くさい

とぎクロム

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くさい

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俺、大学時代に付き合ってた彼女がいたんだけどさ。
その彼女が、初めて俺の住んでたアパートに遊びに来た時に、こう言ったの。
「ねえ、なんの臭い?」って。
俺なんの事か分からなくてさ。聞いたの。
「どんな臭い?」って。
そしたら、
「なんだろう…なんか変なにおいする」って。
相当、してたらしくて、彼女、顔をしかめて鼻つまんでた。
それから、来るたびに臭いがきつい、くさいって言うんだけど、俺には、彼女のいう変な臭いが分からなかった。

大学では、俺まだ煙草吸ってなかったから、ヤニ臭いってわけじゃあないだろうし。物を腐らせたみたいな臭いでもないって事は、彼女も言ってた。
結局、わからず終いで、色々あって彼女とも別れることになったんだけど……そのあとすぐ、彼女、事故に遭ってさ。
ひき逃げだったから、犯人見つけるのに事情聴取とかって、元カレの俺も警察に呼ばれてさ。結構聞かれた。多分、疑われてたんだと思う。
よく、言うじゃん?痴情のもつれで元恋人をって。
で、彼女の見舞いにも言ったんだけど、その時に、妙なこと聞いてさ。
「あの臭いがした」って。
「何?」って聞くと、
「ほら、A君の部屋の臭い。車に跳ねられる前にしたの」

なんでその時に、俺の部屋の臭いがしたかってことは、俺にも、彼女にも分からなかった。
ただ、その次の年の冬にさ。

サークル内の仲いい奴らで集まって、寄せ鍋しようぜって話になって、俺のアパートでってみんな言うんだけど、俺なんか嫌な感じがしてさ。多分、彼女とのこと覚えてたからだと思う。
「他の奴のとこにしねえ?」って言うんだけど、
「この人数で入れるのお前んとこくらいだろ」って押しきられて、結局、俺んとこで9人くらい集まって、わいわい鍋つついてたんだけど。ちょうど俺の向かいに座ってた奴が、
「なあ、お前の部屋、臭くね?」って言い出したんだ。
俺、急いで臭いを確かめようとしたんだけど、やっぱダメでさ。
その場にいた俺以外の奴らも「そうか?」って首傾げてたんだけど、そいつだけは「くさいくさい。お前らよく平気だな」って笑いながらずうっと言ってた。

そいつ…しばらくして、大学来なくなってさ。聞いたら、バイクで事故って即死したって。


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