【完結】陰陽師は神様のお気に入り

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

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第1章 陰陽師は神様のお気に入り

06.***降臨***

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 梅雨である筈の今、からりと晴れた空に目を細めた。

 溜め息が口を吐くのはしょうがないだろう。どうせ近日中に呼び出されて雨乞いを命じられるに決まっている。読める未来ほどうんざりするものはなかった。

 赤茶の髪や青紫の瞳を陰で『鬼よ、化け物よ』と罵る連中が、力を借りる時だけは手のひらを返して近付いてくるのだ。それでも必要とされずに腐るよりマシと割り切った真桜だが、やはり気分のいいものではなくて……。

「やっぱ……雨乞いの儀式するのかなぁ…」

『嫌そうに言う』

 面白がるような華守流の口調に、ちらりと隣に視線をくれる。だが顔ごと振り向かないのは、華守流が只人ただびとの目に映らない為だ。それを承知しているので、華守流も気にした様子はなかった。

 逆に真桜の視界に入るよう、斜め前へ進み出る。

「雨乞いは疲れるんだよ」

 いっそ占いでも命じてくれたら楽なのに……。

 雨を喚ぶ龍神は、神々の中でも神格や気位が高い。簡単に龍神をお呼びしろと命じられても、「はいそうですか」と出来るものではない。

 正直、真桜の霊力をもってしても消耗の激しい儀式だった。

「仕事なのだろう、文句を言うな」

「華守流か華炎が雨呼べるなら楽だったんだけど……」

 ちょうど呟いたところで呼び止められた。

「最上殿(真桜の字)、ちょうど良かった。お上がそなたを呼んでおられる」

「すぐに参ります」

 返事をして一礼し、内心舌打ちした真桜は作った笑顔で顔を上げる。先導する公家の男に着いて行き、お上がおわす御簾みすの前に座って深く頭を下げた。


 すっと御簾の向こうで動く気配と、かすかな衣擦れが聞こえる。どうやら人払いを命じたらしく、周囲から誰もいなくなった。

「久しぶりだね、真桜」

 砕けた口調で、さっさと邪魔な御簾をどけて降りてきた今上帝を前に、真桜は苦笑して溜め息を吐く。

「ったく……一応帝だろうが。もうちょっと立場ってもんを考えろよ」

「君の前で必要ないでしょう?」

 にこにこ笑う青年は、鮮やかな陽色の髪を揺らして小首を傾げる。黒髪ばかりのこの国で、彼は異端だった。それは真桜も同じだが……違うのは帝という立場が彼を守っていることだ。

「山吹…御簾の中にいろ。見られたらどうする?」

「君の術で隠してくれればいいじゃない? ……わかったよ、そんな顔されちゃ…」

 素直に御簾の向こうへ戻る山吹にほっと肩の力を抜く。

 黒髪黒瞳が当たり前の国で、別の色を纏うのは人外のみ――その頑ななまでの意識が変わらない限り、帝である山吹の君の身も危険に晒される可能性があった。

 少なくとも自分達の頂点に立つ存在を『化け物』と認識すれば、排除しようと動くのは目に見えている。

 側近しか知らない姿を御簾に隠している山吹の不自由さは理解するが、自分のように迫害され、差別されて苦しむ彼を見たくないのだ。

 真桜の気持ちが分かるから、彼も泣き出しそうな顔を作った友人の忠告を聞き入れた。

 互いに複雑な立場を認識しながら、互いを守ろうとしている。不器用な2人の間に沈黙が落ちた。

≪何を落ち込んでおる? 真桜、いつまで我を放っておく気だ≫

 突然降臨した神様……もとい、その眷属の発言に真桜の顔に冷や汗が浮かんだ。ちらりと視線を左に流せば、当然のように立って見下ろす姿は神々しい白き衣を纏ったアカリだった。

「……そちらの方は、透けてるね」

 幸いと言うか、帝の血筋はアマテラスの末裔であり霊力が高い。視えてしまった山吹の君は数度瞬くと、御簾を上げて丁寧にアカリへ一礼して微笑んだ。
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