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03.許されるには遅すぎた(絶対神SIDE)
許してくれと口にするには遅すぎた。それは自覚がある。こんなに痩せ細って傷ついて、心までずたずたじゃないか。ボロを纏った体は饐えた臭いがする。それでも間違いなく俺の愛し子だった。
この子を宿すはずの女性が死んだ。偶然の事故だったが、慌てふためく。すでに転生の準備は終えており、自動的に腹に宿すのを待つばかりだ。次の母親候補を探している間に、転生の順番が来て生まれてしまった。対になる俺と同じ色を宿して……。
目印となる黒髪と金瞳を探すが、不思議と見つからなかった。ある女神に指摘されて気づく。他の世界に生まれた可能性がある。俺の管理する五つの世界に、この子を宿せる女性はいなかった。だが生まれる順番は近づき、別の世界にいた条件を満たす女性が身籠る。
すでに生まれた後だ。心細い思いをしていないか、必死であらゆる世界を探し回った。その結果が、これだ。俺は遅かった。失敗で俺が苦しむのはいいが、この子は泣きながら過ごしたのだ。誰が仕方なかったと口にしたとしても、この子にそれは通用しない。
「本当にごめんな、俺がすべて悪い」
ずずっと鼻を啜った様子に、上着の内側へ抱き込んだ。手足だけでなく全体に冷たい。見回した小屋は小さく、衛生的に子どもが暮らす環境ではなかった。足元を虫が歩き、藁ですらない枯草が敷かれている。家畜と同じ扱いをされていたのだ。気づけば、目の前が赤くなるほど腹が立った。
己の失態への八つ当たりもある。自覚しながら、扉を吹き飛ばした。木製の粗末な扉は遠くまで跳ね飛ばされ、派手な音で庭を荒らす。きちんと手入れされた庭や屋敷を見ればわかる。この子は故意にここへ捨てられた。
「我が伴侶への行いは、相応の報いが必要だ」
くしゅん、愛らしい音に慌てる。ひとまず復讐や報復は後回しにしよう。この子を温めて、美味しい食事を与え、洗って綺麗にしてやらなくては。現れた時と同じように世界を跨ごうとして、点滅する光に首を傾げた。
「お前達が保護してくれたのか」
答えるように動き回る光は、さらに何かを伝えてくる。この世界に生まれたことで紐づいた絆が切れるまで、この子を移動させるのは危険だ……と。その警告に頷いた。
「わかった。その通りにしよう」
ついて参れと言わずとも、光はこの子から離れない。一番近くの大きな街を探し、一気に飛んだ。地点を確認し、中間の物質や時間を圧縮して飛び越える。故に「飛ぶ」と表現する神が多かった。ある世界では転移や魔法と呼ぶこともある。
賑やかな街の路地から出て、宿屋を示す看板をくぐった。俺の顔を見るなり、女性がわっと近づいて来る。だが全く興味がないので無視して、宿泊の手配をした。ここは俺が管理する世界ではない。他の神の神殿を利用すると面倒なので、旅行者を装った。
臭いがする幼子に顔を顰める宿屋の主人へ、黄金を数粒握らせる。途端に対応が変わった。
「食事を用意してくれ。それからこの子の服、靴だ」
「ええ、別料金になりますが」
「構わん」
がめつい宿屋の主人へ、鷹揚に頷く。金などいくらでも作り出せる。何より、この子が快適に過ごせることが最優先だった。この宿で最高の部屋だと前置きされたが、無駄に装飾品が多いだけ。それでも風呂が備え付けなのは助かる。
チップ代わりに金を一粒渡し、扉を閉めた。まだ眠る幼子の頬に濡れた跡がある。不思議なことに存在が確定していないように感じられた。別世界に生まれた影響か? 俺は己の力を注ぎながら、愛し子を風呂へ運んだ。
この子を宿すはずの女性が死んだ。偶然の事故だったが、慌てふためく。すでに転生の準備は終えており、自動的に腹に宿すのを待つばかりだ。次の母親候補を探している間に、転生の順番が来て生まれてしまった。対になる俺と同じ色を宿して……。
目印となる黒髪と金瞳を探すが、不思議と見つからなかった。ある女神に指摘されて気づく。他の世界に生まれた可能性がある。俺の管理する五つの世界に、この子を宿せる女性はいなかった。だが生まれる順番は近づき、別の世界にいた条件を満たす女性が身籠る。
すでに生まれた後だ。心細い思いをしていないか、必死であらゆる世界を探し回った。その結果が、これだ。俺は遅かった。失敗で俺が苦しむのはいいが、この子は泣きながら過ごしたのだ。誰が仕方なかったと口にしたとしても、この子にそれは通用しない。
「本当にごめんな、俺がすべて悪い」
ずずっと鼻を啜った様子に、上着の内側へ抱き込んだ。手足だけでなく全体に冷たい。見回した小屋は小さく、衛生的に子どもが暮らす環境ではなかった。足元を虫が歩き、藁ですらない枯草が敷かれている。家畜と同じ扱いをされていたのだ。気づけば、目の前が赤くなるほど腹が立った。
己の失態への八つ当たりもある。自覚しながら、扉を吹き飛ばした。木製の粗末な扉は遠くまで跳ね飛ばされ、派手な音で庭を荒らす。きちんと手入れされた庭や屋敷を見ればわかる。この子は故意にここへ捨てられた。
「我が伴侶への行いは、相応の報いが必要だ」
くしゅん、愛らしい音に慌てる。ひとまず復讐や報復は後回しにしよう。この子を温めて、美味しい食事を与え、洗って綺麗にしてやらなくては。現れた時と同じように世界を跨ごうとして、点滅する光に首を傾げた。
「お前達が保護してくれたのか」
答えるように動き回る光は、さらに何かを伝えてくる。この世界に生まれたことで紐づいた絆が切れるまで、この子を移動させるのは危険だ……と。その警告に頷いた。
「わかった。その通りにしよう」
ついて参れと言わずとも、光はこの子から離れない。一番近くの大きな街を探し、一気に飛んだ。地点を確認し、中間の物質や時間を圧縮して飛び越える。故に「飛ぶ」と表現する神が多かった。ある世界では転移や魔法と呼ぶこともある。
賑やかな街の路地から出て、宿屋を示す看板をくぐった。俺の顔を見るなり、女性がわっと近づいて来る。だが全く興味がないので無視して、宿泊の手配をした。ここは俺が管理する世界ではない。他の神の神殿を利用すると面倒なので、旅行者を装った。
臭いがする幼子に顔を顰める宿屋の主人へ、黄金を数粒握らせる。途端に対応が変わった。
「食事を用意してくれ。それからこの子の服、靴だ」
「ええ、別料金になりますが」
「構わん」
がめつい宿屋の主人へ、鷹揚に頷く。金などいくらでも作り出せる。何より、この子が快適に過ごせることが最優先だった。この宿で最高の部屋だと前置きされたが、無駄に装飾品が多いだけ。それでも風呂が備え付けなのは助かる。
チップ代わりに金を一粒渡し、扉を閉めた。まだ眠る幼子の頬に濡れた跡がある。不思議なことに存在が確定していないように感じられた。別世界に生まれた影響か? 俺は己の力を注ぎながら、愛し子を風呂へ運んだ。
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