【完結】陰陽師は神様のお気に入り

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

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第1章 陰陽師は神様のお気に入り

19.***不興***

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 アカリが眠りから覚めたことで、雨は再び地上へ降り注ぐ。

 黒く染められた大地の悲鳴が身を捩るように響き、舌打ちした真桜は身を起こした。

 薄暗い部屋の中、心得た様子で待つ式神に苦笑する。

「気づいてたのか……」

『当然だ』

 華守流の相槌に肩を竦めた。解いたままの長い髪が揺れる。

 隣の部屋のアカリを一瞬だけ窺い、気づかれていないと判断して部屋に結界を張った。これでアカリをしばらく誤魔化せるだろう。アカリの守護は黒葉をつけてある。

 問題はなかった。

 ブラウンの柔らかな色をした髪を掻き上げ、白いひとえの上に手際よく衣を重ねる。濃紺と黒を重ねたことで、闇に溶け込む衣の色を確認した真桜は目を細めた。

「そんじゃ、行きますか」

 口の中で呟いた呪がその場に居た3人の姿を転移させる。

 誰もいなくなった部屋はシンと沈黙が落ちた。


 だが、すぐに沈黙は破られる。

「俺を置いていくとはいい度胸だ」

 むっとした口調で、造作もなく結界を無視して襖を開く。

 几帳を避けてからしとねに立ち、アカリは蒼い瞳を眇めた。人ならぬ眼差しが辿った行き先へ一瞬にしてアカリは飛ぶ。

 溜め息を吐いて付き従う黒葉も同様に後を追いかけた。

 ……そして屋敷は誰もいなくなった。



 出仕を明後日と告げたのは、こうなることを見越してだ。

 闇に漂う悪意を仕掛けたのは天若だとしても、龍神を縛って苦しめるのは彼の手法ではない。そこまで卑劣な方法で真桜を呼び出す男ではなかった。

 つまり、まだ事件は終わっていない。

「天若、そこらにいるんだろ?」

 邪気を祓った桜の前に立ち、真桜は確信を秘めた声で呼びかけた。季節を問わず狂い咲く山桜が花びらを散らし、上の枝から飛び降りた青年が真桜の前に立つ。

「久しぶり、真桜」

 にこにこと悪びれた様子のない赤毛の青年は、澄んだ冷水のように鋭い瞳で笑った。冷たい手が真桜の髪に絡む。

「ったく……いい加減にしろよ。どうせ100年もしたら戻るんだ。それまでオレがいなくても退屈するおまえじゃないだろ? 今回の件、詫びを入れて貰うぞ」

 闇の神族の直系である真桜にとって、地上へ降りたのは気紛れのひとつだ。

 人間であった母親の願いを受けて、地上の穢れを多少なりとも祓ってやろうと思ったのがきっかけだった。もちろん、山吹と知り合った事で予定より長居しているが、それでも100年足らずで闇に戻るつもりでいる。

 苛立った態度を作って天若に迫れば、両手を肩の高さに上げて降参の所作を示す友人に、真桜の表情も和らいだ。

「了解、何を調べれば?」

「…今回のりゅ……」

『真桜っ! 我との約定を違(たが)える気か?!』

 怒り心頭で現れた美人の姿に、真桜の顔が引き攣る。

 すっかり人形ひとがたを纏うことすら忘れたアカリが、白い衣を翻して黒衣の陰陽師に詰め寄った。ぐいっと胸元を掴んで、僅かに低い位置から睨みつける。

「……ア、アカリ…違えるって…」

『我を置いて離れたであろう!』

「……真桜、しばらく会わない間に神族の嫁もらったんだ?」

 ボケた天若のツッコミにも「違……っ」としどろもどろになる。混乱しているのは自分でも分かるので、一度深呼吸してから真っ直ぐにアカリの蒼瞳を覗き込んだ。

「オレはアカリとの約定を破ったりしない。危険だから、あの屋敷で待ってて欲しかったんだ」

『……説明くらいしろ』

 むっとした口調ながら納得したのか、アカリは胸元を掴んでいた手を離してくれた。眼差しを合わせたことで、嘘を言っていないと伝わったのだ。

「ゴメンな……」

 アカリをそっと抱き寄せて、半透明の姿ながら黒髪に接吻けを落とした。

 ふわりと人形を纏ったアカリがおずおずと手を背に回して抱き着く。その仕草と温もりが愛しくて、額にもキスした。

「あの……おれはもう帰るぞ??」 

 天若の声に我に返り、真桜は顔を上げた。

「待て! 龍神を縛る呪を調べてもらおうと……」

「我が知っている」

 突然のアカリの呟きに、華守流や華炎を含む全員の視線が黒髪の神族へ集中した。
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