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91.得難い存在だわ(サフィ SIDE)
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殴られたと文句をいうゼルクと交代で、私はイルちゃんの元へ向かった。神格の引き上げは順調だが、シアラに大きな負担を強いる。それを軽くするため、メリク様が間に入っていた。
目を離す形になる愛し子は、交代で私達が守る。もちろん、仕事でなくても一緒にいたい。私にはまだ愛し子がいないから、余計にそう感じていた。
「サフィ、なおる?」
玄関先で見つけた小鳥は、大型の猛禽類に襲われたらしい。背中から羽にかけて傷を負っていた。爪で引き裂かれた傷が痛々しい。私が現れたとき、見つけた小鳥の前に座ったイルちゃんは、泣きそうだった。
「そうね、手当をしましょうか」
「うん……やる」
血を怖がることなく、痛いだろうと小鳥を気遣う。自らが痛い思いをしてきたせいか、とても心優しい子だ。イルちゃんがこれ以上悲しまないよう、治癒を施すつもりだった。しかし、イルちゃんは部屋に小鳥を運んだ私へ布を差し出した。
「ここ、ねる」
言葉が上手に出てこない幼子は、布を丸くして小鳥を見た。言われた通りに小鳥を置けば、上から撫でている。
「痛いところを少しずつ消すから、手伝ってくれる?」
力を使って一瞬で治すのは簡単だ。よその神の領域であっても、この程度の治癒は問題にならない。だけど、イルちゃんに体験させたいと思った。小鳥を治したあと、どんな笑顔を見せてくれるだろう。それが楽しみでもある。
イルちゃんの手を包んで、精霊に呼びかける。可愛いイルちゃんが望んでいるから、少し力を貸してほしい、と。精霊達はすぐに応えた。ぼんやり光る手を、イルちゃんは首を傾げて見ている。
「この手の光を小鳥へ移すの。ゆっくり撫でて、そうよ。上手だわ」
後ろから抱き抱えて、小鳥の上に手を翳した。その下で、ほんのり光を宿した指先で、イルちゃんが小鳥を撫でる。赤い血を流し、裂けた肉が痛々しかった小鳥は、大人しく身を委ねた。
癒そうとする波動を感じているのか、もしくは生きることを諦めたのか。動かない小鳥に「いたい?」「なおるよ」と声をかけるイルちゃんは、何度も小鳥に手を当てた。やがて手の光が消えると、困ったような顔をする。
「イルちゃん、ほら。もう治ったわ」
「なおった?」
小鳥がもぞもぞと身を起こし、羽を広げたり閉じたりする。その様子を見て、イルちゃんは大喜びした。動かせるし、動いている。単純なことだけれど、初めて命を生み出した日の感動を思い出した。
神として当たり前になった創造は、命への思いを軽くしてしまった。この子といると、懐かしい感情が蘇る。得難い存在だわ。
「とぶ?」
「ええ、その前に洗ったほうがいいかも」
ふふっと笑って、指をパチンと鳴らした。赤い血はまた敵を招くし、見た目も悪い。綺麗に羽を整え、ついでに残っていた傷もすべて消した。
小鳥はすぐに飛ばず、イルちゃんの指先へ乗る。お礼を告げるように、何度も小さな声で鳴いた。にこにこしながらイルちゃんは玄関へ向かう。背伸びして扉を開け、小鳥が乗った左手を上に持ち上げた。
「またね」
ふわりと風に乗る小鳥は舞い上がり、くるくると回った。手を振るイルちゃんの前で鳴くと、空へ飛び去る。最後まで見送って、イルちゃんは自分のお腹を撫でた。
「おなか、すいた」
「ふふっ、ご飯にしましょうね」
慈悲深い神のような見送りに似合わぬイルちゃんの呟きは、不思議と心に刻まれた。見返りを求めず与えるのが神だ。忘れていた大切な何かを取り戻した気がする。
手を繋いで玄関を閉め、自分の世界から果物やお菓子を取り寄せた。いつもの癖で口を開けるイルちゃんへ、果物を与えようとしたら……現れたメリク様に邪魔された。分かってるわ、あなたの特権だもの。でも一度くらい食べさせてもいいじゃない。
目を離す形になる愛し子は、交代で私達が守る。もちろん、仕事でなくても一緒にいたい。私にはまだ愛し子がいないから、余計にそう感じていた。
「サフィ、なおる?」
玄関先で見つけた小鳥は、大型の猛禽類に襲われたらしい。背中から羽にかけて傷を負っていた。爪で引き裂かれた傷が痛々しい。私が現れたとき、見つけた小鳥の前に座ったイルちゃんは、泣きそうだった。
「そうね、手当をしましょうか」
「うん……やる」
血を怖がることなく、痛いだろうと小鳥を気遣う。自らが痛い思いをしてきたせいか、とても心優しい子だ。イルちゃんがこれ以上悲しまないよう、治癒を施すつもりだった。しかし、イルちゃんは部屋に小鳥を運んだ私へ布を差し出した。
「ここ、ねる」
言葉が上手に出てこない幼子は、布を丸くして小鳥を見た。言われた通りに小鳥を置けば、上から撫でている。
「痛いところを少しずつ消すから、手伝ってくれる?」
力を使って一瞬で治すのは簡単だ。よその神の領域であっても、この程度の治癒は問題にならない。だけど、イルちゃんに体験させたいと思った。小鳥を治したあと、どんな笑顔を見せてくれるだろう。それが楽しみでもある。
イルちゃんの手を包んで、精霊に呼びかける。可愛いイルちゃんが望んでいるから、少し力を貸してほしい、と。精霊達はすぐに応えた。ぼんやり光る手を、イルちゃんは首を傾げて見ている。
「この手の光を小鳥へ移すの。ゆっくり撫でて、そうよ。上手だわ」
後ろから抱き抱えて、小鳥の上に手を翳した。その下で、ほんのり光を宿した指先で、イルちゃんが小鳥を撫でる。赤い血を流し、裂けた肉が痛々しかった小鳥は、大人しく身を委ねた。
癒そうとする波動を感じているのか、もしくは生きることを諦めたのか。動かない小鳥に「いたい?」「なおるよ」と声をかけるイルちゃんは、何度も小鳥に手を当てた。やがて手の光が消えると、困ったような顔をする。
「イルちゃん、ほら。もう治ったわ」
「なおった?」
小鳥がもぞもぞと身を起こし、羽を広げたり閉じたりする。その様子を見て、イルちゃんは大喜びした。動かせるし、動いている。単純なことだけれど、初めて命を生み出した日の感動を思い出した。
神として当たり前になった創造は、命への思いを軽くしてしまった。この子といると、懐かしい感情が蘇る。得難い存在だわ。
「とぶ?」
「ええ、その前に洗ったほうがいいかも」
ふふっと笑って、指をパチンと鳴らした。赤い血はまた敵を招くし、見た目も悪い。綺麗に羽を整え、ついでに残っていた傷もすべて消した。
小鳥はすぐに飛ばず、イルちゃんの指先へ乗る。お礼を告げるように、何度も小さな声で鳴いた。にこにこしながらイルちゃんは玄関へ向かう。背伸びして扉を開け、小鳥が乗った左手を上に持ち上げた。
「またね」
ふわりと風に乗る小鳥は舞い上がり、くるくると回った。手を振るイルちゃんの前で鳴くと、空へ飛び去る。最後まで見送って、イルちゃんは自分のお腹を撫でた。
「おなか、すいた」
「ふふっ、ご飯にしましょうね」
慈悲深い神のような見送りに似合わぬイルちゃんの呟きは、不思議と心に刻まれた。見返りを求めず与えるのが神だ。忘れていた大切な何かを取り戻した気がする。
手を繋いで玄関を閉め、自分の世界から果物やお菓子を取り寄せた。いつもの癖で口を開けるイルちゃんへ、果物を与えようとしたら……現れたメリク様に邪魔された。分かってるわ、あなたの特権だもの。でも一度くらい食べさせてもいいじゃない。
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