【完結】魔王なのに、勇者と間違えて召喚されたんだが?

綾雅(りょうが)今年は7冊!

文字の大きさ
169 / 438
第7章 踊る道化の足元は

167.いっそまとめて送ってみるか

しおりを挟む
「僕が行く! ほら、身体が丈夫な方が仮死状態から蘇る時に有利だし」

「そんなルールはないわ。研究職のアナトと、軍の総帥であるククルは必要だから私が最初に」

「それを言うなら、私は研究だけだから人に迷惑をかけないの。でもバアルがいないと、アースティルティトの書類が片付かないじゃない」

 ククル、バアル、アナト。それぞれに主張する内容を片手間に聞きながら、アースティルティトは淡々と書類を片付ける。こうして順番を奪い合う3人が羨ましかった。誰より早く主人のもとに駆けつけたいのは、アースティルティトも同じだ。しかし確実に蘇生できるような仮死状態を作れる吸血鬼は、この世界に数えるほどしかいない。

 吸血鬼の始祖であるアースティルティトは、すべての吸血鬼の母であり父でもある。彼女がいなければ吸血種は存在しなかったのだから。だからこそ眷族と呼ぶ子孫の能力を把握していた。その中で信用して仲間の命を預けられる者が思いつかなかった。

 アースティルティトがいれば、彼らも大人しく従うだろう。だが彼女が先に世界から消えれば、簡単に約束は破棄され、3人は魔王の元へ向かう手段を失う。吸血種による上位争いが始まる未来が手にとるようにわかるため、最後に自分を仮死状態に出来るアースティルティトが残るしかなかった。

「誰でもいいが……いっそまとめて送ってみるか」

 そうしたら少しでも早くあの方の元へ行けるのではないか? すごくいい案のような気がして、アースティルティトは真剣に検討し始める。手元の書類を放り出した魔王補佐官の姿に、慌てたのは3人だった。

 彼女らの本能が警鐘を鳴らす。今のアースティルティトを放置したら、絶対に後悔するぞ! と。

「う、受け取る側のことも考えないと!」

「そうそう……戻すのに時間かかるかも知れないじゃん?」

 焦るバアルとククルに首をかしげ、それもそうかと納得してまた書類に署名した。自動的に朱肉を滲ませる印章で押印する。一連の作業を済ませ、顔をあげた。

「私に決まったわ」

 アナトが覚悟を決めた顔で机の前に立った。最悪死ぬ可能性がある。魔王の元へたどり着くことなく、収納の亜空間で消滅するか。向こうで失敗して死体になる可能性だってあった。それでも……行かない選択肢はない。

「わかった。明日にも準備をしよう」

 今からだって可能だ。血と魔力を吸って彼女の自我を封じた仮死状態にする。吸血鬼にとってさほど難しい技術ではなかった。それでも「明日」と期限を切ったのは、今夜を4人で過ごすため。

「こないだ、竜軍隊長から奪った酒がある。僕の秘蔵酒だから、一緒に飲もう」

「つまみは、魔熊の手があるわ! 爪付きの新鮮な生肉よ」

 一番手を譲ったククルとバアルの気遣いに、アナトは嬉しそうに破顔した。笑顔のままアースティルティトの手を握る。

「一緒に飲めるよね?」

「ああ、今日の仕事はここまでだ。今夜はお前達に付き合う」

 アースティルティトの了承に、アナトはさらに嬉しそうにぴょんぴょん跳ね回る。はしゃぎすぎて机に足をぶつけて唸るまで、アナトは笑顔を振りまいた。
しおりを挟む
感想 177

あなたにおすすめの小説

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

空月そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

能力『ゴミ箱』と言われ追放された僕はゴミ捨て町から自由に暮らすことにしました

御峰。
ファンタジー
十歳の時、貰えるギフトで能力『ゴミ箱』を授かったので、名門ハイリンス家から追放された僕は、ゴミの集まる町、ヴァレンに捨てられる。 でも本当に良かった!毎日勉強ばっかだった家より、このヴァレン町で僕は自由に生きるんだ! これは、ゴミ扱いされる能力を授かった僕が、ゴミ捨て町から幸せを掴む為、成り上がる物語だ――――。

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

神眼の鑑定師~女勇者に追放されてからの成り上がり~大地の精霊に気に入られてアイテム作りで無双します

すもも太郎
ファンタジー
 伝説級勇者パーティーを首になったニースは、ギルドからも放逐されて傷心の旅に出る。  その途中で大地の精霊と運命の邂逅を果たし、精霊に認められて加護を得る。  出会った友人たちと共に成り上がり、いつの日にか国家の運命を変えるほどの傑物となって行く。  そんなニースの大活躍を知った元のパーティーが追いかけてくるが、彼らはみじめに落ちぶれて行きあっという間に立場が逆転してしまう。  大精霊の力を得た鑑定師の神眼で、透視してモンスター軍団や敵国を翻弄したり、創り出した究極のアイテムで一般兵が超人化したりします。  今にも踏み潰されそうな弱小国が超大国に打ち勝っていくサクセスストーリーです。  ※ハッピーエンドです

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...