【完結】魔王なのに、勇者と間違えて召喚されたんだが?

綾雅(りょうが)今年は7冊!

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第10章 覇王を追撃する闇

319.よかろう、久々の共闘を楽しめ

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 眠りの腕に預けた意識が、急に引き戻される。頭の中を不快な爪で引っ掻かれた痛みに、顔をしかめた。左目が痛む。手で押さえて身を起こした途端、叫び声が届いた。

『陛下! 助けて』

 悲鳴に滲んだ焦りと悲壮感が、じわりと胸を凍らせる。左目の痛みに顔を歪め、乱暴に手で拭った。頬に溢れていた赤い血が肌に色を残す。

「サタン様! 赤い! 血が出てるよ」

「中庭に行く」

 昔なら答えすらしなかった。転移してリリアーナを置き去りにしただろう。しかし、今の彼女なら戦力になる。何かが侵入した。結界に入り込んだ異物と、魂を繋いだ配下が傷つけられた痛みが血を流す。

「わかった」

 飛び起きたリリアーナは、裾が短いワンピースに着替える。動きやすい格好になった彼女が飛び出し、見送って転移した。

「サタン様! お願い!」

「助けて。何かきた……血?」

 アナトとバアルが指差す先、半円を伏せた形の結界が赤く濁っていた。血の結界霧だろう。アスタルテが使う技の一つだが、滅多に使用しない。術師にダメージが大きいこと、彼女が傷つけられなければ発動しない条件ゆえだ。強者として名を馳せる吸血鬼の始祖が、その血を流す事態は異常だった。

 拭き取ったが再び溢れた赤い涙に、バアルが息を詰める。

「ここにいろ」

「私も行く!」

 駆け込んだリリアーナが叫ぶが、聞こえなかったフリで踵を返した。アスタルテを傷つける敵がいるなら、あの霧の中はリリアーナには荷が勝ちすぎる。アスタルテの結界に手を触れ、滑るように中へ入り込んだ。

 中のモノを逃さず、結界を壊さずに入り込めるのはオレだけだ。魂を分け合う契約をした配下の気配が不安定だった。右手に黒竜の皮を鞘にした剣を呼び出す。鞘を収納に残して、柄を掴んだ右手を引き抜きざま振るった。

 空間を切るように、赤い霧が一時的に左右に分かれる。すぐに戻るが、僅かな隙間に見えたのは……半身を朱に染めた側近の姿だった。

「アスタルテ」

 静かに名を呼ぶ。赤い霧の影響で外の様子はわからない。音も聞こえなかった。この場は結界という形で隔離された、別の空間だ。結界が割れて砕ければ、中の術師も敵も残さず消える。危険を承知で飛び込んだオレの左手に、アスタルテが触れた。

「何があった」

「アナトとバアルが闇を捕らえましたが、取りこぼしがあり……追跡されました。申し訳、ございません」

 黒髪を血で汚し、べたりと肌に貼り付けた姿に眉尻を片方持ち上げた。尋ねられた質問に答え、謝罪し、しかし言い訳はしない。アスタルテらしい返答だ。口元が自然と緩んだ。最後の謝罪は、オレに血を流させたことか。

「油断したか。懐かしいな」

 前魔王の側近に追い詰められ、よく赤い霧を使った。背水の陣で葬った強者の数は覚えていない。それだけの数を屠った吸血女王は、ばさりと前髪をかき上げた。

「まだ根を上げたりしません」

「当然だ。オレの配下だぞ」

 簡単に膝をつき、負けを認めるくらいなら死ね――かつて命じた言葉を彼女は覚えている。ならば構わない。重ねて命じる必要はなかった。

「アナトの血を持った敵です。おそらく闇を捕らえる時にケガをして奪われたかと」

「それが理由か」

 アナトやバアルを戦力とすれば、あっさりとケリがつく。にも関わらず、赤い霧で外界を切り離してまで単独で戦う理由は、彼女なりの気遣いだった。

「よかろう、久々の共闘を楽しめ」
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