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第1章 陰陽師は神様のお気に入り
11.***不穏***
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言霊の誓いが届いたのか、龍は身を捩って咆哮をあげる。
一瞬青白い稲光が地上を走り……雨が少し小降りになった気がした。
「お前は考え無しに言霊を使う」
叱咤するアカリの口調を、不思議なほど心地よく感じながら真桜は目を伏せた。
「神族からみれば、人間なんてその程度だろ」
「真桜……お前はっ」
「……人間でいたいんだよ」
神族の血を引いていようと、あの男が父親であろうと……自分は人間だ。そう言い切った真桜の瞳が、紫がかった青となってアカリを映し出す。
透き通った眼差しを受け止め、アカリは僅かに表情を曇らせた。
その決意が、お前を苦しめる要因となるのに……。
アカリに予知能力はない。だが先を見てしまうのは、長く生きた者特有の能力だろう。
真桜が苦しむ未来を避けて通りたいと思う反面、彼の意思を捻じ曲げれば後悔する自分を知っている。板ばさみで身動きが取れないアカリは、感傷を振り払うように首を横に振った。
「勝手にしろ」
そう吐き捨てるのが精一杯だった。
目を開いた先に、華守流の黒髪が飛び込む。黒曜石の瞳を心配に曇らせた友が、慌てて華炎を呼び寄せた。
『大丈夫か?』
華炎の手で助け起こされて見回せば、そこは宮中の庭だった。
儀式を行う為に作られた祭壇は崩れ、周囲には倒れている陰陽師や貴族がちらほら見える。まだ誰も駆けつけた様子のない景色を見て、眉を顰めた。
「悪ぃ、あの閃光からどのくらい……」
『時間は経っていない。駆けつけて抱き起こした途端に目覚めた』
華守流の短い説明に目を見開く。
白い空間や龍を見た時間は、別次元だったのだろうか。まったく違う流れの刻を彷徨ったらしい。
感覚との違いに戸惑いながら吸い込んだ息を吐き出す。呼吸を整えれば、失われた霊力が戻る気がした。
「……まだ無理はするな」
アカリの忠告に素直に頷き、素足で濡れた大地を踏み締める神の蒼瞳の厳しさに首を傾げる。
「どうし……」
「来るぞ!」
鋭いアカリの指摘の直後、華炎と華守流も険しい表情で空を見上げる。
灰色に沈んだ低い空に、何か黒い靄のようなものが現れた。徐々に大きくなるそれに、真桜は神呪を口の中で唱える。
ふわりと周囲を包む結界を感じた真桜が神呪を終えた息を手に吹いた。霊力の宿った左手で九字を切って、靄へ叩きつける。耳に不快な金切り声の悲鳴が聞こえ、靄が霧散して消えた。
「……まだだ」
華守流が右手に三日月形の青龍刀を召還する。低く呟いた華守流の目は、未だに中空に据えられていた。華炎も同様に槍を構えて真桜を庇う形で前に立つ。
消えない不穏な気配は、次第に形を成して凝り始めた。
目の前に集まる黒い靄の欠片が色を濃くし、一つの人形を作り上げる。ゆらりと不安定な人形が、器用に手を差し出した。
『真桜……アタシの可愛い……』
後半は掠れて聞き取れない。しかし……真桜の顔色が変わった。
「嘘だっ」
『……しぉ……ぅ』
喚び続けるか細い声に、首を振って否定した真桜は逃げるように頭を抱えて蹲る。
普段は見せない姿に驚いた華守流と華炎を他所に、アカリは整った冷たい表情を変えず視線を人形へ据えた。
「アレは我が者…朽ちた指は生者へ届きはせぬ」
一瞬青白い稲光が地上を走り……雨が少し小降りになった気がした。
「お前は考え無しに言霊を使う」
叱咤するアカリの口調を、不思議なほど心地よく感じながら真桜は目を伏せた。
「神族からみれば、人間なんてその程度だろ」
「真桜……お前はっ」
「……人間でいたいんだよ」
神族の血を引いていようと、あの男が父親であろうと……自分は人間だ。そう言い切った真桜の瞳が、紫がかった青となってアカリを映し出す。
透き通った眼差しを受け止め、アカリは僅かに表情を曇らせた。
その決意が、お前を苦しめる要因となるのに……。
アカリに予知能力はない。だが先を見てしまうのは、長く生きた者特有の能力だろう。
真桜が苦しむ未来を避けて通りたいと思う反面、彼の意思を捻じ曲げれば後悔する自分を知っている。板ばさみで身動きが取れないアカリは、感傷を振り払うように首を横に振った。
「勝手にしろ」
そう吐き捨てるのが精一杯だった。
目を開いた先に、華守流の黒髪が飛び込む。黒曜石の瞳を心配に曇らせた友が、慌てて華炎を呼び寄せた。
『大丈夫か?』
華炎の手で助け起こされて見回せば、そこは宮中の庭だった。
儀式を行う為に作られた祭壇は崩れ、周囲には倒れている陰陽師や貴族がちらほら見える。まだ誰も駆けつけた様子のない景色を見て、眉を顰めた。
「悪ぃ、あの閃光からどのくらい……」
『時間は経っていない。駆けつけて抱き起こした途端に目覚めた』
華守流の短い説明に目を見開く。
白い空間や龍を見た時間は、別次元だったのだろうか。まったく違う流れの刻を彷徨ったらしい。
感覚との違いに戸惑いながら吸い込んだ息を吐き出す。呼吸を整えれば、失われた霊力が戻る気がした。
「……まだ無理はするな」
アカリの忠告に素直に頷き、素足で濡れた大地を踏み締める神の蒼瞳の厳しさに首を傾げる。
「どうし……」
「来るぞ!」
鋭いアカリの指摘の直後、華炎と華守流も険しい表情で空を見上げる。
灰色に沈んだ低い空に、何か黒い靄のようなものが現れた。徐々に大きくなるそれに、真桜は神呪を口の中で唱える。
ふわりと周囲を包む結界を感じた真桜が神呪を終えた息を手に吹いた。霊力の宿った左手で九字を切って、靄へ叩きつける。耳に不快な金切り声の悲鳴が聞こえ、靄が霧散して消えた。
「……まだだ」
華守流が右手に三日月形の青龍刀を召還する。低く呟いた華守流の目は、未だに中空に据えられていた。華炎も同様に槍を構えて真桜を庇う形で前に立つ。
消えない不穏な気配は、次第に形を成して凝り始めた。
目の前に集まる黒い靄の欠片が色を濃くし、一つの人形を作り上げる。ゆらりと不安定な人形が、器用に手を差し出した。
『真桜……アタシの可愛い……』
後半は掠れて聞き取れない。しかし……真桜の顔色が変わった。
「嘘だっ」
『……しぉ……ぅ』
喚び続けるか細い声に、首を振って否定した真桜は逃げるように頭を抱えて蹲る。
普段は見せない姿に驚いた華守流と華炎を他所に、アカリは整った冷たい表情を変えず視線を人形へ据えた。
「アレは我が者…朽ちた指は生者へ届きはせぬ」
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