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第10章 覇王を追撃する闇
341.いま使わずに、いつ使うのか
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この世界で魔王の側近を2代務めた黒竜王アルシエル、数代前の魔王であった吸血王ウラノス。脆弱にすぎるこの世界ならば、彼らは強者として筆頭に名を連ねるだろう。だがアスタルテやサタンと同レベルに数えるには、経験や能力が足りなかった。
「アスタルテ殿、これは」
「黒き神の名残だ」
吐き捨てたアスタルテの声は冷たい。あちこちに己の残滓を残しながら逃げる敵は、追えば追うほど魔力が消えていく。よい方向へ考えれば、弱っているのだ。そう捉えられた。だが……。
「この程度の擬態に、何の価値がある」
吐き捨てて、まだ本体に情報を送り続ける末端を踏みつけた。手にした血の剣で切り裂き、悲鳴を周囲に響かせた。無情な殺戮行為に見えるが、これは必要な行為だった。
奴は己の欠片を世界中に撒き散らした。いつから仕掛けられていたのか、この世界に来たばかりのアスタルテが知る由もない。この欠片があるせいで、本体を取り逃してしまうのは事実だった。
黒い神の魔力を見つけた先で、欠片ばかり転がる現実。大切な主君を傷つけられた怒り、様々な感情が噴き出し、アスタルテは意図して冷静さを装っていた。踊らされて足元を疎かにする小娘のような失態は出来ない。魂を分け合う主君に顔向けできない感情は、すべて凍らせて胃の奥に積むのだ。
ひとつ大きく息を吐き出し、新たな手がかりを探す。その隣で、ウラノスも魔法陣をひとつ描いた。
「アスタルテ殿、魔王陛下の血を追った方が早いのでは?」
吸血種ならではの目の付け所だが、アスタルテは首を横に振った。それができるなら、とっくにしている。
「陛下の血は欠片に含まれている」
忌々しい手法だ。腕に含まれた大量の血と魔力を、敬愛する人の肉を……奴らは千切った。細かく己の中に仕舞い込み、回収出来ぬように策を弄したのだ。
「なんと!」
アルシエルが唸る。それでは主君の腕は欠けたままか。憤怒の表情で、すでに潰された欠片を睨みつける。その姿に、アスタルテが口元を歪めた。
「腕は問題ではない。臭いを追うなら、最適の狩人を忘れていた」
マルコシアス、マーナガルム……フェンリルに繋がる魔狼の血を引く、狩りの達人だ。犬の嗅覚は優れており、彼らの助けは無駄にならない。代わりに元グリュポス跡地周辺の森が手薄になるが……。
「彼らは優秀ですが、同盟国や難民の守りが手薄に」
人間の国はほぼ平定したが、魔族はまだ手付かずに近い。アルシエルやウラノスを恐れて、今は様子を見ているだけだった。手薄な場所を見つければ、ちょっかいを出す者が出る。その警告に、アスタルテは表情を和らげた。
「いるではないか、暇な者が」
少しばかり考えて、アナトとバアルの双子を思い浮かべる。だがあの子らは城の守りだ。ならば……。
「グリフォンか」
「リシュヤは役立たぬが、他にも陛下の拾い子もいるであろう。今使わずに、いつ使うのか」
圧倒的に手が足りない状態で、前世界の魔王不在の苦境を乗り切った。有能な側近の赤い唇は、鋭い牙を見せつけるように弧を描く。
恩を返すのは求められるいつか、ではない。求められる前に、今返してこそ価値があった。
「アスタルテ殿、これは」
「黒き神の名残だ」
吐き捨てたアスタルテの声は冷たい。あちこちに己の残滓を残しながら逃げる敵は、追えば追うほど魔力が消えていく。よい方向へ考えれば、弱っているのだ。そう捉えられた。だが……。
「この程度の擬態に、何の価値がある」
吐き捨てて、まだ本体に情報を送り続ける末端を踏みつけた。手にした血の剣で切り裂き、悲鳴を周囲に響かせた。無情な殺戮行為に見えるが、これは必要な行為だった。
奴は己の欠片を世界中に撒き散らした。いつから仕掛けられていたのか、この世界に来たばかりのアスタルテが知る由もない。この欠片があるせいで、本体を取り逃してしまうのは事実だった。
黒い神の魔力を見つけた先で、欠片ばかり転がる現実。大切な主君を傷つけられた怒り、様々な感情が噴き出し、アスタルテは意図して冷静さを装っていた。踊らされて足元を疎かにする小娘のような失態は出来ない。魂を分け合う主君に顔向けできない感情は、すべて凍らせて胃の奥に積むのだ。
ひとつ大きく息を吐き出し、新たな手がかりを探す。その隣で、ウラノスも魔法陣をひとつ描いた。
「アスタルテ殿、魔王陛下の血を追った方が早いのでは?」
吸血種ならではの目の付け所だが、アスタルテは首を横に振った。それができるなら、とっくにしている。
「陛下の血は欠片に含まれている」
忌々しい手法だ。腕に含まれた大量の血と魔力を、敬愛する人の肉を……奴らは千切った。細かく己の中に仕舞い込み、回収出来ぬように策を弄したのだ。
「なんと!」
アルシエルが唸る。それでは主君の腕は欠けたままか。憤怒の表情で、すでに潰された欠片を睨みつける。その姿に、アスタルテが口元を歪めた。
「腕は問題ではない。臭いを追うなら、最適の狩人を忘れていた」
マルコシアス、マーナガルム……フェンリルに繋がる魔狼の血を引く、狩りの達人だ。犬の嗅覚は優れており、彼らの助けは無駄にならない。代わりに元グリュポス跡地周辺の森が手薄になるが……。
「彼らは優秀ですが、同盟国や難民の守りが手薄に」
人間の国はほぼ平定したが、魔族はまだ手付かずに近い。アルシエルやウラノスを恐れて、今は様子を見ているだけだった。手薄な場所を見つければ、ちょっかいを出す者が出る。その警告に、アスタルテは表情を和らげた。
「いるではないか、暇な者が」
少しばかり考えて、アナトとバアルの双子を思い浮かべる。だがあの子らは城の守りだ。ならば……。
「グリフォンか」
「リシュヤは役立たぬが、他にも陛下の拾い子もいるであろう。今使わずに、いつ使うのか」
圧倒的に手が足りない状態で、前世界の魔王不在の苦境を乗り切った。有能な側近の赤い唇は、鋭い牙を見せつけるように弧を描く。
恩を返すのは求められるいつか、ではない。求められる前に、今返してこそ価値があった。
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