12 / 131
第1章 陰陽師は神様のお気に入り
12.***守護***
しおりを挟む
「アレは我が者…朽ちた指は生者へ届きはせぬ」
息吹を託した言霊に、悲鳴を上げた人形は消えた。しゃがみ込んだ真桜は長い髪を掻き毟り、小さく背を丸めて何もかもを拒絶している。
生気に溢れ、自信に満ちたいつもの真桜の姿はそこになかった。
『真桜?』
華炎と華守流が心配そうに囲む中、ブラウンの髪から手を離した真桜が空中へ文字を画く。その文字が僅かに光り、華守流が舌打ちした。
ほぼ同時に半透明の男が現れる。
『真桜さま? いかがなさいました?』
徐々に姿が濃くなっていき、人と変わらぬ実体で彼は真桜を支えるように手を差し出す。ブロンズの髪は黒髪に変化し、新緑の瞳を柔らかく細めて気遣う青年は土を厭わず膝をついた。
真桜の髪に触れようとした瞬間、アカリは反射的に青年の手を払う。
「貴様……どこの者だ? 死臭がするぞ」
アカリの指摘に、唇を歪めて笑った青年は身を起こして優雅に一礼した。
『天照大神様の眷属とお見受けいたしました。私の名は黒葉、死神の一族にして……真桜さまの守護につくモノです』
者ではない。だが物でもない。
言霊で伝えた黒葉は真桜の前に傅き、長い髪の一房を手に取り接吻けた。
まるで儀式のような神聖な行為に、華守流は眉を顰める。華炎は苦笑して溜め息を吐いた。
どうやら彼らにとって見慣れた光景らしい。
「黒葉……すぐに調べてくれ。さっきのっ!」
『はい、母君がどうなっているか……ですね? あの方の封じた祠を確認いたします』
ですが……続けて言葉を飲み込み、黒葉は頭を振った。
「黒葉?」
『なんでもありません。失礼いたします』
アカリに意味ありげな眼差しを投げ、黒葉は闇に溶け込んで消える。
長いブラウンの髪を、生温い風がふわふわと弄んだ。
舌打ちした華守流と顔を顰めた華炎の様子を見るに、彼らも黒葉に対して好意的ではないらしい。アカリは僅かに目を眇めると、立ち上がる真桜の隣に立った。
「…守護は『あの男』がつけたのか?」
不快さを滲ませた響きに、真桜はきょとんとした顔で小首を傾げる。だが、顔色はまだ青ざめており……唇も紫がかって小刻みに震えていた。さきほどの衝撃がよほど大きかったのだろう。
「……黒葉のこと?」
「そうだ」
「あいつが寄越した奴だぜ」
言い切った真桜の表情が複雑な色を刷く。黒葉を気に入って重用する真桜だが、父親が寄越したという事実は気に入らないようだ。
ようやく血の気が戻った顔を上げ、深く溜め息を吐いた。
「オレは黒葉を気に入ってる。頼むからもめないでくれよ?」
頼む形を取った真桜に、慣れている華炎と華守流は素直に頷いた。しかし……アカリはきゅっと引き結んだ唇をそのままに、返答しない。
「アカリ?」
「……俺は気に入らない」
子供のような拗ねた口調で告げられ、目を見開いた真桜はくすくす笑い出した。アカリの手を取り、自分の方へ引き寄せると背へ腕を回して抱き締める。
「嫉妬するなんて驚いたな…でもオレはアカリも大好きだぜ」
心配するなよ…そう滲ませた言葉にアカリは小さく頷き、そっと手を背に回してきた。
神族として育ったアカリにとって、温もりを感じる行為は未経験で……真桜の肌や吐息が触れる距離に心地よさを感じて表情が和らぐ。
「華炎も華守流も……皆、オレには過ぎた友人だ」
呟いた真桜の声に潜んだ暗い響きに気づけた者はいなかった。
息吹を託した言霊に、悲鳴を上げた人形は消えた。しゃがみ込んだ真桜は長い髪を掻き毟り、小さく背を丸めて何もかもを拒絶している。
生気に溢れ、自信に満ちたいつもの真桜の姿はそこになかった。
『真桜?』
華炎と華守流が心配そうに囲む中、ブラウンの髪から手を離した真桜が空中へ文字を画く。その文字が僅かに光り、華守流が舌打ちした。
ほぼ同時に半透明の男が現れる。
『真桜さま? いかがなさいました?』
徐々に姿が濃くなっていき、人と変わらぬ実体で彼は真桜を支えるように手を差し出す。ブロンズの髪は黒髪に変化し、新緑の瞳を柔らかく細めて気遣う青年は土を厭わず膝をついた。
真桜の髪に触れようとした瞬間、アカリは反射的に青年の手を払う。
「貴様……どこの者だ? 死臭がするぞ」
アカリの指摘に、唇を歪めて笑った青年は身を起こして優雅に一礼した。
『天照大神様の眷属とお見受けいたしました。私の名は黒葉、死神の一族にして……真桜さまの守護につくモノです』
者ではない。だが物でもない。
言霊で伝えた黒葉は真桜の前に傅き、長い髪の一房を手に取り接吻けた。
まるで儀式のような神聖な行為に、華守流は眉を顰める。華炎は苦笑して溜め息を吐いた。
どうやら彼らにとって見慣れた光景らしい。
「黒葉……すぐに調べてくれ。さっきのっ!」
『はい、母君がどうなっているか……ですね? あの方の封じた祠を確認いたします』
ですが……続けて言葉を飲み込み、黒葉は頭を振った。
「黒葉?」
『なんでもありません。失礼いたします』
アカリに意味ありげな眼差しを投げ、黒葉は闇に溶け込んで消える。
長いブラウンの髪を、生温い風がふわふわと弄んだ。
舌打ちした華守流と顔を顰めた華炎の様子を見るに、彼らも黒葉に対して好意的ではないらしい。アカリは僅かに目を眇めると、立ち上がる真桜の隣に立った。
「…守護は『あの男』がつけたのか?」
不快さを滲ませた響きに、真桜はきょとんとした顔で小首を傾げる。だが、顔色はまだ青ざめており……唇も紫がかって小刻みに震えていた。さきほどの衝撃がよほど大きかったのだろう。
「……黒葉のこと?」
「そうだ」
「あいつが寄越した奴だぜ」
言い切った真桜の表情が複雑な色を刷く。黒葉を気に入って重用する真桜だが、父親が寄越したという事実は気に入らないようだ。
ようやく血の気が戻った顔を上げ、深く溜め息を吐いた。
「オレは黒葉を気に入ってる。頼むからもめないでくれよ?」
頼む形を取った真桜に、慣れている華炎と華守流は素直に頷いた。しかし……アカリはきゅっと引き結んだ唇をそのままに、返答しない。
「アカリ?」
「……俺は気に入らない」
子供のような拗ねた口調で告げられ、目を見開いた真桜はくすくす笑い出した。アカリの手を取り、自分の方へ引き寄せると背へ腕を回して抱き締める。
「嫉妬するなんて驚いたな…でもオレはアカリも大好きだぜ」
心配するなよ…そう滲ませた言葉にアカリは小さく頷き、そっと手を背に回してきた。
神族として育ったアカリにとって、温もりを感じる行為は未経験で……真桜の肌や吐息が触れる距離に心地よさを感じて表情が和らぐ。
「華炎も華守流も……皆、オレには過ぎた友人だ」
呟いた真桜の声に潜んだ暗い響きに気づけた者はいなかった。
11
あなたにおすすめの小説
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
貧乏奨学生の子爵令嬢は、特許で稼ぐ夢を見る 〜レイシアは、今日も我が道つき進む!~
みちのあかり
ファンタジー
同じゼミに通う王子から、ありえないプロポーズを受ける貧乏奨学生のレイシア。
何でこんなことに? レイシアは今までの生き方を振り返り始めた。
第一部(領地でスローライフ)
5歳の誕生日。お父様とお母様にお祝いされ、教会で祝福を受ける。教会で孤児と一緒に勉強をはじめるレイシアは、その才能が開花し非常に優秀に育っていく。お母様が里帰り出産。生まれてくる弟のために、料理やメイド仕事を覚えようと必死に頑張るレイシア。
お母様も戻り、家族で幸せな生活を送るレイシア。
しかし、未曽有の災害が起こり、領地は借金を負うことに。
貧乏でも明るく生きるレイシアの、ハートフルコメディ。
第二部(学園無双)
貧乏なため、奨学生として貴族が通う学園に入学したレイシア。
貴族としての進学は奨学生では無理? 平民に落ちても生きていけるコースを選ぶ。
だが、様々な思惑により貴族のコースも受けなければいけないレイシア。お金持ちの貴族の女子には嫌われ相手にされない。
そんなことは気にもせず、お金儲け、特許取得を目指すレイシア。
ところが、いきなり王子からプロポーズを受け・・・
学園無双の痛快コメディ
カクヨムで240万PV頂いています。
追放聖女だってお茶したい!─セカンドライフはティーサロン経営を志望中─
石田空
ファンタジー
「ミーナ今までありがとう。聖女の座を降りてもらおう」
貴族の利権関係が原因でいきなり聖女をクビになった庶民出身のミーナ。その上あてがわれた婚約者のルカは甘味嫌いで食の趣味が合わない。
「嫌! 人の横暴に付き合うのはもうこりごり! 私は逃げます!」
かくしてミーナは神殿から脱走し、ティーサロン経営のために奔走しはじめた。
ときどき舞い込んでくるトラブル。
慌ててミーナを探しているルカ。
果たしてミーナは理想のセカンドライフを歩めるのか。
甘いお菓子とお茶。そしてちょっとの恋模様。
*サイトより転載になります。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
荷物持ちを追放したら、酷い目にあった件について。
しばたろう
ファンタジー
無能だと思い込み、荷物持ちのレンジャーを追放した戦士アレクス。
しかし――
彼が切り捨てた仲間こそが、
実はパーティを陰で支えていたレアスキル持ちだった。
事実に気づいた時にはもう遅い。
道に迷い、魔獣に襲われ、些細な任務すらまともにこなせない。
“荷物持ちがいなくなった瞬間”から、
アレクスの日常は静かに崩壊していく。
短絡的な判断で、かけがえのない存在を手放した戦士。
そんな彼と再び肩を並べることになったのは――
美しいのに中二が暴走する魔法使い
ノー天気で鈍感な僧侶
そして天性の才を秘めた愛くるしい弟子レンジャー
かつての仲間たちと共に、アレクスはもう一度歩き出す。
自らの愚かさと向き合い、後悔し、懺悔し、それでも進むために。
これは、
“間違いを犯した男が、仲間と共に再び立ち上がる”
再生の物語である。
《小説家になろうにも投稿しています》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる