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第1章 陰陽師は神様のお気に入り
05.***人形***
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夜更かしの代償である欠伸を噛み殺し、真桜は赤茶の髪を丁寧に梳いて結い上げた。
面倒だが、宮廷のしきたりとあれば無視するわけにいかない。一応雇われている身なのだ。
『真桜、先に食事をしろ』
華守流の指摘に慌てて手を合わせて「いただきます」と挨拶を口にする。
料理上手な式神を持つと助かるが、同時に食事のマナーも五月蝿い。食事の挨拶が小さいことで叱られた過去を思い出しながら箸を手にした。
『人間は不便だな……』
ひょいっと横に座り込んだ神様…アカリの呟きに真桜は首を傾げた。
「そうか? オレは食事好きだぜ?」
こう、力が輪を描いて循環する感じ……かな。
曖昧な説明にアカリが興味深そうに頷く。高天原と違い、何もかもが目新しく新鮮だった。人間という生き物に接するのも初めてだが……ここまで興を惹く者も珍しいだろう。
『なるほど…我も試してみるか』
「そりゃいいや。華守流、ご飯残ってるだろ」
『……わかった』
しぶしぶと言った態度を崩さない華守流だが、さすがに主の言葉を無視は出来ない。
根本的に真面目な所為か、嘘もつけない正直者だった。そんな華守流すらアカリにとっては興味の対象だ。
オオヒルメノムチに溺愛される眷属として有名だったアカリへ、不機嫌そうな態度を隠しもせず接する存在などなかった。
無言で置かれた茶碗を眺め、真桜を真似て手に取ると『いただきます』と声に出した。
先ほどの真桜の言葉をそっくり繰り返しただけで意味は良く分かっていないが、一瞬目を見開いた華守流が『ああ……』と反射的に返答する。
箸を手に口に運ぼうとして…半分透き通っている自らに気づいてアカリは動きを止めた。
『ああ…人の形を成さねば』
呟いた直後、ふわりと空気が揺らぐ。正確に表現するなら、気配というか、風色のようなものが変化した。
「……アカ、リ?」
茶碗と箸を落としそうになっている真桜の問いかけに、自らの姿形を確認したアカリは満足そうに微笑む。そこにいたのは……人間にしか見えない青年だった。
『……たいしたものだ』
華炎の呟きに込められた羨望が素直にアカリへ届く。
「ああ、このぐらいの芸当は出来ねば神族を名乗れぬ」
くすくす笑って箸と茶碗へ手を伸ばすアカリが器用に料理を挟んで口に運ぶ。
いくら帝お気に入りの陰陽師と言えど、貴族のような暮らしはしていない。神々への供物と比べるべくもない質素な料理を、形のいい唇が噛み締めるのを真桜は呆然と見つめた。
何度も咀嚼して飲み込むと、アカリは目を瞠る。
「うまいな…先日の供物より美味だ。式神にこんな才があるとは……」
素直に感嘆しているのだろうが……口調の所為で上から目線に聞こえた。真桜が視線をやった先で複雑そうな顔をした華守流が返答に迷っている。
助け舟が必要だと判断した真桜が、アカリの肩にそっと触れた。小首を傾げて視線を合わせるアカリへ、出来るだけ穏便に聞こえるよう声色を選んで告げる。
「華守流、そして華炎……アカリに名前があるように、彼らにも名がある。式神って呼ぶのは感じが悪いし、オレは好きじゃないんだ。頼むから名前で呼んでくれよ」
「真名であれば、我が呼ぶことで支配してしまうぞ?」
脅すようなアカリの言い分に真桜は溜め息を吐いた。
「……支配しないように呼べないのか?」
「可能だ」
あっさり前言撤回するアカリの楽しそうな顔を見つめ、先が思いやられる共同生活を想像し…朝から項垂れてしまう。
『真桜……刻限に遅れる』
華炎の冷静な指摘に慌てて顔を上げ、「行ってくる」と飛び出す。
ちらりと目配せをして華守流が後を追った。護衛として着いていくつもりなのだ。いつもなら2人とも着いていくのだが……。
「華炎とやら…人間の生活を我に説明しろ」
偉そうな口調の神族をちらりと見やり、華炎は小さく溜め息を吐いた。
面倒だが、宮廷のしきたりとあれば無視するわけにいかない。一応雇われている身なのだ。
『真桜、先に食事をしろ』
華守流の指摘に慌てて手を合わせて「いただきます」と挨拶を口にする。
料理上手な式神を持つと助かるが、同時に食事のマナーも五月蝿い。食事の挨拶が小さいことで叱られた過去を思い出しながら箸を手にした。
『人間は不便だな……』
ひょいっと横に座り込んだ神様…アカリの呟きに真桜は首を傾げた。
「そうか? オレは食事好きだぜ?」
こう、力が輪を描いて循環する感じ……かな。
曖昧な説明にアカリが興味深そうに頷く。高天原と違い、何もかもが目新しく新鮮だった。人間という生き物に接するのも初めてだが……ここまで興を惹く者も珍しいだろう。
『なるほど…我も試してみるか』
「そりゃいいや。華守流、ご飯残ってるだろ」
『……わかった』
しぶしぶと言った態度を崩さない華守流だが、さすがに主の言葉を無視は出来ない。
根本的に真面目な所為か、嘘もつけない正直者だった。そんな華守流すらアカリにとっては興味の対象だ。
オオヒルメノムチに溺愛される眷属として有名だったアカリへ、不機嫌そうな態度を隠しもせず接する存在などなかった。
無言で置かれた茶碗を眺め、真桜を真似て手に取ると『いただきます』と声に出した。
先ほどの真桜の言葉をそっくり繰り返しただけで意味は良く分かっていないが、一瞬目を見開いた華守流が『ああ……』と反射的に返答する。
箸を手に口に運ぼうとして…半分透き通っている自らに気づいてアカリは動きを止めた。
『ああ…人の形を成さねば』
呟いた直後、ふわりと空気が揺らぐ。正確に表現するなら、気配というか、風色のようなものが変化した。
「……アカ、リ?」
茶碗と箸を落としそうになっている真桜の問いかけに、自らの姿形を確認したアカリは満足そうに微笑む。そこにいたのは……人間にしか見えない青年だった。
『……たいしたものだ』
華炎の呟きに込められた羨望が素直にアカリへ届く。
「ああ、このぐらいの芸当は出来ねば神族を名乗れぬ」
くすくす笑って箸と茶碗へ手を伸ばすアカリが器用に料理を挟んで口に運ぶ。
いくら帝お気に入りの陰陽師と言えど、貴族のような暮らしはしていない。神々への供物と比べるべくもない質素な料理を、形のいい唇が噛み締めるのを真桜は呆然と見つめた。
何度も咀嚼して飲み込むと、アカリは目を瞠る。
「うまいな…先日の供物より美味だ。式神にこんな才があるとは……」
素直に感嘆しているのだろうが……口調の所為で上から目線に聞こえた。真桜が視線をやった先で複雑そうな顔をした華守流が返答に迷っている。
助け舟が必要だと判断した真桜が、アカリの肩にそっと触れた。小首を傾げて視線を合わせるアカリへ、出来るだけ穏便に聞こえるよう声色を選んで告げる。
「華守流、そして華炎……アカリに名前があるように、彼らにも名がある。式神って呼ぶのは感じが悪いし、オレは好きじゃないんだ。頼むから名前で呼んでくれよ」
「真名であれば、我が呼ぶことで支配してしまうぞ?」
脅すようなアカリの言い分に真桜は溜め息を吐いた。
「……支配しないように呼べないのか?」
「可能だ」
あっさり前言撤回するアカリの楽しそうな顔を見つめ、先が思いやられる共同生活を想像し…朝から項垂れてしまう。
『真桜……刻限に遅れる』
華炎の冷静な指摘に慌てて顔を上げ、「行ってくる」と飛び出す。
ちらりと目配せをして華守流が後を追った。護衛として着いていくつもりなのだ。いつもなら2人とも着いていくのだが……。
「華炎とやら…人間の生活を我に説明しろ」
偉そうな口調の神族をちらりと見やり、華炎は小さく溜め息を吐いた。
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