。
婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。
王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。
『ごめんなさい』
歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。
無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
さようなら、私の初恋
しょくぱん
恋愛
「さよなら、私の初恋。……もう、全部お返しします」
物心ついた時から、彼だけが世界のすべてだった。 幼馴染の騎士団長・レオンに捧げた、十数年の純粋な初恋。 彼が「無敵」でいられたのは、アリアが無自覚に与え続けた『治癒の加護』があったから。
だが婚約直前、アリアは知ってしまう。 彼にとって自分は、仲間内で競い合う「賭けの対象」でしかなかったことを。
「あんな女、落とすまでのゲームだよ」
結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。
佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。
結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。
アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。
アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。
【完結】遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
【残り数話を持ちまして3月29日完結!!】
夫にも子どもにも、私は選ばれなかった。
長年の裏切りを抱え、離縁状を置いて家を出た――。
待っていたのは、凍てつく絶望。
けれど同時に、それは残酷な運命の扉が開く瞬間でもあった。
「夫は愛人と生きればいい。
今さら縋られても、裏切ったあなたを許す力など残っていない」
それでも私は誓う――
「子どもたちの心だけは、必ず取り戻す」
歪で、完全な幸福――それとも、破滅。
“石”に翻弄された者たちの、狂おしい物語。
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定