【完結】陰陽師は神様のお気に入り

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

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第4章 陰陽師の弟子取り騒動

14.***想母***

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「藍人の乳母は見つかったか?」

「……見つかったよ。残念だけど」

 当事者がいるからか。山吹は言葉を濁した。それは見つかった乳母が生きていなかったという意味だ。宮中に上がった人間の管理は、専門の者が配置されている。不審死などあってはならなかった。

 帝が住まう御所内にけがれがあれば、陰陽師がはら仕来しきたりだ。しかし陰陽寮に「祓い」の依頼はなかった。つまり調べなければ、彼女の存在自体をなかったことにして消されたという意味だ。

「ならば呼べばよい」

 アカリは神様らしい残酷な言葉を吐く。必要だと考えれば、他者の気持ちや意向など気にしない。己がやりたいように振る舞うのが神族の特徴であり、彼らしい部分でもあった。

 藍人を見やった真桜が懸念を表明する。無言で示された仕草と表情に、アカリは苦笑いした。

「人とは深く考えすぎるものよな。知らぬは罪となり、道を誤る原因となる。そなたが一番よく知っておるだろうに」

 母の死の原因を知らなかった当初、確かに惑わされた経験がある。悪霊の言葉に耳を傾け、同族に牙を剥いたのだ。『父に母は殺された』冷静に考えればわかることを、真実を知らされなかった状況を深読みして誤解し、騒動を大きくした。

 その経験を生かさず、同じ道を辿らせるのか。問うアカリの声色は冷たかった。感情を一切込めず、淡々と事実の刃を突きつける。

「……やっぱり、アカリは神様なんだな」

 神とは本来残酷な存在だ。身勝手に他の命を奪い、気紛れに慈悲を与える。強大な力を感情のままに揮う自己愛の強い生き物。

 ふっと表情を和らげた真桜は、困惑顔の藍人を手招きした。顔をみてきちんと説明する必要がある。伝えるなら中途半端なことはしない。

「藍人、ここに座れ」

「はい」

 何か大切な話だと感じた彼が正座し、その前に同じように座った真桜が藍人の手を掴んだ。己の右手のひらの上に藍人の手を乗せ、上から左手で包む。

「悲しい知らせだ。藍人を育てた乳母が亡くなった」

「……はい」

 静かに頷く少年は、まるで最初から知っていたように取り乱すことはなかった。感情を削ぎ落した少年の顔をみながら、真桜は「やっぱり」と呟く。

 藍人は乳母が自分の身代わりに殺されると、知っていたのだ。何度も乳母も一緒に逃げるよう懇願したかもしれない。彼女を助けようと手を打ったとして、それでも失われることを知っていたとしたら。最初に門を潜った時の覚悟を決めた表情が思い浮かんだ。

「彼女を呼んで話をしようと思う。どうする?」

 ごくりと喉を鳴らした藍人は、真っ赤な目を潤ませながら頷いた。その頬に一筋、涙が零れ落ちる。

「お邪魔で、なければ……ここに」

 姿を見るだけでいいと願う子供の声は震えていた。白と赤という特殊な色違いで生まれた子を、蛇蝎だかつのごとく嫌う母親は彼に触れなかった。そんな赤子を哀れと、乳母になった彼女は必死に愛情を注いで育ててくれたのだ。産みの母より大切な存在に、一目会いたいと願うのは当然だった。

 本来ならまだ親の庇護下にある年の子供に、真桜は己を重ねた。だから初対面で彼を認めたのだ。護ってくれる存在がいないこの世で、彼が生きる居場所を作る手伝いがしたいと思った。居場所を与える神のような驕った考えは持たない真桜は、ひとつ息をついた。

「3つだけ守れ。彼女に触れないこと、許可が出るまで声をかけないこと、絶対に結界から出ないこと」

「わかりました」

 陰陽の術を多少なりと習った藍人は、誓約の怖さを教えられている。真桜が頬を緩めて頭を撫でてやろうとしたが、先に動いたのは糺尾だった。ふわふわの尻尾を左右に振りながら、藍人の膝の上によじ登る。重なった手をぺろぺろ舐めてから「きゅーん」と鳴いた。

「糺尾、そろそろ戻れ」

 藍人の手を離した真桜が糺尾の首筋を掴んで持ち上げると、瞬きの間に小柄な黒髪の子供に変化へんげする。狐に騙されたとはよく言ったもので、驚いて瞬きする藍人の目はもう濡れていなかった。幼い糺尾なりの慰め方なのだろう。

 不器用な弟子2人に微笑む真桜を見ながら、アカリは後ろで「そっくりな師弟だ」と呟く。華炎と華守流も珍しく反論せず、苦笑しながら同意した。
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