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第10章 覇王を追撃する闇

366.褒めて育てているつもりだが足りぬか

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 ずしんずしん、大地を揺らしながら歩くレイキは、頭の上にヴィネを乗せていた。地図を見て唸るヴィネが示す方向へ首を向け、再び歩き出す。何度も行ったり来たりを繰り返すレイキは、まるで道に迷ったように見えた。

 彼女が歩いた後は綺麗に踏み慣らされている。ずりずりと甲羅で潰したため、木々や草が平らになった。足で踏んだ場所は小さなくぼみが出来る。指示通りに森を切り拓いたレイキは、雌だった。卵を抱いていたのだから当然かもしれない。

 上空から開拓区域を確かめたアルシエルの合図があり、ヴィネは「ご苦労さん」と声をかけてレイキを労った。満足そうに身を揺らし、レイキは大切な卵を口に入れて帰っていく。

「もう卵盗まれるなよ」

 ヴィネの声に一度足を止めるが、レイキはそのまま歩いていった。彼女の住処は大きな湖がある未開の地らしい。魔獣以外は踏み込まない、鉱石や珍しい植物もない森の一角だった。遠ざかる後ろ姿に手を振り、ヴィネはひとつ伸びをした。

「助かった」

 通訳も疲れるのだろうと声をかけると、びっくりした顔で「俺は役に立ちました?」と聞く。頷いて褒めてやれば、嬉しそうに頬を赤く染めた。

「どうした」

「俺は戦闘もそんな強くないし、頭もすごくいいわけじゃないから、役に立ったのが嬉しい」

「己の立場を理解し、能力を把握した上で動けば、当然の結果だ。お前は頑張っている」

 泣きだしたヴィネに眉を寄せると、双子が駆け寄ってきた。

「わかる」

「普段褒めない人の言葉って沁みるよね」

 まるでオレが滅多に褒めないような言い方だが。不機嫌さを顔に出すと、双子は肩をすくめた。

「褒めてるつもりでも足りない」

「そう、もっと褒めて」

 少し考えて頷こうとしたところに、リリアーナが体当たりしてきた。腰に腕を回して抱きつき、双子に舌を見せる。

「べぇ~だ。サタン様は優しいし褒めてくれるもん」

「それはリリーだからじゃん」

 アナトが反論し、バアルに引きずられていった。子供達のケンカに口を挟むと騒ぎが大きくなる。放置したオレの後ろに降りたアルシエルが、ぼそっと呟いた。

「羨ましいですぞ、我が君」

 子供のケンカに巻き込まれたいのか? 変な男だ。だが強面でも子供好きは何人も知っている。この男もそうかも知れない。他人の嗜好に口出しは好ましくないため、何も返さなかった。

 開拓に魔法を使って大地をひっくり返す予定だったが、レイキが巨体で道を通してくれた。王都となるバシレイアまで一直線だ。幅も問題なく、これならば立派な街道が作れるだろう。

 人間は街道の両脇に店を構え、家を作り、集落を形成する。この道沿いを人間に与えればよいか。

 指示を出すようアガレスやマルファスに命じればいい。森を開拓するキララウスの民の負担も、かなり軽減できた。

 今回の魔族の襲撃は人間への被害も少なく、最終的にレイキの活躍でプラスとなった。満足できる状況に頷く。

「乗って」

 若い雌の発言としては些か慎しみに欠けるが、ドラゴン姿のリリアーナに乗って城へと進路を取った。
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