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第6章 取捨選択は強者の権利だ
127.働き手は歓迎しますわ
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列は途切れたが、ロゼマリアは詰所の前に置かれた粗末なベンチに腰掛け、門の外を気に掛ける。
一度舞い上がったグリフォンが偵察を終えて戻り、美女の姿に戻った。人化する際に服を後で取り出すリリアーナと違い、長く生きたオリヴィエラは翼で身体を隠しながら上手に着替えを済ませる。解けてしまった濃茶の髪を手櫛で整えながら、彼女はロゼマリアに報告した。
「もう到着しそうよ」
「そう、よかったわ。その前に門が片付いて……」
意味ありげに笑うロゼマリアが立ち上がり、後ろで待つ民に声をかけた。
「用意をお願いします。補充しますから、たっぷりと食べさせてくださいね」
「「「わかりました」」」
教会のシスターや有志の民が王女に頭を下げる。少し前までがりがりに痩せていた彼らも、ここ数週間でふっくらと頬が膨らんだ。お腹いっぱい食べられる余裕から、身なりを整え、服を新調する者も増えている。破綻寸前だったバシレイアの都は、悲惨な先代王の負の遺産が嘘のように豊かな暮らしぶりだった。
頻繁に公共事業や人材募集の知らせが掲示され、支払いは希望に応じて食料品や衣料品を選ぶことが出来る。ケガや病を得た者も無料で治療を施されるとあって、都はにわかに活気づいていた。そのため、国外からの商人も多く足を運ぶようになる。すべてが好循環だった。
「きたわ」
門の扉に寄り掛かって目を凝らすオリヴィエラが注意を促す。詰所から出てきたロゼマリアを守るように、数人の衛兵が取り囲んだ。王女自ら迎えるのは――王都の新たな民となる者達だ。国家という後ろ盾を失った彼らが頼るのは、豊かだと伝え聞く隣国だった。
同じ噂に躍って攻め込んだ王侯貴族の振る舞いを知っていても、助けを求める先が他にない。立派な馬車を持たない民が、歩いてたどり着けるのは川沿いのバシレイア国のみ。拒まれる恐怖と戦いながらたどり着いた外壁の門は……開かれていた。
近づくにつれて、門の前に立つ兵士が見えて足が鈍る。しかしここまで来た以上、逃げかえる先もないのだ。覚悟を決めて近づいた男は、荷馬車の中に家族を乗せていた。
腕を組んだ豊満な美女と、品の良い金髪のお姫様――彼女らを守る位置に立つ兵士が近づく。くたびれた馬が引く馬車を止めて、幌の中を確認された。中には子供たち3人と妻……年老いた妻の母だけ。家具らしい家具もなく、着の身着のまま逃げてきた。
「あの……」
「ようこそ、バシレイアへ。働き手は歓迎いたしますわ」
その言葉で自分以外は切り捨てられるのではないかと、農夫は怯えた。振り返った荷馬車の家族を何としても受け入れて欲しい。そう口にする前に、兵士が説明を引き継いだ。
働ける男と妻は農夫としての仕事を、年老いた母親は裁縫などの簡単な内職を、子供達は教育を施すため学校へ通わせるよう個別の指示が出される。驚いた顔で頷く農夫へ、ロゼマリアが印を押した紙を渡した。
「これを見せれば食事が貰える。食べたら、シスターの指示に従って家を割り当てるが……公共事業の手伝いをすれば、肉や衣服ももらえるから、そっちの仕事も手伝うといい」
丁寧に説明しながら衛兵が案内し、おどおどした農夫は家族と一緒の入国を許された。塀の中で温かな食事を手にした男は、汁を啜りながら涙をこぼす。予想外に手厚い受け入れに、彼はこの国に尽くそうと決意した。
魔王が治める国と聞いた恐怖は、安堵に変わる。後から後から難民が流れ込むが、疲れを顔に出すことなくバシレイアの民は王女の意思に従い受け入れ続けた。
一度舞い上がったグリフォンが偵察を終えて戻り、美女の姿に戻った。人化する際に服を後で取り出すリリアーナと違い、長く生きたオリヴィエラは翼で身体を隠しながら上手に着替えを済ませる。解けてしまった濃茶の髪を手櫛で整えながら、彼女はロゼマリアに報告した。
「もう到着しそうよ」
「そう、よかったわ。その前に門が片付いて……」
意味ありげに笑うロゼマリアが立ち上がり、後ろで待つ民に声をかけた。
「用意をお願いします。補充しますから、たっぷりと食べさせてくださいね」
「「「わかりました」」」
教会のシスターや有志の民が王女に頭を下げる。少し前までがりがりに痩せていた彼らも、ここ数週間でふっくらと頬が膨らんだ。お腹いっぱい食べられる余裕から、身なりを整え、服を新調する者も増えている。破綻寸前だったバシレイアの都は、悲惨な先代王の負の遺産が嘘のように豊かな暮らしぶりだった。
頻繁に公共事業や人材募集の知らせが掲示され、支払いは希望に応じて食料品や衣料品を選ぶことが出来る。ケガや病を得た者も無料で治療を施されるとあって、都はにわかに活気づいていた。そのため、国外からの商人も多く足を運ぶようになる。すべてが好循環だった。
「きたわ」
門の扉に寄り掛かって目を凝らすオリヴィエラが注意を促す。詰所から出てきたロゼマリアを守るように、数人の衛兵が取り囲んだ。王女自ら迎えるのは――王都の新たな民となる者達だ。国家という後ろ盾を失った彼らが頼るのは、豊かだと伝え聞く隣国だった。
同じ噂に躍って攻め込んだ王侯貴族の振る舞いを知っていても、助けを求める先が他にない。立派な馬車を持たない民が、歩いてたどり着けるのは川沿いのバシレイア国のみ。拒まれる恐怖と戦いながらたどり着いた外壁の門は……開かれていた。
近づくにつれて、門の前に立つ兵士が見えて足が鈍る。しかしここまで来た以上、逃げかえる先もないのだ。覚悟を決めて近づいた男は、荷馬車の中に家族を乗せていた。
腕を組んだ豊満な美女と、品の良い金髪のお姫様――彼女らを守る位置に立つ兵士が近づく。くたびれた馬が引く馬車を止めて、幌の中を確認された。中には子供たち3人と妻……年老いた妻の母だけ。家具らしい家具もなく、着の身着のまま逃げてきた。
「あの……」
「ようこそ、バシレイアへ。働き手は歓迎いたしますわ」
その言葉で自分以外は切り捨てられるのではないかと、農夫は怯えた。振り返った荷馬車の家族を何としても受け入れて欲しい。そう口にする前に、兵士が説明を引き継いだ。
働ける男と妻は農夫としての仕事を、年老いた母親は裁縫などの簡単な内職を、子供達は教育を施すため学校へ通わせるよう個別の指示が出される。驚いた顔で頷く農夫へ、ロゼマリアが印を押した紙を渡した。
「これを見せれば食事が貰える。食べたら、シスターの指示に従って家を割り当てるが……公共事業の手伝いをすれば、肉や衣服ももらえるから、そっちの仕事も手伝うといい」
丁寧に説明しながら衛兵が案内し、おどおどした農夫は家族と一緒の入国を許された。塀の中で温かな食事を手にした男は、汁を啜りながら涙をこぼす。予想外に手厚い受け入れに、彼はこの国に尽くそうと決意した。
魔王が治める国と聞いた恐怖は、安堵に変わる。後から後から難民が流れ込むが、疲れを顔に出すことなくバシレイアの民は王女の意思に従い受け入れ続けた。
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