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第9章 支配者の見る景色
278.飼い慣らした獣への譲歩はいるか
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建物を焼き払うリリアーナが、高い声で鳴いた。攻撃を仕掛けられたのだろう。急降下して獲物を爪で掴んだ。そのまま空に舞い上がり、弓を手に暴れる人間を離す。落下する獲物を追いかけ、屋根にぶつかる手前で掴み直した。
簡単に殺さず遊ぶ習性は、猫に似ている。圧倒的弱者である小動物を弄び、最後までトドメを差さず放置するのだ。ドラゴン種によく見られる行動は、殺し過ぎるなと望んだオレの意思を汲む行動だった。
自分に対して逆らい攻撃した敵を許す気はないが、殺さずに懲らしめる方法として思いついたのだろう。何度か繰り返し、廃人のようにぐったりした獲物を屋根の高さから捨てた。
怯える人間を嘲笑うように舞うリリアーナの鱗が光を弾く。この世界に救いや神はない。くるくる旋回するリリアーナが喉を鳴らした。ある程度獲物を屠ったのだ。褒めて欲しいとこちらへ向かう彼女を背に、目の前の光景を眺めた。
広がる影が地面から光を奪う。足元に影が掛かれば、底無し沼のように飲み込まれる。そこに有機物と無機物を見分ける境はなかった。触れた物をただ飲み続ける。
同じように影を手懐けるアースティルティトでさえ、底がないと恐れた闇だった。人間を数十人消したところで、闇を抑えて回収する。このままでは王城や都まで消し去ってしまう。限界のない闇は、身を震わせて起き上がった。
久しぶりの食事を邪魔されたと唸るような低い振動を寄越す。気に入らなければ使い手に歯向かう闇が、立ち上がってオレに飛びかかった。
「痴れ者がっ! オレに歯向かうか」
高めた魔力を叩きつける。後ろから近づくリリアーナが触れれば危険だった。すこし急いだため、当初の想定より魔力量が多かったようだ。ばちっと弾かれた闇が痛みに怯える仕草で小さくなり、するすると足元の影に消えた。
どうせ勝てないのだ。怯えるくらいなら下克上など望まねば良いものを。舌打ちしたい気分で振り向いたオレの腰に、リリアーナの褐色の腕が絡み付いた。
「今の、何? 変な感じがした」
本能で危険を察知したのだろう。だからこそ腕を絡めて奪われないよう守ろうとする。強欲なドラゴンらしい行動だった。くつりと喉を震わせて笑い、彼女の腕に手を置いた。
「飼い慣らした獣だ。時折逆らうが役に立つ」
聞くなと跳ね除けてもいい。何を言っていると不快さを示しても構わなかった。今までのオレならそうしていた。そう言い切れるのに、なぜか答えてやろうと思える。事実、説明してやった言葉は足りていないが、リリアーナはふふっと笑った。
「そう。サタン様のことをまたひとつ知った」
嬉しそうにそう呟いた彼女は、長い金髪を腰まで揺らして、名残惜しそうに手を離した。腕に触れたオレの手を掴んでぐるりと回り込み、正面から視線を合わせる。
「どこまで壊そうか」
尋ねる響きではない。答えを知っていて口にしたリリアーナが掴んだ手を、オレは振り払わずに街へ視線を向けた。
「王族を滅ぼすまでだ」
簡単に殺さず遊ぶ習性は、猫に似ている。圧倒的弱者である小動物を弄び、最後までトドメを差さず放置するのだ。ドラゴン種によく見られる行動は、殺し過ぎるなと望んだオレの意思を汲む行動だった。
自分に対して逆らい攻撃した敵を許す気はないが、殺さずに懲らしめる方法として思いついたのだろう。何度か繰り返し、廃人のようにぐったりした獲物を屋根の高さから捨てた。
怯える人間を嘲笑うように舞うリリアーナの鱗が光を弾く。この世界に救いや神はない。くるくる旋回するリリアーナが喉を鳴らした。ある程度獲物を屠ったのだ。褒めて欲しいとこちらへ向かう彼女を背に、目の前の光景を眺めた。
広がる影が地面から光を奪う。足元に影が掛かれば、底無し沼のように飲み込まれる。そこに有機物と無機物を見分ける境はなかった。触れた物をただ飲み続ける。
同じように影を手懐けるアースティルティトでさえ、底がないと恐れた闇だった。人間を数十人消したところで、闇を抑えて回収する。このままでは王城や都まで消し去ってしまう。限界のない闇は、身を震わせて起き上がった。
久しぶりの食事を邪魔されたと唸るような低い振動を寄越す。気に入らなければ使い手に歯向かう闇が、立ち上がってオレに飛びかかった。
「痴れ者がっ! オレに歯向かうか」
高めた魔力を叩きつける。後ろから近づくリリアーナが触れれば危険だった。すこし急いだため、当初の想定より魔力量が多かったようだ。ばちっと弾かれた闇が痛みに怯える仕草で小さくなり、するすると足元の影に消えた。
どうせ勝てないのだ。怯えるくらいなら下克上など望まねば良いものを。舌打ちしたい気分で振り向いたオレの腰に、リリアーナの褐色の腕が絡み付いた。
「今の、何? 変な感じがした」
本能で危険を察知したのだろう。だからこそ腕を絡めて奪われないよう守ろうとする。強欲なドラゴンらしい行動だった。くつりと喉を震わせて笑い、彼女の腕に手を置いた。
「飼い慣らした獣だ。時折逆らうが役に立つ」
聞くなと跳ね除けてもいい。何を言っていると不快さを示しても構わなかった。今までのオレならそうしていた。そう言い切れるのに、なぜか答えてやろうと思える。事実、説明してやった言葉は足りていないが、リリアーナはふふっと笑った。
「そう。サタン様のことをまたひとつ知った」
嬉しそうにそう呟いた彼女は、長い金髪を腰まで揺らして、名残惜しそうに手を離した。腕に触れたオレの手を掴んでぐるりと回り込み、正面から視線を合わせる。
「どこまで壊そうか」
尋ねる響きではない。答えを知っていて口にしたリリアーナが掴んだ手を、オレは振り払わずに街へ視線を向けた。
「王族を滅ぼすまでだ」
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