【完結】魔王なのに、勇者と間違えて召喚されたんだが?

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

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外伝

10.忘れ去られた神話

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 世界はまだ柔らかく形を持たなかった。霞に似た不安定なそれを男神が掴み、女神が受け止めるところから創世は始まる。神々は常に2人で行動し、互いに補いあった。何もない空間に上下を作るため、女神は天地を創造する。男神が生み出した水は天地が出来て上から下へと流れた。

 大地に緑が生え、水は彼らを潤す。延々と続く大地に2人は手を取り合って喜んだ。男神が作った水はやがて大地を削って川となり海になる。自分達に似た種族を作り、その失敗作とされる様々な動物が生まれた。水の中にも陸地にも、数えきれない生命が満ちた。

 彼と彼女は自分達だけでも足りていた。にもかかわらず、寂しいという感情を覚えて眷属を作る。その者らは強大な力を持ち、強く美しかった。原始の種族と呼ばれる彼らは、今の魔族の先祖に当たる。その派生が人間だった。魔力の弱い者同士が身を寄せ合って暮らすうち、ほとんど魔力を持たない者が生まれ始めたのが起源だ。

 魔族の本能に埋め込まれた強者への憧れは、やがて互いを食らい尽くす争いへと発展した。嘆く女神と男神が仲裁に入るも、魔族の欲は留まるところを知らぬ。彼らは生みの親である神々に牙を剥いた。圧倒的な力を持つ神々であっても、ひっきりなしに襲いかかる魔族の攻撃に手傷を負うことが増える。

 魔族は徐々に力を蓄え、神々の領域に手を伸ばそうとしていた。その強さに恐れをなした神々は、自分達を隔離する大地を作り出す。迷宮として誰も入れず出られないように……封印を施した地で2人は互いを消した。女神は金に、男神は銀となって眠る――。

 叙事詩となった神話を語り終えたアスタルテは、苦笑いして前髪をかき上げた。

「私が知るのは、ここまでです」

「助かった」

 あの氷の大地とされた果ての地から持ち帰った銀と金、その意味は神々の欠片ということか。あの場所は神々が己を守るために逃げ込んだ地なら、暴いてはいけない類の聖域だろう。

「なぜ隠そうとした?」

「口にしてから……母が付け加えた言葉を思い出しました」

 懐かしむように、思い出を抱き締める仕草で目を閉じたアスタルテが口元を緩める。

「神々は疲れてお隠れになった。だから探してはいけない、と。私がこの世界を後にする前、母はすべての文献を灰にした。何も残さず消した。だからレーシーの口伝がなければ、神々の存在は母の思惑通り消えたはず」

 レーシーが悪いのではない。伝えられたのなら、伝える意味があったのだ。神々とて存在を忘れられ、無視されたいわけでもなかろう。いつか誰かに目覚めさせてもらう目的があるから、レーシー達に受け継がれたのではないか?

 あの場所で見る風景が違うのは、その者を惑わす迷宮だからだ。獲物がない氷の大地はドラゴンの興味を引かない。オレもわざわざ荒れ地に手を出そうとしなかった。アルシエルに影響がなければ、氷の大地など捨て置いたはず。陸の魔獣であるマーナガルムも、美しいと思いはしても湖に入ろうとはしない。

 近づく者の興味を逸らす風景を映すとしたら、どうして双子の時は花畑を見せたのか。そこに謎を解く鍵が秘められている気がした。
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