【完結】魔王なのに、勇者と間違えて召喚されたんだが?

綾雅(りょうが)今年は7冊!

文字の大きさ
322 / 438
第10章 覇王を追撃する闇

320.互いの先を読み動けずして、何が主従か

しおりを挟む
 僕が作り上げた世界は、後少しで完成だった。作り上げたら盛大に崩して遊ぼうと思ったのに、直前に入り込んだ異物が変革していく。成熟して膿んだ、腐る直前の果実を異物が叩き落とした。落ちた実は種を植えて、新たな芽を出す。

 僕は腐った果実を味わう気だったのに……全部叩き落とすなんて、無礼にも程があるだろう? 死んでしまえばいい。この世界で僕は最高の力を持つ存在だ。僕が望んだら消えるはずの世界で、奴の手足になった果実も手に入らない。

 こんな世界は望んでない。僕の作った芳醇なワインを飲み干す余所者を排除しなくては――。






「ぐぁああああああ! 死ねっ! 死んで詫びろ!」

 闇に似た形の曖昧な存在が叫ぶ。圧倒的な存在感と魔力を持つくせに、揺らいで不安定だった。それは形を固定しないからだ。魔力は煙や水のようなものだった。器がしっかりと形をもてば、その中に満ちていく。完全に器が満たされれば溢れもする。それを制御してこそ高位魔族なのだ。

 外殻を整えないから、魔力は不安定に溢れ続ける。失う分を補い、吸い上げ続ける魔物はぎろりと赤い瞳で睨んだ。片目、爪、牙のようなものが見える。かろうじて認識できる固形物はこれだけだった。

「魔力制御に優れているようだ」

「はい、形もなく自我を保っています」

 冷静に状況を見極めるアスタルテが、頬を流れる血を拭った。額より少し上に傷がある。治癒に回す魔力を惜しむアスタルテの腕を掴み、無理やり魔力を流し込んだ。

「陛下っ!」

「堅苦しい呼び方も、遠慮も不要だ」

「っ! サタン様の仰せのままに」

 本名ではないが、この世界で最初に名乗った響きだ。シャイターンの肩書を呼び替えた名は、いつの間にか固定された。この世界で器を成すひとつの欠片となっている。

「力を使い過ぎだ。焦るな」

 見ればわかる。アスタルテがもっとも苦手とする敵、神族だった。双子神の血を取り入れて平気な時点で、疑う余地はない。この世界を創造した神か、それとも堕天の流刑にあった神か。どちらにしても、もう不要だった。

 右手の剣を目線の高さに構える。じっと待つ時間は長く感じられた。己の熱い鼓動の音と、隣で重なる魂を分けし冷たい鼓動。重なっていく呼吸と鼓動が音をひとつにする。作戦の打ち合わせなど要らぬ。互いに互いの先を読んで動けずして、何が主従か。

「今のうちに倒す」

「はっ。ご存分に」

 アスタルテの魔力が拡散した。赤い血の霧に己自身を溶かしたのだ。世界の中で個を保つ境目を消すことで、吸血種は空間を支配する。結界内に満ちた黒き神の気配が、徐々に押しやられていく。追い詰められた黒い神が牙を剥いた。咄嗟に左腕を盾に首を護る。食い込んだ牙が痛みを齎した。

 長く黒い爪が襲いかかり、右手の剣で弾く。黒い刀身が火花を散らし、爪を折った。だが何もない空間から新たな爪が生まれる。尽きない魔力を先に封じなければ、いくらでも回復して襲いかかるだろう。噛まれた左腕を大きく振ったが、牙は離れない。

「いい覚悟だ」

 痛みを増していく腕に毒が回っていた。くつりと喉を震わせて笑い、オレは己の左腕を肘の上で斬り落とす。毒牙に蝕まれた肉を捨て、右手の剣を構え直した。

「次はこちらの番だ」

 目の高さで構えた右腕を少し傾ける。黒き神だったモノを視線でしっかり捉え、一気に地を蹴った。
しおりを挟む
感想 177

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

空月そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

【完】転職ばかりしていたらパーティーを追放された私〜実は88種の職業の全スキル極めて勇者以上にチートな存在になっていたけど、もうどうでもいい

冬月光輝
ファンタジー
【勇者】のパーティーの一員であったルシアは職業を極めては転職を繰り返していたが、ある日、勇者から追放(クビ)を宣告される。 何もかもに疲れたルシアは適当に隠居先でも見つけようと旅に出たが、【天界】から追放された元(もと)【守護天使】の【堕天使】ラミアを【悪魔】の手から救ったことで新たな物語が始まる。 「わたくし達、追放仲間ですね」、「一生お慕いします」とラミアからの熱烈なアプローチに折れて仕方なくルシアは共に旅をすることにした。 その後、隣国の王女エリスに力を認められ、仕えるようになり、2人は数奇な運命に巻き込まれることに……。 追放コンビは不運な運命を逆転できるのか? (完結記念に澄石アラン様からラミアのイラストを頂きましたので、表紙に使用させてもらいました)

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

能力『ゴミ箱』と言われ追放された僕はゴミ捨て町から自由に暮らすことにしました

御峰。
ファンタジー
十歳の時、貰えるギフトで能力『ゴミ箱』を授かったので、名門ハイリンス家から追放された僕は、ゴミの集まる町、ヴァレンに捨てられる。 でも本当に良かった!毎日勉強ばっかだった家より、このヴァレン町で僕は自由に生きるんだ! これは、ゴミ扱いされる能力を授かった僕が、ゴミ捨て町から幸せを掴む為、成り上がる物語だ――――。

処理中です...