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第10章 覇王を追撃する闇
321.オレに下がれと言うか
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大きく剣を振るうほど隙が出来る。近づけないためならそれで良いが、戦い方としては下の下だろう。距離を詰めた状態で、剣に魔力を込める。大きな振りに見せかけた攻撃で、黒い神の魔力の流れを断ち続けた。
靄の間に見える細い糸のような流れを切り、近づく敵を徐々に切り刻んでいく。詰将棋のような勝負は、こちらに軍配が上がるはずだった。
「サタン様!」
叫んだ彼女が放った鞭が、オレの鼻先を掠める。制御された魔力により練り上げられた武器は、突き出した爪を叩き落とした。オレの目を狙って、ぎりぎりの位置に生み出された爪が砕ける。強度は高くないが、あちこちに爪や牙を生み出されるのは戦いづらい。
「っ!」
突然現れた牙が右肩に噛みつき、アスタルテの鞭が砕く。みれば彼女の肢体にも傷がいくつか増えていた。創造の女神アナトの血を得て、黒き神の戦闘能力は格段に向上している。準備もなく戦う敵ではなかった。
圧倒的な魔力量は、黒い神の言葉を肯定する。離れた地脈から回収される膨大な魔力を、神は惜しみもなく使った。枯渇させれば世界が滅びるというのに、まったく躊躇う様子がない。神にとって、世界など再び造れば良い箱庭に過ぎなかった。それは知っている――。
思考に気を取られたオレの顔を爪が掠めた。後ろに引くが間に合わず、左側に大きな切り傷を負った。視界が半分遮られる。かっと熱くなった傷が、ずくずくと痛んだ。
気分が高揚していく。ああ、ここまで解放した戦いは久しぶりだ。我が魔力をすべて放ち、この敵を仕留めたなら達成感は如何程か。顔の左半分、左腕、右肩を損傷した身体に新たな牙が噛みつく。興奮状態のオレの口元が大きく裂けた。牙が長くなり裂けた唇の血を纏って、ぬらりと光る。
背に生まれた翼がばさりと音を立てた。肉の器を切り裂いた3対の羽が、赤い血を滴らせながら広がる。額の上部に3本の角が生えた。ぼこりと肉を突き破る左右の2本は長く、中央の1本は短い。
襲い掛かろうとする爪を、ひと睨みで砕く。額の中央に新たな目が現れるが、まだ開くには至らなかった。魔力の高まりが足りない。背中が盛り上がり腕が1対増えたのを見て、アスタルテが首を横に振った。
「出直しましょう、我が君」
こちらを見る紫の瞳が、ゆっくり瞬いた。撤退を進言するアスタルテに口元を歪める。左腕を欠いたバランスの悪さ、急激に解放した魔力――獰猛な意識が瞳に宿る。獣の瞳がアスタルテの視線を受け止めた。
「下がれと言うか」
これからが愉しいのであろう? この獲物を引き裂き、存分に悲鳴を上げさせ、苦痛にのたうちまわらせる。我が心を分けし同胞が、何故に邪魔をするのだ。問う響きに、アスタルテは黒い神を一瞥した。
「この程度の敵に御身を傷つけられたは、私の不徳の致すところ……挽回の機会をお与えください」
黒き神は攻撃をやめて距離を取り始めていた。漏れ出るオレの魔力が、じわじわと靄を侵食する。怯えたように下がった敵に、気持ちがすっと冷めた。
「あなた様にここまでさせた敵を、ここで仕留めて満足ですか? 私は足りない。怯えて逃げ回り、我々の影に震える時間を与えて、嘆願する口を引き裂きたいのです」
「……よかろう」
配下の進言に耳を傾ける度量は、主君の器だ。解放した魔力が暴れ足りぬと騒ぐのを抑えつけ、オレは彼女の言葉に頷いた。
靄の間に見える細い糸のような流れを切り、近づく敵を徐々に切り刻んでいく。詰将棋のような勝負は、こちらに軍配が上がるはずだった。
「サタン様!」
叫んだ彼女が放った鞭が、オレの鼻先を掠める。制御された魔力により練り上げられた武器は、突き出した爪を叩き落とした。オレの目を狙って、ぎりぎりの位置に生み出された爪が砕ける。強度は高くないが、あちこちに爪や牙を生み出されるのは戦いづらい。
「っ!」
突然現れた牙が右肩に噛みつき、アスタルテの鞭が砕く。みれば彼女の肢体にも傷がいくつか増えていた。創造の女神アナトの血を得て、黒き神の戦闘能力は格段に向上している。準備もなく戦う敵ではなかった。
圧倒的な魔力量は、黒い神の言葉を肯定する。離れた地脈から回収される膨大な魔力を、神は惜しみもなく使った。枯渇させれば世界が滅びるというのに、まったく躊躇う様子がない。神にとって、世界など再び造れば良い箱庭に過ぎなかった。それは知っている――。
思考に気を取られたオレの顔を爪が掠めた。後ろに引くが間に合わず、左側に大きな切り傷を負った。視界が半分遮られる。かっと熱くなった傷が、ずくずくと痛んだ。
気分が高揚していく。ああ、ここまで解放した戦いは久しぶりだ。我が魔力をすべて放ち、この敵を仕留めたなら達成感は如何程か。顔の左半分、左腕、右肩を損傷した身体に新たな牙が噛みつく。興奮状態のオレの口元が大きく裂けた。牙が長くなり裂けた唇の血を纏って、ぬらりと光る。
背に生まれた翼がばさりと音を立てた。肉の器を切り裂いた3対の羽が、赤い血を滴らせながら広がる。額の上部に3本の角が生えた。ぼこりと肉を突き破る左右の2本は長く、中央の1本は短い。
襲い掛かろうとする爪を、ひと睨みで砕く。額の中央に新たな目が現れるが、まだ開くには至らなかった。魔力の高まりが足りない。背中が盛り上がり腕が1対増えたのを見て、アスタルテが首を横に振った。
「出直しましょう、我が君」
こちらを見る紫の瞳が、ゆっくり瞬いた。撤退を進言するアスタルテに口元を歪める。左腕を欠いたバランスの悪さ、急激に解放した魔力――獰猛な意識が瞳に宿る。獣の瞳がアスタルテの視線を受け止めた。
「下がれと言うか」
これからが愉しいのであろう? この獲物を引き裂き、存分に悲鳴を上げさせ、苦痛にのたうちまわらせる。我が心を分けし同胞が、何故に邪魔をするのだ。問う響きに、アスタルテは黒い神を一瞥した。
「この程度の敵に御身を傷つけられたは、私の不徳の致すところ……挽回の機会をお与えください」
黒き神は攻撃をやめて距離を取り始めていた。漏れ出るオレの魔力が、じわじわと靄を侵食する。怯えたように下がった敵に、気持ちがすっと冷めた。
「あなた様にここまでさせた敵を、ここで仕留めて満足ですか? 私は足りない。怯えて逃げ回り、我々の影に震える時間を与えて、嘆願する口を引き裂きたいのです」
「……よかろう」
配下の進言に耳を傾ける度量は、主君の器だ。解放した魔力が暴れ足りぬと騒ぐのを抑えつけ、オレは彼女の言葉に頷いた。
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