【完結】絶対神の愛し子 ~色違いで生まれた幼子は愛を知る~

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
6 / 105

06.嫌な予感はある意味当たった(絶対神SIDE)

しおりを挟む
 まだ名前も聞けていない幼子を結界で包む。人の体は脆弱だ。無理な力を掛ければ反動で痛めてしまう。ゆっくり、まどろっこしくなるくらいの時間をかけて傷を消した。

 二歳前後、やっと言葉を使い始めたばかりのこの子は、信じられないほどの傷跡が残っている。腹部は皮下出血の痕跡があり、骨に歪みもあった。大人に力任せに蹴られたのだろう、それも一度や二度ではないはず。顔や手に傷が少ないのは、見えない場所を狙って傷つけられたから。

 この子に罪はない。すべて俺の罪であり、俺が受けるべき罰だった。ひとつずつ傷を俺に移動させる。ずきんと痛む脇腹に口元が歪んだ。体の芯が冷たく凍り付き、反対に頭は破裂するかと思うほど熱く感じた。

 あの連中には相応の報いをくれてやろう。神の愛し子を傷つけたのだ。簡単に死んで終わる程度の罰は温い。知らなかったなど言い訳に過ぎない。なぜなら、子どもは愛されるために生まれる存在なのだから。誰より大切にされ、庇護され、注がれた愛情を糧に育つ。

 家族の愛がなければ、幼子などすぐ死んでしまうはず。この子は俺の加護があった。傷つけられたとしても命に係わる状態は避けられる。それでも心や体が傷つかないわけではなかった。

 ここにいる光は精霊だ。彼らは世界を作り支えるエネルギーだった。彼らが気づいて保護したから、この子は生き残れたのだ。いくら感謝しても足りない。痛みを和らげ、苦しみ泣く幼子を癒し、大切に愛情を注いでくれた。それがなければ、すでにこの子は消滅していたかも知れない。

 ついである俺に馴染めば、愛し子の心が聞こえる。純粋で傷つきやすく柔らかな、汚れない心が手に入るのだ。代わりに、この子へ俺の声が届くようになるだろう。汚れてくすんだ心を、愛し子を愛する気持ちが浄化する。これが神々が愛し子を望む理由だった。

 長く複数の世界を管理する神の穢れや淀みを、愛し子が溶かしてくれる。そのため、神々にとって愛し子は特別だった。いがみ合う神々も互いの愛し子にだけは手を出さないほどに。神聖で特別な存在だ。

「お前達のボスはどこだ?」

 この世界を管理する神がいる。精霊達はそのしもべだった。遣いと言ってもいい。光はくるくると回った後、どこかへ誘導する仕草を見せた。幼子を抱いたまま、窓を開く。夜風が心地よい涼しさを運び、同時に三毛の猫が飛び込んだ。やはり三毛猫が神だったようだ。

 他の世界を統べる神の気配がする愛し子が、己の管理する世界に現れた。放置すれば殺されかねない状況で、猫の姿を借りて守ってくれたのだろう。助けが来るまで、手を貸し過ぎない範囲で。他の世界の干渉を色濃く残す子を匿えば、神であれ影響を受ける。その不利益を覚悟で守った。

 守られたこの子の、本当の価値を知るのは俺だけ。見捨てることも可能な状況で手を差し伸べたこの世界の神へ、静かに頭を下げて礼を尽くす。地位が低い神であっても恩人だった。

「我が愛し子を庇護したこと、感謝する。叶えられる範囲でお礼をしよう」

「この子が馴染むまで、一緒に過ごす権利を頂けませんか」

 思わぬ申し出に、断る選択肢がなかった。この子の命の恩人の頼みとあれば、拒む権利はない。何より、この子自身が「にゃー」と呼んで懐いているのだ。取り上げるのは酷だろう。

「分かった。猫のままか?」

「違う形になったら、この子に分からなくなるでしょう」

 くすっと笑う小癪な猫に、肩を竦めて同意する。

「ところで、この子に名づけはなされたのだろうか」

「……いいや」

 この世界を管理する神をして、知らぬと。両親の色を受け継がないこの子は異端とされ、誰も名づけを行わなかった。この世界で名づけのない子は、人扱いされない。話を聞く俺の怒りは、どろりとマグマのような熱を帯びて腹の底に溜まっていく。

 死ぬより悲惨な目に遭わせてやろう――俺の呟きに猫は「にゃー」と同意を返した。
しおりを挟む
感想 99

あなたにおすすめの小説

美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ

さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。 絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。 荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。 優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。 華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

学園首席の私は魔力を奪われて婚約破棄されたけど、借り物の魔力でいつまで調子に乗っているつもり?

今川幸乃
ファンタジー
下級貴族の生まれながら魔法の練習に励み、貴族の子女が集まるデルフィーラ学園に首席入学を果たしたレミリア。 しかし進級試験の際に彼女の実力を嫉妬したシルヴィアの呪いで魔力を奪われ、婚約者であったオルクには婚約破棄されてしまう。 が、そんな彼女を助けてくれたのはアルフというミステリアスなクラスメイトであった。 レミリアはアルフとともに呪いを解き、シルヴィアへの復讐を行うことを決意する。 レミリアの魔力を奪ったシルヴィアは調子に乗っていたが、全校生徒の前で魔法を披露する際に魔力を奪い返され、醜態を晒すことになってしまう。 ※3/6~ プチ改稿中

処理中です...