【完結】陰陽師は神様のお気に入り

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

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第1章 陰陽師は神様のお気に入り

08.***黒雨***

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 降り続く雨にウンザリしながら、真桜は行儀悪く寝転がっていた。

 まだ出仕中であり、本来ならこのような無作法が許される宮中でもないが、幸いにもこの部屋にいるのは真桜と華守流だけ。

「この雨、どう考えても…」

『邪法だ』

 忌むべき方法でしかるべき手順を踏んで行われた呪術――きっかけが己の雨乞いである以上、疑惑の目は真桜へと向かう。止まぬ雨が3日も続けば、さすがに周囲もおかしいと思い始めるものだ。

 都の一部は水害により沈み、地方では土砂崩れや川の氾濫を招いていた。

 もう雨を止めて欲しいと懇願されても、自分が降らせているわけじゃない。真桜にも手の打ちようがなかった。龍神が降らせているのは間違いないのだが…そこに不自然な力の流れを感じる。

 寝転がって見上げる視線の先、灰色の空が大粒の雨を落としていた。

 少しだけ目を細めれば、青紫の瞳が色を濃くする。紫が強く出た目に映るのは、龍神がいない空――主不在の雨を齎す、不自然な雲だった。

 雨を降らせる龍神が居らぬのに、雨は止まぬ……だが雨自体は龍神の力を示している。

『……龍の悲鳴』

 同じように黒曜石の瞳を空へ向けている華守流の呟きに、真桜は溜め息をついて身を起こした。

「外法を使ったバカがいる……」

 舌打ちしたい気分で顔を顰める。

 呪う対象は何か。都、帝、民、この世……さまざまな可能性が浮いては消える。確定しなくては動きようがなかった。

 何を守り、何を手がかりにすれば……唇を噛み締めた真桜が迷いを滲ませた息を吐き出す。

「息は域、そのように穢してはならぬ」

 戒める声に顔を上げれば、アカリが眉を寄せて首を横に振った。足音もさせず優雅な仕草で歩み寄った彼は、右手のひらを天へ向けて……その上へ息を吐く。

 声に出さない言霊を吐息に乗せるアカリは、はたから見れば雨を手で受け止めるように見えた。

「ああ……悪い」

 素直な真桜の謝罪に目元を和らげたアカリだが、空へ視線を戻すと忌々しそうに目を細めた。

「この雨は神意を捻じ曲げた『怨』によって齎されたもの、このままでは地上は時を置かずに滅びよう」

「……確かに、黒い雨じゃ作物は育たない」

 透明の雨粒――只人ただびとには通常の降雨に見えるが、少し力を持つ者にとって『黒く淀んだ気を纏う雨』は降り注ぐ針の如き様に思えた。

 大地を穢し、天を封じ『何か』を滅ぼそうとしている。

「よい『眼』だ……だが…」

 褒めた口でアカリは言い淀んだ。

 真桜は気づいていない。このしゅがどこへ向かっているのか。『誰』をターゲットとした呪いなのか……言うのは簡単だが、出来れば伝えたくなかった。

 伝えなければ効力を失うたぐいではないが、知れば傷つくのを覚悟で戦うだろうと予想はつく。

 じっと雨を見つめる真桜が手を伸ばし、黒い雨を手のひらに受ける。

 アカリの褒めた眼が紫を濃く、紫藍に色を変えた。力を込めて見つめる手を握り締め、唇が震えて声を吐き出す。それはアカリが隠したがった真実を滲ませて響いた。

「………オレが…」

「真桜っ!」

 言霊を遮ったアカリを振り返り、真桜は青ざめた顔で詰め寄る。

「標的は……オレ、なんだな?」

 疑問の形を取りながら、確証を得た響きにアカリは視線を逸らした。蒼く透き通った瞳を瞼が隠すが、すぐに瞬いて真桜の青紫を正面から受け止める。

「ああ」

 短い肯定――言の葉が呼んだか。天に龍体を示す稲妻が走った。
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