6 / 131
第1章 陰陽師は神様のお気に入り
06.***降臨***
しおりを挟む
梅雨である筈の今、からりと晴れた空に目を細めた。
溜め息が口を吐くのはしょうがないだろう。どうせ近日中に呼び出されて雨乞いを命じられるに決まっている。読める未来ほどうんざりするものはなかった。
赤茶の髪や青紫の瞳を陰で『鬼よ、化け物よ』と罵る連中が、力を借りる時だけは手のひらを返して近付いてくるのだ。それでも必要とされずに腐るよりマシと割り切った真桜だが、やはり気分のいいものではなくて……。
「やっぱ……雨乞いの儀式するのかなぁ…」
『嫌そうに言う』
面白がるような華守流の口調に、ちらりと隣に視線をくれる。だが顔ごと振り向かないのは、華守流が只人の目に映らない為だ。それを承知しているので、華守流も気にした様子はなかった。
逆に真桜の視界に入るよう、斜め前へ進み出る。
「雨乞いは疲れるんだよ」
いっそ占いでも命じてくれたら楽なのに……。
雨を喚ぶ龍神は、神々の中でも神格や気位が高い。簡単に龍神をお呼びしろと命じられても、「はいそうですか」と出来るものではない。
正直、真桜の霊力をもってしても消耗の激しい儀式だった。
「仕事なのだろう、文句を言うな」
「華守流か華炎が雨呼べるなら楽だったんだけど……」
ちょうど呟いたところで呼び止められた。
「最上殿(真桜の字)、ちょうど良かった。お上がそなたを呼んでおられる」
「すぐに参ります」
返事をして一礼し、内心舌打ちした真桜は作った笑顔で顔を上げる。先導する公家の男に着いて行き、お上がおわす御簾の前に座って深く頭を下げた。
すっと御簾の向こうで動く気配と、かすかな衣擦れが聞こえる。どうやら人払いを命じたらしく、周囲から誰もいなくなった。
「久しぶりだね、真桜」
砕けた口調で、さっさと邪魔な御簾をどけて降りてきた今上帝を前に、真桜は苦笑して溜め息を吐く。
「ったく……一応帝だろうが。もうちょっと立場ってもんを考えろよ」
「君の前で必要ないでしょう?」
にこにこ笑う青年は、鮮やかな陽色の髪を揺らして小首を傾げる。黒髪ばかりのこの国で、彼は異端だった。それは真桜も同じだが……違うのは帝という立場が彼を守っていることだ。
「山吹…御簾の中にいろ。見られたらどうする?」
「君の術で隠してくれればいいじゃない? ……わかったよ、そんな顔されちゃ…」
素直に御簾の向こうへ戻る山吹にほっと肩の力を抜く。
黒髪黒瞳が当たり前の国で、別の色を纏うのは人外のみ――その頑ななまでの意識が変わらない限り、帝である山吹の君の身も危険に晒される可能性があった。
少なくとも自分達の頂点に立つ存在を『化け物』と認識すれば、排除しようと動くのは目に見えている。
側近しか知らない姿を御簾に隠している山吹の不自由さは理解するが、自分のように迫害され、差別されて苦しむ彼を見たくないのだ。
真桜の気持ちが分かるから、彼も泣き出しそうな顔を作った友人の忠告を聞き入れた。
互いに複雑な立場を認識しながら、互いを守ろうとしている。不器用な2人の間に沈黙が落ちた。
≪何を落ち込んでおる? 真桜、いつまで我を放っておく気だ≫
突然降臨した神様……もとい、その眷属の発言に真桜の顔に冷や汗が浮かんだ。ちらりと視線を左に流せば、当然のように立って見下ろす姿は神々しい白き衣を纏ったアカリだった。
「……そちらの方は、透けてるね」
幸いと言うか、帝の血筋はアマテラスの末裔であり霊力が高い。視えてしまった山吹の君は数度瞬くと、御簾を上げて丁寧にアカリへ一礼して微笑んだ。
溜め息が口を吐くのはしょうがないだろう。どうせ近日中に呼び出されて雨乞いを命じられるに決まっている。読める未来ほどうんざりするものはなかった。
赤茶の髪や青紫の瞳を陰で『鬼よ、化け物よ』と罵る連中が、力を借りる時だけは手のひらを返して近付いてくるのだ。それでも必要とされずに腐るよりマシと割り切った真桜だが、やはり気分のいいものではなくて……。
「やっぱ……雨乞いの儀式するのかなぁ…」
『嫌そうに言う』
面白がるような華守流の口調に、ちらりと隣に視線をくれる。だが顔ごと振り向かないのは、華守流が只人の目に映らない為だ。それを承知しているので、華守流も気にした様子はなかった。
逆に真桜の視界に入るよう、斜め前へ進み出る。
「雨乞いは疲れるんだよ」
いっそ占いでも命じてくれたら楽なのに……。
雨を喚ぶ龍神は、神々の中でも神格や気位が高い。簡単に龍神をお呼びしろと命じられても、「はいそうですか」と出来るものではない。
正直、真桜の霊力をもってしても消耗の激しい儀式だった。
「仕事なのだろう、文句を言うな」
「華守流か華炎が雨呼べるなら楽だったんだけど……」
ちょうど呟いたところで呼び止められた。
「最上殿(真桜の字)、ちょうど良かった。お上がそなたを呼んでおられる」
「すぐに参ります」
返事をして一礼し、内心舌打ちした真桜は作った笑顔で顔を上げる。先導する公家の男に着いて行き、お上がおわす御簾の前に座って深く頭を下げた。
すっと御簾の向こうで動く気配と、かすかな衣擦れが聞こえる。どうやら人払いを命じたらしく、周囲から誰もいなくなった。
「久しぶりだね、真桜」
砕けた口調で、さっさと邪魔な御簾をどけて降りてきた今上帝を前に、真桜は苦笑して溜め息を吐く。
「ったく……一応帝だろうが。もうちょっと立場ってもんを考えろよ」
「君の前で必要ないでしょう?」
にこにこ笑う青年は、鮮やかな陽色の髪を揺らして小首を傾げる。黒髪ばかりのこの国で、彼は異端だった。それは真桜も同じだが……違うのは帝という立場が彼を守っていることだ。
「山吹…御簾の中にいろ。見られたらどうする?」
「君の術で隠してくれればいいじゃない? ……わかったよ、そんな顔されちゃ…」
素直に御簾の向こうへ戻る山吹にほっと肩の力を抜く。
黒髪黒瞳が当たり前の国で、別の色を纏うのは人外のみ――その頑ななまでの意識が変わらない限り、帝である山吹の君の身も危険に晒される可能性があった。
少なくとも自分達の頂点に立つ存在を『化け物』と認識すれば、排除しようと動くのは目に見えている。
側近しか知らない姿を御簾に隠している山吹の不自由さは理解するが、自分のように迫害され、差別されて苦しむ彼を見たくないのだ。
真桜の気持ちが分かるから、彼も泣き出しそうな顔を作った友人の忠告を聞き入れた。
互いに複雑な立場を認識しながら、互いを守ろうとしている。不器用な2人の間に沈黙が落ちた。
≪何を落ち込んでおる? 真桜、いつまで我を放っておく気だ≫
突然降臨した神様……もとい、その眷属の発言に真桜の顔に冷や汗が浮かんだ。ちらりと視線を左に流せば、当然のように立って見下ろす姿は神々しい白き衣を纏ったアカリだった。
「……そちらの方は、透けてるね」
幸いと言うか、帝の血筋はアマテラスの末裔であり霊力が高い。視えてしまった山吹の君は数度瞬くと、御簾を上げて丁寧にアカリへ一礼して微笑んだ。
1
あなたにおすすめの小説
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
貧乏奨学生の子爵令嬢は、特許で稼ぐ夢を見る 〜レイシアは、今日も我が道つき進む!~
みちのあかり
ファンタジー
同じゼミに通う王子から、ありえないプロポーズを受ける貧乏奨学生のレイシア。
何でこんなことに? レイシアは今までの生き方を振り返り始めた。
第一部(領地でスローライフ)
5歳の誕生日。お父様とお母様にお祝いされ、教会で祝福を受ける。教会で孤児と一緒に勉強をはじめるレイシアは、その才能が開花し非常に優秀に育っていく。お母様が里帰り出産。生まれてくる弟のために、料理やメイド仕事を覚えようと必死に頑張るレイシア。
お母様も戻り、家族で幸せな生活を送るレイシア。
しかし、未曽有の災害が起こり、領地は借金を負うことに。
貧乏でも明るく生きるレイシアの、ハートフルコメディ。
第二部(学園無双)
貧乏なため、奨学生として貴族が通う学園に入学したレイシア。
貴族としての進学は奨学生では無理? 平民に落ちても生きていけるコースを選ぶ。
だが、様々な思惑により貴族のコースも受けなければいけないレイシア。お金持ちの貴族の女子には嫌われ相手にされない。
そんなことは気にもせず、お金儲け、特許取得を目指すレイシア。
ところが、いきなり王子からプロポーズを受け・・・
学園無双の痛快コメディ
カクヨムで240万PV頂いています。
追放聖女だってお茶したい!─セカンドライフはティーサロン経営を志望中─
石田空
ファンタジー
「ミーナ今までありがとう。聖女の座を降りてもらおう」
貴族の利権関係が原因でいきなり聖女をクビになった庶民出身のミーナ。その上あてがわれた婚約者のルカは甘味嫌いで食の趣味が合わない。
「嫌! 人の横暴に付き合うのはもうこりごり! 私は逃げます!」
かくしてミーナは神殿から脱走し、ティーサロン経営のために奔走しはじめた。
ときどき舞い込んでくるトラブル。
慌ててミーナを探しているルカ。
果たしてミーナは理想のセカンドライフを歩めるのか。
甘いお菓子とお茶。そしてちょっとの恋模様。
*サイトより転載になります。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
荷物持ちを追放したら、酷い目にあった件について。
しばたろう
ファンタジー
無能だと思い込み、荷物持ちのレンジャーを追放した戦士アレクス。
しかし――
彼が切り捨てた仲間こそが、
実はパーティを陰で支えていたレアスキル持ちだった。
事実に気づいた時にはもう遅い。
道に迷い、魔獣に襲われ、些細な任務すらまともにこなせない。
“荷物持ちがいなくなった瞬間”から、
アレクスの日常は静かに崩壊していく。
短絡的な判断で、かけがえのない存在を手放した戦士。
そんな彼と再び肩を並べることになったのは――
美しいのに中二が暴走する魔法使い
ノー天気で鈍感な僧侶
そして天性の才を秘めた愛くるしい弟子レンジャー
かつての仲間たちと共に、アレクスはもう一度歩き出す。
自らの愚かさと向き合い、後悔し、懺悔し、それでも進むために。
これは、
“間違いを犯した男が、仲間と共に再び立ち上がる”
再生の物語である。
《小説家になろうにも投稿しています》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる