【完結】魔王なのに、勇者と間違えて召喚されたんだが?

綾雅(りょうが)今年は7冊!

文字の大きさ
426 / 438
外伝

4.この場に長く留まることは出来ぬ

しおりを挟む
 アナトが摘んだ花に触れても消えない。幻覚の可能性はほぼ消えた。オレはかがみ込んで足元の石を拾う。茶色く乾燥した塊は、石ではなかった。乾燥した土だ。それをアナトに差し出すと、彼女はその手に受け止めた。

「完全に乾いてるね。今、足元から拾ったのに」

 綺麗な花畑が見えているアナトの視界に、この茶色い土は存在しないだろう。草や花で埋め尽くされたはずの大地を、不思議そうに見つめて足を持ち上げて覗く。その所作におかしな点はなかった。

 つまり、互いに見ている物が違うが共有は出来ている。不思議な感覚に襲われて、アナトの肩に手を置こうとした。なぜか、彼女がこの場にいないような喪失感が広がり、手を伸ばさずにいられない。

 手は肩ではなく、首に近い鎖骨の上に触れた。驚きに目を見開いたオレに、アナトは無邪気に首を傾げる。彼女にしたら、突然触れられただけの話だ。

「アナト、オレの中指に触れてみろ」

 手のひらを上にして指を開いた。何も持たない手に触れろという奇妙な指示に、アナトは察したらしい。手を伸ばして慎重に指を握った。だが、それは薬指で中指ではない。掴んでから首を傾げ、アナトは中指を握り直した。

 間違いない、認識がズレている。

「一度山頂へ戻る。花と土を持ち帰る」

「わかった」

 土をしっかり握ったアナトの表情が強張った。過去にもオレが突然撤退を口にしたことを思い出したのだろう。あの時は大地が割れ、仲間になった魔族が大勢失われる事故があった。あの時と同じ緊迫感を共有しながら、オレは単独で転移した。アナトは背に広げた羽で舞い上がる。咄嗟のことで、別の方法を選んだことに意味はなかった。

 アナトはふわりと魔力を使って着地し、オレは思わぬ事態に眉を顰めた。山頂のリリアーナの魔力を終点に指定した。にもかかわらず、転移した先は数歩先の荒地の上――やはり認識のズレが起きている。それもかなり広範囲で、何らかの作為を持って作られた罠に近かった。

 背の翼を広げて魔力で舞い上がると、なんの苦もなく脱出が出来る。目で見ての移動は認識のズレを多少なり修正しているのだろう。アナトが一度目は失敗し、二度目は中指を握れたのと同じ現象と考えられた。

「この地の調査は慎重に行う必要がある。アスタルテとウラノスが必要だ」

 クリスティーヌもいた方がいいか。彼女はリリアーナと一緒で、本能的な感知能力に優れている。頭の中で計算しながら、オレは手の中の花に視線を向けた。

「サタン様もアナトも、何を持ってきたの?」

 無邪気に尋ねるリリアーナに、オレは答える言葉が見つからない。なぜなら、アナトが摘んだ白い花は……銀色の棒に変わっていたからだ。隣でアナトが無言で手を開いた。持ち帰ったはずの茶土は……砂金に似た金属に変わっている。

「……っ、このまま持ち帰る。離脱だ」

 待っていたマーナガルム達の背に跨り、急いで山の中腹まで駆け降りた。
しおりを挟む
感想 177

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

神眼の鑑定師~女勇者に追放されてからの成り上がり~大地の精霊に気に入られてアイテム作りで無双します

すもも太郎
ファンタジー
 伝説級勇者パーティーを首になったニースは、ギルドからも放逐されて傷心の旅に出る。  その途中で大地の精霊と運命の邂逅を果たし、精霊に認められて加護を得る。  出会った友人たちと共に成り上がり、いつの日にか国家の運命を変えるほどの傑物となって行く。  そんなニースの大活躍を知った元のパーティーが追いかけてくるが、彼らはみじめに落ちぶれて行きあっという間に立場が逆転してしまう。  大精霊の力を得た鑑定師の神眼で、透視してモンスター軍団や敵国を翻弄したり、創り出した究極のアイテムで一般兵が超人化したりします。  今にも踏み潰されそうな弱小国が超大国に打ち勝っていくサクセスストーリーです。  ※ハッピーエンドです

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

空月そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処理中です...