【完結】陰陽師は神様のお気に入り

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

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第1章 陰陽師は神様のお気に入り

07.***乞雨***

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『ほう…そなたも我が視えるのか』

 感心したように呟くアカリへ、今上帝は丁寧に頭を下げて礼を尽くした。

「今上帝の山吹と申します。あなた様は高天原の神族とお見受けしますが…」

『オオヒルメノムチが眷属だ』

 己の出自を明かしながらも、名を告げぬ。それが通常の神族の有り方なのだ。真名を容易に人間風情に明かす筈がなかった。

 溜め息を吐いて、真桜はアカリに向き直る。

「それで…何故ここに?」

『簡単だ、真桜。お前が戻らぬ故……』

「オレは仕事中。夕方になれば戻るから、屋敷で待っててくれよ」

『嫌だ』

 即答で切り返され、真桜は肩を落とす。

 陰陽寮に所属している以上、そこそこ霊力の高い同僚もいる。もちろん華守流や華炎は式神だと認識されているし、簡単に祓われたりしない。ある意味、アカリも神族なので祓われる心配はいらないが、逆に同僚の身が心配になる真桜だった。

 神族に対して無礼を働けば、それが不可抗力であれ祟られる可能性は高い。特にアカリは気位が高く、幽霊扱いした自分達が無事なのが不思議なくらいだった。

 そもそも…何故自分は気に入られたのだろう。

 眉を顰めた真桜に何を思ったのか。


 アカリは譲歩する姿勢を見せた。

『我は真桜と居たい。それが約定だった筈…山吹とやら、そなたは取り計らえぬか?』

 どうやら真桜より山吹の君に決定権があると判断したアカリは、素直に望みを口にした。一瞬目を見開いた山吹だが、すぐにふわりと微笑んで頷く。

人形ひとがたは纏えますね?」

『当然だ』

「ならば、真桜の遠縁ということで……陰陽寮に属するがよろしいかと思いますよ。ずっと一緒に行動する理由にもなりますし」

 にこにこと人心を逸らさぬ笑顔で告げる帝に、引き攣った顔で振り返った真桜の唇が「余計な事を」と動く。幸いにもアカリは気づかなかったのか、特に咎めるような仕草は見せなかった。



 こうして―――陰陽寮に神族が人に化けた稀有な存在が所属する事になったのだ。



「……オレって運がないのかな」

 ぽつりと呟いた言葉に、華守流が同情の目を向けてくる。見上げる先の空は青く透き通りひどく目に染みた。今日は散々だったのだ。

 出仕するなり帝に呼び出され、そこにアカリが勝手に顕れて陰陽寮に所属する許可をもぎ取り……当然の如く、雨乞いも命じられてしまった。

 準備に忙しい真桜へ「あれは何だ?」「これは?」と引っ切り無しに尋ねてくる。興味津々な癖に、別の者が話し掛けても無視する……トラブル多発で頭の痛い真桜だった。

「頼むから、頼むから……他の奴を無視して騒動を大きくしないでくれ。笑顔で応対しろなんて言わないけど、せめて無表情でいいから返事くらい……」

「お前がそれを望むのなら、致し方あるまい」

 仕方なさそうに鼻に皺を寄せて、本心から嫌だと示しながらも了承したアカリに「ありがとうよ」と呟くのがやっとだ。

 同僚からの突き上げとアカリの板ばさみだった時間を思い出し、遠い目をしてしまうのも当然だった。

「相手は神様だし……」

 言い聞かせて聞いてくれるだけ、マシなのだろう。苦労を背負い込みすぎて生きてきた真桜は、この年齢から想像もできないほど達観した物言いで自分を納得させる。

「さてと、雨乞いを始めますか」

 精神統一というお題目で篭っていた部屋から出れば、すでに準備万端。白い装束を纏った真桜は髪を解いて祭壇の前に立った。

 長い髪には霊力が宿る。迷信に近い言い伝えだが、真桜の場合は的を得ていた。髪は『神』に繋がる――人でありながら、人でない真桜にとって重要なアイテムだ。

 そらんじた祝詞のりとを澱みなく滔々と続ける真桜を背後から見守るアカリが、僅かに眉を顰めて天を見上げた。

『どうした?』

 華炎の声に視線を逸らさぬまま返す。

「この雨乞い……災いを喚ぶぞ」

 その小さいながらも不吉な予言は……神の口から零れた言の葉であっただけに、ぞくりとするような鋭さを滲ませていた。

 華炎が真意を問おうと再度口を開いた時、ぽつりと雨が落ちる。

『いつもより早い…っ』

 華守流の指摘通り……それは不自然な程早く落ちた雨粒。

 呼ばれた雨ではない――気づいて息を飲んだのは、人外を含め……わずか4人だけであった。
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