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第一章 アルソリオのトゥヴァリ
-ひとつめの記憶-
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私が生まれたのは……さあ、わからない。自分の生まれた瞬間など、観察できるはずもない。
本当に生まれたのだろうか。死んだような気もする。もし自分が、その事象に巻き込まれた「それ自身」でなければ、観察することもできただろうに。
私がまずしたことは、食うことだった。
何かを得ること、満たすこと――食う。それしか頭に浮かばなかった。
生き物を見つけ、食う。そのエネルギーが、私の内に流れ込む。
私には仲間がいる。みんな、生き物を食った。
はじめの頃のことは、それしか覚えていない。
気付いたときには、食べ物はもうわずかしか残っていなかった。みんなで食い過ぎてしまったのだ。
私たちは、何が悪かったのかを考えた。
他の生物もまた、他の生物を食べていた。しかも私たちとは違い、物質として体内に取り込み、完全に消滅させてしまう。
ならば、私たちが食わずとも、やがてすべてはなくなるはずだった。けれど、私たちが現れるまでは、そうではなかった。
私たちは失敗している。
だが、考えても答えは出なかった。
そもそも、考えることができないのだ。
考えるとは、何だったっけ?
私たちは、識ることにした。
ただ食ってしまうのではなく、奪うのではなく、存在を融合させる。情報を拡張し、処理するための基盤として。
私は人間を選んだ。
その瞬間、私はそれまでとは異質なものになった。
思考は広がり――それが「情報」なのだと知った。
言葉を識ったことで、私は共有される思考の源流となった。
そして、そのとき顕わになったのだ。
私がみんなのリーダーであることは、始めから定められていた真実だった。
私は、この先も私たちの存在を維持するために、まず残されたわずかな生物を一か所に集めた。
ひとまとめにする。それを、私たちの言葉で “アルソリオ” と呼んだ。
それが、この世界のはじまりだった。
そうやって私は、
私は、
今までとは違う存在になった。
すべての記憶を持つ、思考する光。
そうなった私がどちらの私なのか、もうわからない。記憶は溶けあい、流れ、やがて私というひとつの形を成したのだ。
本当に生まれたのだろうか。死んだような気もする。もし自分が、その事象に巻き込まれた「それ自身」でなければ、観察することもできただろうに。
私がまずしたことは、食うことだった。
何かを得ること、満たすこと――食う。それしか頭に浮かばなかった。
生き物を見つけ、食う。そのエネルギーが、私の内に流れ込む。
私には仲間がいる。みんな、生き物を食った。
はじめの頃のことは、それしか覚えていない。
気付いたときには、食べ物はもうわずかしか残っていなかった。みんなで食い過ぎてしまったのだ。
私たちは、何が悪かったのかを考えた。
他の生物もまた、他の生物を食べていた。しかも私たちとは違い、物質として体内に取り込み、完全に消滅させてしまう。
ならば、私たちが食わずとも、やがてすべてはなくなるはずだった。けれど、私たちが現れるまでは、そうではなかった。
私たちは失敗している。
だが、考えても答えは出なかった。
そもそも、考えることができないのだ。
考えるとは、何だったっけ?
私たちは、識ることにした。
ただ食ってしまうのではなく、奪うのではなく、存在を融合させる。情報を拡張し、処理するための基盤として。
私は人間を選んだ。
その瞬間、私はそれまでとは異質なものになった。
思考は広がり――それが「情報」なのだと知った。
言葉を識ったことで、私は共有される思考の源流となった。
そして、そのとき顕わになったのだ。
私がみんなのリーダーであることは、始めから定められていた真実だった。
私は、この先も私たちの存在を維持するために、まず残されたわずかな生物を一か所に集めた。
ひとまとめにする。それを、私たちの言葉で “アルソリオ” と呼んだ。
それが、この世界のはじまりだった。
そうやって私は、
私は、
今までとは違う存在になった。
すべての記憶を持つ、思考する光。
そうなった私がどちらの私なのか、もうわからない。記憶は溶けあい、流れ、やがて私というひとつの形を成したのだ。
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