【完結】彼女が魔女だって? 要らないなら僕が大切に愛するよ

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
130 / 173

130.君は怖がらないんだね

しおりを挟む
 思わぬ解決をみた肉泥棒を連れて、僕は離宮の玄関をくぐった。当然入り口を守る騎士や、勤める侍女達には説明済みだ。トリシャは部屋着に近い薄いワンピースに上着を羽織っていた。

「エリク、お帰りなさい……その子がお話に出てきた狼ですか?」

 怖がるかと心配したけど、トリシャはすぐ近くまで歩いてきて膝をついた。視線を合わせて微笑み、匂いを確認するルーの好きにさせている。髪や肌の匂いを確認すると、くーんと鼻を鳴らしてからぺろりと頬を舐めた。

「きゃっ、あったかい」

 嫌がらずに笑うトリシャの無邪気な様子に、ほっとした。悲鳴を上げられたらどうしようかと思ったよ。僕にとって今はトリシャが一番だけれど、ルーも大切な友人だからね。追い出すことはしたくない。

「夕食は用意しておりますけれど、生肉の塊も追加しましたの。足りるといいのですけれど」

 急だったので大きな塊が用意できなかった。そう話す彼女に手を貸して立ち上がるのを助け、僕は事実を少しだけ誤魔化して話した。

「ありがとう、助かるよ。ルーは自分で狩りをしてきたみたいだから、たくさんは食べないと思うよ」

 狩りの内容が物騒なので濁す。ニルスは穏やかな笑みを貼り付け、ソフィは斜め後ろでじっと動かなかった。もしかしたら動物が苦手なのかも知れないね。

「ルー、上に行きましょう」

 トリシャは人間に対するように狼に接し、ルーも大人しく従う。まるで昔からトリシャの飼い犬だったみたいだね。嬉しい誤算に心が弾んだ。

 足元で肉を齧るルーの口元から、時折ボキッと骨を折る音が聞こえる。細かい骨は噛み砕き、大きく太い骨は残すらしい。野生の獣特有の臭いにも、トリシャは嫌悪感を示さなかった。

「トリシャはルーが怖くない? これでも野生の狼だ」

「いいえ。私、大きな犬が好きなんです。以前に飼っている方に見せていただいて、それから憧れていましたの」

 その時に飼い主の男性が犬に対して視線を合わせ、相手が匂いを確認するまで動かないことを教えてくれたという。

「どんな人?」

「ふふ……嫉妬しなくても、お爺ちゃんですわ。元将軍だった方で、時々愛犬と顔を見せてくださいました」

 尋ねる僕の声のトーンが下がったのを感じ、笑いながら教えてくれる。優秀すぎるトリシャも困ったものだ。僕が負かされてしまうね。君の手のひらの上なら踊るのも悪くない。

 足元で丸くなって眠り始めた狼を見るトリシャの眼差しは柔らかかった。ルーも自分に危害を加えないと理解しているようだ。野生の狼だから飼うことはしないけど、たまに遊びに来てくれるとトリシャも喜ぶだろう。

「陛下、お茶のご用意が出来ました」

 ニルスが丁寧に声をかけて誘導する。どうやら噂をばら撒いた女達の追跡に、何らかの進展があったようだね。僕が頼んでから、半日も経っていない。有能な部下に頷き、トリシャとソファに移動する。ぱたぱたと尻尾を揺らして付いてくるルーが足元で再び丸まった。

「今日は泊まっていくかい? ルー」

 鼻を鳴らして応える狼のために、大きめの絨毯を用意してあげなくちゃね。そうだ、折角だから噂をばら撒いた女達を軽く脅してやろうか。衣類に使われる毛皮より硬い毛を撫でながら、僕は頬を緩めた。
しおりを挟む
感想 214

あなたにおすすめの小説

『悪役令嬢は、二度目の人生で無言を貫く。~処刑回避のために黙っていただけなのに、なぜか冷徹宰相様から「君こそ運命の人だ」と溺愛さています~』

放浪人
恋愛
「もう、余計なことは喋りません(処刑されたくないので!)」 王太子の婚約者エリスは、無実の罪を着せられた際、必死に弁解しようと叫び散らした結果「見苦しい」と断罪され、処刑されてしまった。 死に戻った彼女は悟る。「口は災いの元。二度目の人生は、何があっても口を閉ざして生き延びよう」と。 しかし、断罪の場で恐怖のあまり沈黙を貫いた結果、その姿は「弁解せず耐え忍ぶ高潔な令嬢」として称賛されてしまう。 さらに、人間嫌いの冷徹宰相クラウスに「私の静寂を理解する唯一の女性」と盛大な勘違いをされ、求婚されてしまい……!? 「君の沈黙は、愛の肯定だね?」(違います、怖くて固まっているだけです!) 「この国の危機を、一目で見抜くとは」(ただ臭かったから鼻を押さえただけです!) 怯えて黙っているだけの元悪役令嬢と、彼女の沈黙を「深遠な知性」と解釈して溺愛する最強宰相。 転生ヒロインの妨害も、隣国の陰謀も、全て「無言」で解決(?)していく、すれ違いロマンティック・コメディ! 最後はちゃんと言葉で愛を伝えて、最高のハッピーエンドを迎えます。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

私が行方不明の皇女です~生死を彷徨って帰国したら信じていた初恋の従者は婚約していました~

marumi
恋愛
「あら アルヴェイン公爵がドゥーカス令嬢をエスコートされていますわ」 「ご婚約されたと噂を聞きましたが、まさか本当だとは!」 私は五年前までこの国の皇女エリシアだった。 暗殺事件に巻き込まれ、幼なじみで初恋の相手だった従者――アルヴェイン公子と共に命からがら隣国、エルダールへ亡命した。 彼の「必ず迎えに来る」その言葉を信じて、隣国の地で彼を待ち続けた……。 それなのに……。 やっとの思いで帰国した帝国の華やかなパーティー会場で、一際目立っているのは、彼と、社交界の華と言われる令嬢だった――。 ※校正にAIを使用していますが、自身で考案したオリジナル小説です。 ※イメージが伝わればと思い、表紙画像をAI生成してみました。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。

佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。 結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。 アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。 アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。

虐げられた私が姉の策略で結婚させられたら、スパダリ夫に溺愛され人生大逆転しました。

専業プウタ
恋愛
ミリア・カルマンは帝国唯一の公爵家の次女。高貴な皇族の血を引く紫色の瞳を持って生まれたワガママな姉の陰謀で、帝国一裕福でイケメンのレナード・アーデン侯爵と婚約することになる。父親であるカルマン公爵の指示のもと後継者としてアカデミーで必死に勉強してきて首席で卒業した。アカデミー時代からの恋人、サイラスもいる。公爵になる夢も恋人も諦められない。私の人生は私が決めるんだから、イケメンの婚約者になど屈しない。地位も名誉も美しさも備えた婚約者の弱みを握り、婚約を破棄する。そして、大好きな恋人と結婚してみせる。そう決意して婚約者と接しても、この婚約者一筋縄ではいかない。初対面のはずなのに、まるで自分を知っていたかのような振る舞い。ミリアは恋人を裏切りたくない、姉の思い通りになりたくないと思いつつも彼に惹かれてく気持ちが抑えられなくなっていく。

処理中です...