【完結】魔王なのに、勇者と間違えて召喚されたんだが?

綾雅(りょうが)今年は7冊!

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第2章 手始めに足元から

31.***リリアーナside***

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***リリアーナside***

 命令通り、人間の城を襲った。こんな場所に強い相手はいない。だから私が命じれられたのに、予想外の強者がいた。黒い鱗を持つドラゴンを見たら、人は逃げる。魔物だって半数は逃げる種族ばかりだった。なのに、その雄は眉をひそめて吐き捨てる。

「取り込み中だ、後にしろ」

 父に比べたら弱いが、リリアーナは侮られることに慣れていない。むっとして近づいたところ、伏せろと命じた雄に指で動きを止められた。怒鳴る声と一緒に強い威圧に潰される。強靭な鱗に守られた心臓が、恐怖に高鳴った。殺されるかもしれない。その感情に涙が滲む。

「誰の指示だか知らぬが、オレにケンカを売るとはいい度胸だ。命じた者の元へ案内せよ」

 そんなこと言われても、魔王の元には父がいる。案内したら私の命はないだろう。黒髪の美しい雄に逆らっても殺される……四面楚歌の状況で、必死に訴えた。

『助けて。殺さないで』

 まだ生きていたいのだ。欲しいものが何も手に入っていないのに、死ぬのは嫌だった。いつか番と出会い、一緒に暮らし、優しく抱き締め、前に見た人の子供みたいに頭を撫られたい。その夢をかなえる前に死ぬのは嫌だと必死に訴えると、雄は困惑した表情で鼻先を撫でた。

「……しばしこの場におれ。何とかしてやろう」

 不思議と温かく感じる。雄の手が離れると少し寂しくて、もう一度触って欲しいと思う。怖いけれど、父へ感じる恐怖心とは違った。尻尾を振ると、掴まれて覗き込まれる。驚いて暴れるが、圧倒的な力の差でねじ伏せられた。

 ――見られた。

 動揺して泣いてしまう。もう他の雄と番になることは出来ない。ふしだらな雌だと思われる。ひんひんと声をあげて鳴いた。なぜか謝ってくれた雄は、ドラゴンの習性に詳しい様子だ。あの膨大な魔力量といい、きっと強い魔族の雄だと思うけど……。

 人型を取るように言われて大人しく従う。褐色の肌は黒竜の証だが、金髪は恥ずべき特徴だった。一度も会ったことのない母親が金髪だった所為だと、他の竜に嘲笑されたから恥ずかしい。俯いたところに、黒い布を渡された。やはり金髪は恥ずかしいのだろうか。

「羽織れ。人は鱗の代わりに衣服を纏うものだ」

 いつも命令されてきた私は素直に従う。羽織って、留め方が分からず首の辺りを掴んだ。尻尾を揺らしながら次の命令を待つ。一度与えたのに、雄は布を取り上げた。鱗の代わりだと聞いたのに……そう思った直後、丁寧に巻いて器用に留めてくれた。これなら歩いても取れない。

 名を聞かれて答えたのは……この雄が支配者だから。本来は番と主君にしか見せてはいけない尻尾の裏を見られたし、圧倒的な強さで勝った。負けたドラゴンは大人しく従うのが習わしだ。なのに、雄は自分の名を教えてくれた。

 サタン様

 他のドラゴンの雌の話を盗み聞きした過去が蘇る。雌は強い雄に名を尋ねられたら答えるが、雄は名乗らない。名乗るとしたら、それは番にしてくれる場合だけだ――と。

 この雄は強い。父より強いと思うけど、私を番にしてくれるのだろうか? 一夫多妻がドラゴンの常だが、番は正妻であり一番大切にしてもらえる。いつか番が見つかればいいと願っていたが、こんなに簡単に叶ってもいいのかな……。

 向かってくる人間を倒し、罠がある場所で後ろに匿われる。金瞳に気づいたら、「役に立て」って仕事もくれた。本当にサタン様の番にしてくれるかも知れない。初めて選択肢を委ねられて、魔王の居場所を教えると言ったのは、サタン様に嫌われたくないから。

 もうこんな雄は見つからない。ついて来いと言われたら、ご主人であり番であるサタン様に従うだけだ。転移魔法をあっさりと使いこなし、綺麗な手をした人間の雌を娶った。側室を許すのは、正妻として当然なので不満はない。最初にこの強い雄の種をもらうのは、正妻の特権だから譲らないけど。

 金髪の人間を側室にしたのだから、サタン様は私の金髪も好きかも知れない。だから撫でてくれるのだとしたら、罵られ続けた金髪が誇らしく思える。

 魅了を使っても嫌わないでくれるし、疲れたら優しく労ってくれた。嬉しくて擦り寄れば、抱き上げられる。貧相なガキと罵った相手を血だまりにして名誉を回復するなんて、魔族の中でも最上級の夫だ。

 攻めてきたグリフォンを助け、毒に侵された手を浄化したら褒められた。愛玩物だと自慢気にグリフォンに説明したサタン様は、彼女を2人目の側室に迎える許可を出した。人間を管理する目的で面倒を見るサタン様を助けたくて、ドワーフを山で捕まえる。撫でられたのが嬉しくて、次は餌になる肉を持ち帰った。

 オリヴィエラは番生活に詳しいようで、あれこれと手助けしてくれる。ロゼマリアという最初の側室もドレスを着せてくれた。こんなに魅力的な雄の正妻になれた幸運に感謝しながら、玉座に座る王の傍らに侍る。

 まだ胸がたりないけれど、幼くて種をいただけないけれど……いつかサタン様に相応しい雌になりたい。大きく変わった夢を抱いて、髪を撫でる手に頬をすり寄せた。
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