【完結】陰陽師は神様のお気に入り

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
118 / 131
第4章 陰陽師の弟子取り騒動

25.***闇鎖***

しおりを挟む
 意識を失っていた真桜がゆらりと起き上がる。完全に赤く染まった瞳で、周囲を見回した。己の結界を確認すると、隣で胸を押さえるアカリに手を伸ばす。神力を注いでアカリを闇から隔離かくりするまくを作り上げた。

「……悪い、気遣えなかった」

 倒れたアカリを縁側に横たえ、自分の膝に頭を乗せる。普段と逆の姿勢で覗き込むと、整った美しい顔に浮かんでいた苦痛の色が薄れていく。ほっと息をつきながら、黒髪をさらさらと手櫛てぐしいた。

 見上げる先は真っ暗で、空間は完全に閉ざされている。このまま放置するわけに行かないが、一昼夜は解呪が出来ない。大きな力を振るいすぎた代償は、真桜の身体をむしばんでいた。追われた地祇を守ることは成功したものの、逆に真桜自身が封じられてしまう。

「まあ……アイツらに任せるしかないけど」

 珍しく自分が動けない状況に置かれ、真桜はくすくす忍び笑う。誰よりも先に矢面やおもてに立つ主君に、護り手や式神である彼らが不満に感じているのは知っていた。それでも考えるより先に動いてしまう。さぞ心配させ、もどかしい思いをさせただろう。

 だが、こうして動けなくなってわかることもあった。

 任せられるだけの実力者が周囲を固める恵まれた環境――今まで知っていても理解していなかったのだと思う。彼が役に立つ実力を持ち、主の役に立ちたいと願う気持ちを知りながら……自らの身を危険に晒して動く主なんて。

「最低だろうな」

 アカリの呼吸が落ち着いたのを確かめ、子供達を思い浮かべた。頼る存在を失った白い子供と、親から離された黒い子供――どちらも藤姫が保護しているので不安はない。父神が与えた力を使いこなす彼女が闇落ちした蛇に負けるはずがなかった。

 安心して任せられる。怠い身体から余分な力を抜き、アカリの黒髪を抱くように丸くなった。





『そちらはお任せします』

 東から北を経て西に至るまでを式神2人に任せ、黒葉は南へ目を向けた。敵は南の結界を破ったのだから、この方角は譲れない。すでに別の場所へ逃げ込んだとしても、何らかの手掛かりが残されているはずだ。

華守流かるら、西から回れ』

『気を付けろ、仮にも神だった縄だ』

 蛇という単語を避けて会話した式神が左右に散るのを見届け、黒葉は闇夜に目をらした。夜目が利くのは闇の神族ならではだ。物理的な闇を通り越し、夜の景色に残された縄の痕跡を辿る。意識を集中させた緑の瞳が、わずかな跡を捉えた。

『見つけました』

 にやりと笑った黒葉の口元が、残酷な色を刷く。闇の神族である神王の影より作られた黒葉は、どこまでも本質が黒い。眷属の中で最も闇に近いゆえに、本体が刀の形を取るのだ。人の形を纏う理由は、黒刃という本性を隠すためだった。

 しかし解放して構わない。あの方の身を傷つけ、血を流させた蛇を殺す行為に躊躇や許しを請う必要はなかった。

 都から離れ、まだ夜明け前の暗い空の下で森を見下ろす。木々に隠された土地は穢れ、国津神の加護を失っていた。黒く光を吸い込む沼が横たわる。

『楽しませていただきましょう』

 痕跡を辿る黒葉は、淀んだ沼の縁に立つ木に絡みついた蛇に微笑んだ。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

貧乏奨学生の子爵令嬢は、特許で稼ぐ夢を見る 〜レイシアは、今日も我が道つき進む!~

みちのあかり
ファンタジー
同じゼミに通う王子から、ありえないプロポーズを受ける貧乏奨学生のレイシア。 何でこんなことに? レイシアは今までの生き方を振り返り始めた。 第一部(領地でスローライフ) 5歳の誕生日。お父様とお母様にお祝いされ、教会で祝福を受ける。教会で孤児と一緒に勉強をはじめるレイシアは、その才能が開花し非常に優秀に育っていく。お母様が里帰り出産。生まれてくる弟のために、料理やメイド仕事を覚えようと必死に頑張るレイシア。 お母様も戻り、家族で幸せな生活を送るレイシア。 しかし、未曽有の災害が起こり、領地は借金を負うことに。 貧乏でも明るく生きるレイシアの、ハートフルコメディ。 第二部(学園無双) 貧乏なため、奨学生として貴族が通う学園に入学したレイシア。 貴族としての進学は奨学生では無理? 平民に落ちても生きていけるコースを選ぶ。 だが、様々な思惑により貴族のコースも受けなければいけないレイシア。お金持ちの貴族の女子には嫌われ相手にされない。 そんなことは気にもせず、お金儲け、特許取得を目指すレイシア。 ところが、いきなり王子からプロポーズを受け・・・ 学園無双の痛快コメディ カクヨムで240万PV頂いています。

追放聖女だってお茶したい!─セカンドライフはティーサロン経営を志望中─

石田空
ファンタジー
「ミーナ今までありがとう。聖女の座を降りてもらおう」 貴族の利権関係が原因でいきなり聖女をクビになった庶民出身のミーナ。その上あてがわれた婚約者のルカは甘味嫌いで食の趣味が合わない。 「嫌! 人の横暴に付き合うのはもうこりごり! 私は逃げます!」 かくしてミーナは神殿から脱走し、ティーサロン経営のために奔走しはじめた。 ときどき舞い込んでくるトラブル。 慌ててミーナを探しているルカ。 果たしてミーナは理想のセカンドライフを歩めるのか。 甘いお菓子とお茶。そしてちょっとの恋模様。 *サイトより転載になります。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

荷物持ちを追放したら、酷い目にあった件について。

しばたろう
ファンタジー
無能だと思い込み、荷物持ちのレンジャーを追放した戦士アレクス。 しかし―― 彼が切り捨てた仲間こそが、 実はパーティを陰で支えていたレアスキル持ちだった。 事実に気づいた時にはもう遅い。 道に迷い、魔獣に襲われ、些細な任務すらまともにこなせない。 “荷物持ちがいなくなった瞬間”から、 アレクスの日常は静かに崩壊していく。 短絡的な判断で、かけがえのない存在を手放した戦士。 そんな彼と再び肩を並べることになったのは―― 美しいのに中二が暴走する魔法使い ノー天気で鈍感な僧侶 そして天性の才を秘めた愛くるしい弟子レンジャー かつての仲間たちと共に、アレクスはもう一度歩き出す。 自らの愚かさと向き合い、後悔し、懺悔し、それでも進むために。 これは、 “間違いを犯した男が、仲間と共に再び立ち上がる” 再生の物語である。 《小説家になろうにも投稿しています》

処理中です...