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城の秘密Ⅱ➂
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「お二人とも、そのくらいになさいませ。――ルシウス様も、そう凄まれては、怪我人の傷に障りますよ」
執事の一言で、伯爵、ルシウスが口を噤む。
おれは、玄関横すぐの客間のベッドで、腕に包帯を巻かれていた。
起きたことが、まだ信じられない。
「…あれ、何?」
手当をしていた執事の手が止まる。
主を仰ぎ見、
「見たままだ…」
と、当の主が不機嫌を引きずったまま答える。
「それだけじゃ、わからない。それに、おれ、あんたに叱られる覚えない」
「…何?」
「そもそも、あんたが、庭に降りようとしなきゃ、おれだって手出ししやしなかったよ」
なんであんな真似をしただって?
こっちのセリフだ。
奇妙極まりない体験をしたせいか、身体がカッカする。
知らず湧きあがった汗を、袖で拭う。
執事が、はっとしたように、おれの額に手を当てた。ルシウスが、組んでいた腕を解き、怖いくらい真剣な顔になる。
「…熱がありますから、今夜は、安静に」
熱…。
そういえば、頭がぼぅっとする。おれは、ベッドに横になるよう促され、その夜を、客間で過ごした。夜中、誰かがずっとそばにいてくれたような気がする…。
朝になって、改めて執事がおれの熱を測りに来た。
ほっとしたように、
「下がりましたか…。よかった。本当に」
と、腕の包帯を新しい布に代えながら、
「以前、言いつけを破り、真夜中…あの庭へ降りたメイドがおりましたが…。助かりませんでした」
と、沈痛な顔で告げる。
「…オヤジが死んだのも、同じ?」
長い沈黙の後。
「おそらくは…」
と、包帯の端を切って、新しい布を巻き終えた。
「ルシウス様は、すべて、ご自分のせいであると、お考えなのです…」
執事が立ち上がる。
「あと数日は、養生なさいませ」
その夜。戸口の前に誰かが立つ気配で、形だけ閉じていた目を開く。
ためらうような少しの間の後、ゆっくりと戸を開け、入ってくる。
おれは、寝たふりをした。
こめかみに、毛並みの感触。
そのまま、額に移った手が、熱を確かめるように触れる。
「…ないよ」
手に動揺が走る。
おれは、パッと目を開けた。
薄闇にぼんやりとしか分からない、その姿に向かい、
「熱なら、もうない」
「…そうか」
ほっとしたような気配が伝わる。
「あんた、昨日も来てた」
グッと、喉が鳴る音。
「…何故わかる」
「勘」
出まかせだ。
「……」
呆れたのか、当惑したのか。
こう言い残す。
「…明日の夜は必ずこの部屋を出るな。よいな」
執事の一言で、伯爵、ルシウスが口を噤む。
おれは、玄関横すぐの客間のベッドで、腕に包帯を巻かれていた。
起きたことが、まだ信じられない。
「…あれ、何?」
手当をしていた執事の手が止まる。
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「見たままだ…」
と、当の主が不機嫌を引きずったまま答える。
「それだけじゃ、わからない。それに、おれ、あんたに叱られる覚えない」
「…何?」
「そもそも、あんたが、庭に降りようとしなきゃ、おれだって手出ししやしなかったよ」
なんであんな真似をしただって?
こっちのセリフだ。
奇妙極まりない体験をしたせいか、身体がカッカする。
知らず湧きあがった汗を、袖で拭う。
執事が、はっとしたように、おれの額に手を当てた。ルシウスが、組んでいた腕を解き、怖いくらい真剣な顔になる。
「…熱がありますから、今夜は、安静に」
熱…。
そういえば、頭がぼぅっとする。おれは、ベッドに横になるよう促され、その夜を、客間で過ごした。夜中、誰かがずっとそばにいてくれたような気がする…。
朝になって、改めて執事がおれの熱を測りに来た。
ほっとしたように、
「下がりましたか…。よかった。本当に」
と、腕の包帯を新しい布に代えながら、
「以前、言いつけを破り、真夜中…あの庭へ降りたメイドがおりましたが…。助かりませんでした」
と、沈痛な顔で告げる。
「…オヤジが死んだのも、同じ?」
長い沈黙の後。
「おそらくは…」
と、包帯の端を切って、新しい布を巻き終えた。
「ルシウス様は、すべて、ご自分のせいであると、お考えなのです…」
執事が立ち上がる。
「あと数日は、養生なさいませ」
その夜。戸口の前に誰かが立つ気配で、形だけ閉じていた目を開く。
ためらうような少しの間の後、ゆっくりと戸を開け、入ってくる。
おれは、寝たふりをした。
こめかみに、毛並みの感触。
そのまま、額に移った手が、熱を確かめるように触れる。
「…ないよ」
手に動揺が走る。
おれは、パッと目を開けた。
薄闇にぼんやりとしか分からない、その姿に向かい、
「熱なら、もうない」
「…そうか」
ほっとしたような気配が伝わる。
「あんた、昨日も来てた」
グッと、喉が鳴る音。
「…何故わかる」
「勘」
出まかせだ。
「……」
呆れたのか、当惑したのか。
こう言い残す。
「…明日の夜は必ずこの部屋を出るな。よいな」
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