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第8章 強者の元に集え
222.誤解を恐れない一面こそ本質だ
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圧倒的な……威圧すら感じる魔力量に、アルシエルは膝をついた。主に侍る配下としての姿勢を保ちながら、自分達との差に驚きは隠せない。以前仕えた前魔王ですら、これほどの魔力を感じなかったのに。
多くの魔力を浴びて注がれるアナトは目を閉じない。この魔法陣が失敗すれば最期で、二度と会えなくなると理解しているから、目を閉じるなんてもったいない。麗しく艶やかなサタンが与えるすべてを、自分を復活させるための魔術を目に焼き付けたかった。
徐々に身体の内側が温かくなる。じわじわと熱が広がり、末端の指先まで満たされた。冷たい血色の瞳と呼ばれた魔王の目を、いつから恐ろしいと思わなくなったのか。拾われた当初は怖かったのに……そう考えたらおかしくなって、アナトはくすりと笑う。
「まだ動くな」
命令口調は普段からだ。不愛想で傲慢な態度とこの口調は、絶対に誤解される。損すると知りながら、直さないところが好き。理解して動けるのは自分達4人だけだと自負するほど、敵を作る言動が愛おしかった。
今だってそうだ。心配だからもっと魔力を持っていけ、そう言えばいいのに……誤解されるような口調で吐き捨てる。少し視線を映せば、この世界で配下としたらしいドラゴンがいた。あの男はきっと誤解しているだろう。
さっきの口調と会話で「少女を実験に使った」と考えたはず。実際は1秒でも早く苦痛から解放するため、全力で治癒を重ね掛けしている。複雑すぎて組み立てる前に嫌になりそうな魔法陣は、別の誰かの作品だろう。それを検証したうえで適用し、上から治癒魔法を重ね掛けしているのだ。
本来は魔力を調整する魔法陣を使ったのに、こんなに大量の魔力を垂れ流す必要なんてない。放出して浴びさせ、神族の自己治癒力を刺激するなんて……この人らしい。
最愛の魔王は、どこまでも不器用で何も変わっていなかった。数年程度で変われるはずもないのに、安堵の息をついた。あと少し、そうしたら動ける。いつも損を選ぶ主君の一面は、彼の不器用な優しさの裏返しだった。
「……足りたよ、シャイターン様」
前世界での称号を呼んで微笑めば、目も眩むほど眩しい魔力が弱まった。最後まで吸収して、ベッドに手をつく。しばらく寝たきりだった弊害で筋力が落ちたのか、ぐらりと傾いた身体を細く白い手が支えた。
「レーシー? こっちにもいるんだ」
驚いた後、心配そうに首をかしげるレーシーに礼を言った。彼女に支えられて身を起こした背に、当たり前のようにクッションが当てられる。寄り掛かって見上げた至近距離の主に、抱き着きたい衝動を堪えた。
「ありがとうございます。もう平気、数日で動けます」
「不具合は?」
道具のような聞き方をする。その理由を知るから、笑顔で返した。
「動けないのも頭痛も、両方楽になりました。寝たままだったから、手足が強張っているだけ」
もう平気だと告げれば、僅かに眉が動く。表情に出さず喜んでいる主君は、この世界で冷酷だと言われているだろうか。感情のない殺戮魔だと、氷のような悪魔だと罵られたのか。不器用すぎて己を嘆くこともできない男へ、アナトは穏やかな声で尋ねた。
先ほどから感じている。注がれる魔力の中に、僅かに混じるのは半身の持つ魔力の匂いだった。
「シャイターン様、バアルが近くにいる……でしょう?」
多くの魔力を浴びて注がれるアナトは目を閉じない。この魔法陣が失敗すれば最期で、二度と会えなくなると理解しているから、目を閉じるなんてもったいない。麗しく艶やかなサタンが与えるすべてを、自分を復活させるための魔術を目に焼き付けたかった。
徐々に身体の内側が温かくなる。じわじわと熱が広がり、末端の指先まで満たされた。冷たい血色の瞳と呼ばれた魔王の目を、いつから恐ろしいと思わなくなったのか。拾われた当初は怖かったのに……そう考えたらおかしくなって、アナトはくすりと笑う。
「まだ動くな」
命令口調は普段からだ。不愛想で傲慢な態度とこの口調は、絶対に誤解される。損すると知りながら、直さないところが好き。理解して動けるのは自分達4人だけだと自負するほど、敵を作る言動が愛おしかった。
今だってそうだ。心配だからもっと魔力を持っていけ、そう言えばいいのに……誤解されるような口調で吐き捨てる。少し視線を映せば、この世界で配下としたらしいドラゴンがいた。あの男はきっと誤解しているだろう。
さっきの口調と会話で「少女を実験に使った」と考えたはず。実際は1秒でも早く苦痛から解放するため、全力で治癒を重ね掛けしている。複雑すぎて組み立てる前に嫌になりそうな魔法陣は、別の誰かの作品だろう。それを検証したうえで適用し、上から治癒魔法を重ね掛けしているのだ。
本来は魔力を調整する魔法陣を使ったのに、こんなに大量の魔力を垂れ流す必要なんてない。放出して浴びさせ、神族の自己治癒力を刺激するなんて……この人らしい。
最愛の魔王は、どこまでも不器用で何も変わっていなかった。数年程度で変われるはずもないのに、安堵の息をついた。あと少し、そうしたら動ける。いつも損を選ぶ主君の一面は、彼の不器用な優しさの裏返しだった。
「……足りたよ、シャイターン様」
前世界での称号を呼んで微笑めば、目も眩むほど眩しい魔力が弱まった。最後まで吸収して、ベッドに手をつく。しばらく寝たきりだった弊害で筋力が落ちたのか、ぐらりと傾いた身体を細く白い手が支えた。
「レーシー? こっちにもいるんだ」
驚いた後、心配そうに首をかしげるレーシーに礼を言った。彼女に支えられて身を起こした背に、当たり前のようにクッションが当てられる。寄り掛かって見上げた至近距離の主に、抱き着きたい衝動を堪えた。
「ありがとうございます。もう平気、数日で動けます」
「不具合は?」
道具のような聞き方をする。その理由を知るから、笑顔で返した。
「動けないのも頭痛も、両方楽になりました。寝たままだったから、手足が強張っているだけ」
もう平気だと告げれば、僅かに眉が動く。表情に出さず喜んでいる主君は、この世界で冷酷だと言われているだろうか。感情のない殺戮魔だと、氷のような悪魔だと罵られたのか。不器用すぎて己を嘆くこともできない男へ、アナトは穏やかな声で尋ねた。
先ほどから感じている。注がれる魔力の中に、僅かに混じるのは半身の持つ魔力の匂いだった。
「シャイターン様、バアルが近くにいる……でしょう?」
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