【完結】彼女が魔女だって? 要らないなら僕が大切に愛するよ

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

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163.思いがけない祝い事

 祝勝会から1ヶ月も経てば、騒がしかった足元も静かになった。一時期は貴族を呼ばないのは軍部の増長を招くとか、有力な貴族が蔑ろにされるのは国の崩壊を呼び寄せる……なんて占いや予言めいた言葉を向けられた。もちろん返してやったよ。

「それは僕に対する挑戦状だね」

 戦いに関わった者、功績があった者は全員祝勝会に呼んでいる。声が掛からなかったことを恥じるなら分かるが、僕を脅迫するなんていい度胸だ。そう告げたら青ざめて帰っていった。きっちり顔を覚えたニルスが仕置きをしたため、今では誰も余計な口を開かない。

 皇帝の権威や貴族の権力をなんだと思ってるんだろうね、彼らは。自分達の意見が通ると思い込んで声を上げるが、真っ当な意見以外が通るはずないだろう。意味不明な要求が書かれた書類はすべて跳ね除けたので、山と積まれた書類もあっという間に片付いたのは、2週間も前の話だった。

 機嫌よく、トリシャとのお茶会に臨む。軽食を多めに取り入れて、昼食を兼ねる予定だった。というのも、ここ最近トリシャの体調が思わしくない。心配だから医師に見せたが、現時点で病の兆しはないという。回復しないようなら、もう一度診察を受けさせる必要があるね。

「これなら食べられそうかい?」

 甘いお菓子もあまり食べたがらないので、果物をいくつも取り寄せた。トリシャの前に並べたのは、色とりどりの鮮やかなフルーツ。南国から北国まで。手を尽くして集めた果物を綺麗に飾りつけさせた。

「鮮やかですね」

 喜んでくれる彼女のためなら、なんでも集めるんだけど。目に鮮やかな果物なら、食欲の薄れたトリシャでも口にしてくれるだろう。目配せすると、ソフィが丁寧に皮を剥いて並べる。ニルスも心配そうにしながら、軽い口当たりのお茶を用意した。

「食べられそう?」

「え、ええ。少しずつ頂きます」

 言葉通り端から一口ずつ味を見ていく。陰になる場所でニルスが新しい果物を剥いて、こっそり追加で並べた。気づかないトリシャは、その赤い実にも手を伸ばした。僅かずつ食べたトリシャが、ほっと息をつく。

「怠いなら休むか?」

「エリク、お医者様をお願いできますか?」

 思わぬ要請に慌てて、ニルスが飛び出していく。青ざめる僕と真逆の反応を見せたのは、ソフィだった。

「ま、さか……そんな、本当に? おめでとうございます。皇妃様」

 え? ソフィの言葉と、お腹に手を置いたトリシャの姿に目を見開いた。そうなのか? この腹に、僕とトリシャの子が……いるの!? お祝いの言葉で察した僕に、トリシャは照れた顔で頷いた。

「おそらく間違いないかと……」

 まだ膨らんでいない腹部に、そっと手を伸ばす。触れる直前で握り込もうとした手を、トリシャが優しく包んだ。力の抜けた指先を誘導して、腹の上に置かれる。怖かった。押したら中で死んでしまいそうで。

「お医者様をお連れしました」

 執事ニルスの声に振り返り、医者も彼も状況を悟ったらしい。トリシャの腹に手を置いた僕の顔は、どんな表情を浮かべていた?

「おめでとうございます」

「確認させていただけますでしょうか」

 すぐに手配された女医立ち会いの下、トリシャの妊娠が確定したのは数時間後だった。
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