【完結】彼女が魔女だって? 要らないなら僕が大切に愛するよ

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

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148.今からあなたの妻に(SIDEベアトリス)

*****SIDE ベアトリス



 早朝、まだ鳥も飛ばない時間から準備が始まった。わずかな時間も無駄にできない。用意された湯に浸かり、前日のマッサージで艶を増した肌に鈴蘭の香りを纏う。銀髪に香油をかけて櫛で丁寧に梳かされた。結うのは先なので、軽く纏めて上で留める。

 白い下着をいくつも重ね、腰を細く搾り上げた。苦しくなる手前で、上手に調整するソフィが確認する。

「痛む場所はございませんか?」

「平気よ、ちょうどいいわ」

 このくらいなら食事も入りそう。もっとも婚礼衣装で口にするのは飲み物くらいだ。宴では別の衣装を纏うため、その時はコルセットも緩める予定だった。

 窓の外は夜が明け始め、空が明るくなっていく。残念ながら朝日は差し込まず、曇り空のようだった。レース越しに見える灰色の空に口元が緩む。

「きっと晴れるわ」

「姫様は昔から天気を予言するのが得意でいらしたから、きっと晴れるでしょうね」

 ふふっとソフィと笑いあう。丁寧に腕や足にパウダーが塗されていく。首や指先、見えない場所まで振りかけられたのは、真珠の粉だという。透明感のある肌をつくり輝かせるため、と聞いていた。今回の結婚式で初披露となる化粧品だ。今後は夜会やお茶会で使用する貴族令嬢が増えるだろう。さらりとした肌触りが心地よい。

 ドレスが美しく見えるよう準備された下着姿の私は、渡されたサンドウィッチを口にした。ここで食べ損なうと、結婚式の後の挨拶を受けて婚礼衣装を脱ぐまで、何も食べられなくなってしまう。せいぜいが果物を口にするくらいと思われた。

 いつもならまだ朝食には早い時間、頑張って飲み込んでいく。隣のソフィの口にも押し込んだ。

「あなたも食べないともたないわ」

「ありがとうございます」

 他の侍女は着付けが終われば休めるが、ソフィは公爵として参加するのだ。同じようにコルセットを装着したら、きっと食べている時間はない。多めに用意された軽食を詰め込み、念のためにトイレも済ませた。

 しゃがんだ私の上に、ドレスが被せられる。腕を通し、頭を抜いてほっと息をついた。この作業があるため、化粧や髪のセットを後回しにしたのだ。どこかレースに指を引っ掛けたりしなくてよかった。ほっとしながらドレスのボタンを止めてもらう。腰のあたりから首の後ろまで、気が遠くなりそうな数の真珠でボタンが付けられていた。

「時間がありますので、先にどうぞ」

 渡された手袋をはめ、鏡の前に腰掛ける。ボタンを留める侍女達の苦労が鏡越しに見えて、声をかけた。

「まだ急がなくていいわ。きちんとお願いね」

「「はい」」

 微笑んだ彼女達の手際は素晴らしい。ニルスとソフィが選んだ侍女は手分けして準備に動いた。お飾りを用意する者、髪を解いて梳き直す者、靴などの小物を並べる者。あっという間に出来上がっていく花嫁姿に、表情が和らいだ。

 虹色の輝きを帯びた銀髪がくるくると結い上げられていく。まるで魔法の指先のように、彼女らの手は決められた髪型を作り上げた。鈴蘭をモチーフにしたティアラを差し込み固定する。合わせて用意した耳飾りや首飾りが私を彩る頃、ようやく背中のボタンも終わったみたい。全体に白や青でまとめた姿は、清楚な感じがした。

「失礼いたします」

 化粧を施し、最後の紅が載せられる。息を詰めるようにして、変化していく己の姿を見守った。別人のようね。美しく羽化した蝶のよう。地味な蛹だった私はもういない。

「ありがとう、完璧よ」

 労いの言葉に頭を下げて退室する侍女を見送り、すっかり明るくなった窓の外に目を向けた。どんより灰色だった雲は、徐々に色を薄くしている。やっぱり晴れるわね。立ち上がった私を、ソフィはこの部屋で見送り、己の準備に立つ。控室まで女性騎士達が護衛する手筈だった。

「姫様、お幸せに」

「ありがとう。ソフィは私の姉みたい。これからもお友達でいてね」

 家族との挨拶はなくとも、これ以上の見送りはない。顔を上げた私は振り返らず、本宮に用意された控室へ向かって歩き出した。
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