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26 経験不足

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 憂鬱な日が暫く続き、元の生活に戻りつつあった。恋人ごっこと称し過ごした数日間はどこへやら、あれからテオドールからの連絡は特になく、ましてやフェリチーアから連絡を取る訳にもいかず、ただただ憂鬱な時間だけが過ぎていた。

 そうなるといつまでも現れないテオドールと、特に何も動きがないフェリチアーノに家族達は業を煮やし始めた。
 ひっきりなしに来ていたお茶会の誘いも、最近は量を減らしている。新しい話題が無いのだからそれはそうだろう。
 朝から嫌味を言われようが、フェリチアーノにはどうする事も出来ない。そもそもどうやって連絡すればいいのかもフェリチアーノにはわからなかった。
 無駄に知識だけはあるテオドールであれば、もしかすればどう誘えばいいか知っているかもしれないが、生憎フェリチアーノにそんな知識は無い。
 誘ったところでどこに行けばいいかもわからない。いつもは連れまわされる側であるし、節約の為に無駄に出歩いたりはしない為そんな場所も知らない。

 その為テオドールからの連絡を待っている状況ではあるのだが、帰宅してからと言う物テオドールからの音沙汰は何もない。
 手首の刺青を服の上から時折撫でながら、重く息苦しい日々を過ごすだけだった。



「テオドール殿下、一言宜しいでしょうか?」

 執務室で書類と向き合っていたテオドールは、呆れを含んだロイズの声に、読んでいた書類から目を上げた。

「どうした?」
「フェリチアーノ様への連絡は取らなくてよろしいのですか?」
「今は連絡を取ってもどうせ会えないだろう? だから帰したくなかったのに」
「いえ、そうではなくてですね……」

 顔を手で押さえながら重苦しい溜息をついたロイズに、わからないから早く言えとテオドールは目線で先を促した。

「普通、会えない間は一言添えたカードなり、花や菓子等を贈るべきですよ」

 その発言に目を丸くしたテオドールを見て、ロイズは再び溜息を吐いた。
 テオドールは知識だけはある。しかしそれはあくまでも両親や兄姉達の行動から来るものだ。
 だからだろう、見えない部分の気遣いはどうしたってテオドールには思い至らない。自身でそこに思い至るだろうかとロイズは暫く何も言わずにいたが、こうも何も動かないとなれば話は別だ。
 確かにフェリチアーノが王宮に居る間、はしゃいでべったりしていたせいで仕事が溜まっていて、すぐにはまとまった時間が取れないからと、大急ぎで執務をこなしてくれるのはロイズにとっても有難い事だが、しかしそれではテオドールの成長を促す時間を無駄にしてしまう事も事実。

 自身で気がつけばいいが、やはり経験不足であるが故に永遠にロイズが言わねば気づかない、思い至らない事も多いのだ。

「……今からでも何か送った方が良いのか?」
「その方が宜しいでしょう。フェリチアーノ様がお好きな花か菓子を詫びの手紙でも添えて送られればよいかと思いますよ」

 そう言ってやればテオドールは安堵した顔を浮かべたが、次の瞬間にはハッとし、口元に手を当てて何かを考える素振りをしだす。
 だが段々とその表情は険しくなっていき、ロイズはそれを不審に思った。

「ロイズ大変だ……」
「なにか問題でも?」
「フェリチアーノが何を好きか、俺は何も知らない」

 眉を下げどうしようとばかりにテオドールがロイズを見れば、呆れをました表情のロイズがげんなりとして肩を落としていた。

「あんなにべったりとくっついていたのに、一体殿下は何を話していたんですか……本当に何も知らないのですか? 何かあるでしょう、良く散歩していましたが、その際に好感触な花は無かったですか? お茶の際にフェリチアーノ様が好んで食べていた菓子はなんでしたか?」
「うっ……そこまで気にしてなかった」
「次からは気にするべきですよ、殿下」

 頭を抱えて項垂れたテオドールを慰めながら、フェリチアーノ宛てに何とか手紙を書かせるが、書いた事も無い文章を書かせるのも一苦労だった。
 ロイズが考えた文章をそのまま書かせても良いが、それではテオドールの為にならない。紙の選び方から、書き方からと何とか教え、何度も書き直してようやく手紙が出来上がった頃には日が傾き始めていた。

 出来上がった手紙を嬉しそうに眺めているテオドールからそれを取り上げたロイズは、侍従を呼び用意させていた無難な花と共に早速フェリチアーノの元へと送らせた時には、達成感に包まれた顔をするテオドールとは対照的に、ロイズにはどっと疲れが押し寄せ疲れ切った顔をしていた。
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