20 / 131
第1章 陰陽師は神様のお気に入り
20.***吐呪***
しおりを挟む
疎ましい、妬ましい……
暗い感情が暗い部屋に満ちる。重い空気を纏った女性が、ぎりっと唇を噛み締めた。長く美しい髪が背を滑り、彼女の姿を覆い隠す。
「滅びてしまえばいい……彼に愛されるすべて」
呟いた呪詛が言霊となり、本人さえ気づかぬ場所で龍神を縛り上げる鎖となる。
シンと落ちた沈黙の中、爆弾発言の本人が小首を傾げる。きょとんとした顔は、己の発言の重大性が理解できていないのだろう。
「えっと……アカリ?」
意を決して尋ねる真桜が口をひらく。
「どうした?」
「いや……あの、本当に知ってる?」
こくんと頷いたアカリの動きを、全員が視線で追って頷く。
華守流と華炎は顔を見合わせ、真桜はアカリの肩を掴んだまま……天若に到ってはくつくつと笑い始めていた。
「教えてくれる、と有り難いんだけど」
遠慮がちに笑顔を作った真桜へ、アカリは無邪気に微笑んで説明を始めた。
どうやら真桜に頼りにされたのが嬉しいらしい。神族として傅かれてきた存在としては、あまりに小さな喜びである。
「山吹と言ったか、あの帝とやらがいる宮の奥に住まう『太陽の髪色の娘』が呪詛を吐いた。言霊は無意識であれ、力があれば天をも揺るがす。事実、かの娘が呪った存在に災いが降りかかっているぞ」
曖昧な濁し方をしているが、要は帝の親族である娘が真桜を呪っている――という意味だ。眉を顰めた真桜が舌打ちして拳を握った。
「……青葛か?」
高天原の神々の末裔と伝えられる皇族の中でも霊力の高い者は、外見に特徴がある。
先祖返りなのか、髪色や肌、瞳に日本人らしからぬ色を纏うことが多かった。山吹の金髪と水色の瞳しかり、青葛の白い肌と金髪……黒に近いながらも鮮やかな菫色をした瞳がそうだ。
その為、帝は人前に姿を晒さないという暗黙の了解が出来た。
現在、今上帝の親族で金色の髪を持つのは彼女ひとり。
『……確かに恨まれているかもしれないな』
華炎の呟きに、華守流が苦笑いを深めて頷いた。
『気の強そうな女だった』
『今上帝が放置するからでしょう? 好きな子ほど苛めるなんて……幼すぎます』
黒葉まで一緒になって溜め息を吐く。
彼らの呟きで天若やアカリにも大まかな状況が掴めた。
青葛は山吹が好きで、逆もまたしかり。しかし山吹は天邪鬼な彼女に意地悪をして構わないので、嫉妬した彼女が『誉れ高い、帝のお気に入り(の陰陽師)』へ怨念を向けた。
なまじ血筋が良く能力が高かった為に、呪が強大に育ったらしい。
「原因がわかれば簡単だ、すぐにその娘を排除すればいい」
「簡単に言ってくれるけど……」
そう容易に誤解が解けるなら、ここまで呪われてないと思うぜ。呟いた真桜に『引っかかる場所が間違っていますよ、真桜さま』と笑顔で黒葉が突っ込む。
排除という物騒な言い回しをスルーした真桜は小首を傾げ、やがて諦めた様子で肩を竦めた。
「なんとかなるでしょ……」
暗い感情が暗い部屋に満ちる。重い空気を纏った女性が、ぎりっと唇を噛み締めた。長く美しい髪が背を滑り、彼女の姿を覆い隠す。
「滅びてしまえばいい……彼に愛されるすべて」
呟いた呪詛が言霊となり、本人さえ気づかぬ場所で龍神を縛り上げる鎖となる。
シンと落ちた沈黙の中、爆弾発言の本人が小首を傾げる。きょとんとした顔は、己の発言の重大性が理解できていないのだろう。
「えっと……アカリ?」
意を決して尋ねる真桜が口をひらく。
「どうした?」
「いや……あの、本当に知ってる?」
こくんと頷いたアカリの動きを、全員が視線で追って頷く。
華守流と華炎は顔を見合わせ、真桜はアカリの肩を掴んだまま……天若に到ってはくつくつと笑い始めていた。
「教えてくれる、と有り難いんだけど」
遠慮がちに笑顔を作った真桜へ、アカリは無邪気に微笑んで説明を始めた。
どうやら真桜に頼りにされたのが嬉しいらしい。神族として傅かれてきた存在としては、あまりに小さな喜びである。
「山吹と言ったか、あの帝とやらがいる宮の奥に住まう『太陽の髪色の娘』が呪詛を吐いた。言霊は無意識であれ、力があれば天をも揺るがす。事実、かの娘が呪った存在に災いが降りかかっているぞ」
曖昧な濁し方をしているが、要は帝の親族である娘が真桜を呪っている――という意味だ。眉を顰めた真桜が舌打ちして拳を握った。
「……青葛か?」
高天原の神々の末裔と伝えられる皇族の中でも霊力の高い者は、外見に特徴がある。
先祖返りなのか、髪色や肌、瞳に日本人らしからぬ色を纏うことが多かった。山吹の金髪と水色の瞳しかり、青葛の白い肌と金髪……黒に近いながらも鮮やかな菫色をした瞳がそうだ。
その為、帝は人前に姿を晒さないという暗黙の了解が出来た。
現在、今上帝の親族で金色の髪を持つのは彼女ひとり。
『……確かに恨まれているかもしれないな』
華炎の呟きに、華守流が苦笑いを深めて頷いた。
『気の強そうな女だった』
『今上帝が放置するからでしょう? 好きな子ほど苛めるなんて……幼すぎます』
黒葉まで一緒になって溜め息を吐く。
彼らの呟きで天若やアカリにも大まかな状況が掴めた。
青葛は山吹が好きで、逆もまたしかり。しかし山吹は天邪鬼な彼女に意地悪をして構わないので、嫉妬した彼女が『誉れ高い、帝のお気に入り(の陰陽師)』へ怨念を向けた。
なまじ血筋が良く能力が高かった為に、呪が強大に育ったらしい。
「原因がわかれば簡単だ、すぐにその娘を排除すればいい」
「簡単に言ってくれるけど……」
そう容易に誤解が解けるなら、ここまで呪われてないと思うぜ。呟いた真桜に『引っかかる場所が間違っていますよ、真桜さま』と笑顔で黒葉が突っ込む。
排除という物騒な言い回しをスルーした真桜は小首を傾げ、やがて諦めた様子で肩を竦めた。
「なんとかなるでしょ……」
10
あなたにおすすめの小説
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
貧乏奨学生の子爵令嬢は、特許で稼ぐ夢を見る 〜レイシアは、今日も我が道つき進む!~
みちのあかり
ファンタジー
同じゼミに通う王子から、ありえないプロポーズを受ける貧乏奨学生のレイシア。
何でこんなことに? レイシアは今までの生き方を振り返り始めた。
第一部(領地でスローライフ)
5歳の誕生日。お父様とお母様にお祝いされ、教会で祝福を受ける。教会で孤児と一緒に勉強をはじめるレイシアは、その才能が開花し非常に優秀に育っていく。お母様が里帰り出産。生まれてくる弟のために、料理やメイド仕事を覚えようと必死に頑張るレイシア。
お母様も戻り、家族で幸せな生活を送るレイシア。
しかし、未曽有の災害が起こり、領地は借金を負うことに。
貧乏でも明るく生きるレイシアの、ハートフルコメディ。
第二部(学園無双)
貧乏なため、奨学生として貴族が通う学園に入学したレイシア。
貴族としての進学は奨学生では無理? 平民に落ちても生きていけるコースを選ぶ。
だが、様々な思惑により貴族のコースも受けなければいけないレイシア。お金持ちの貴族の女子には嫌われ相手にされない。
そんなことは気にもせず、お金儲け、特許取得を目指すレイシア。
ところが、いきなり王子からプロポーズを受け・・・
学園無双の痛快コメディ
カクヨムで240万PV頂いています。
追放聖女だってお茶したい!─セカンドライフはティーサロン経営を志望中─
石田空
ファンタジー
「ミーナ今までありがとう。聖女の座を降りてもらおう」
貴族の利権関係が原因でいきなり聖女をクビになった庶民出身のミーナ。その上あてがわれた婚約者のルカは甘味嫌いで食の趣味が合わない。
「嫌! 人の横暴に付き合うのはもうこりごり! 私は逃げます!」
かくしてミーナは神殿から脱走し、ティーサロン経営のために奔走しはじめた。
ときどき舞い込んでくるトラブル。
慌ててミーナを探しているルカ。
果たしてミーナは理想のセカンドライフを歩めるのか。
甘いお菓子とお茶。そしてちょっとの恋模様。
*サイトより転載になります。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
荷物持ちを追放したら、酷い目にあった件について。
しばたろう
ファンタジー
無能だと思い込み、荷物持ちのレンジャーを追放した戦士アレクス。
しかし――
彼が切り捨てた仲間こそが、
実はパーティを陰で支えていたレアスキル持ちだった。
事実に気づいた時にはもう遅い。
道に迷い、魔獣に襲われ、些細な任務すらまともにこなせない。
“荷物持ちがいなくなった瞬間”から、
アレクスの日常は静かに崩壊していく。
短絡的な判断で、かけがえのない存在を手放した戦士。
そんな彼と再び肩を並べることになったのは――
美しいのに中二が暴走する魔法使い
ノー天気で鈍感な僧侶
そして天性の才を秘めた愛くるしい弟子レンジャー
かつての仲間たちと共に、アレクスはもう一度歩き出す。
自らの愚かさと向き合い、後悔し、懺悔し、それでも進むために。
これは、
“間違いを犯した男が、仲間と共に再び立ち上がる”
再生の物語である。
《小説家になろうにも投稿しています》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる