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38 浮つく心
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茶会の日に恋心を自覚したテオドールの生活は一変したと言っても良い。
今までロイズに言われるがまま人気だと言う菓子や花を贈っていたが、今では自ら深く考え選び、手紙も以前は友人に宛てる様な物の延長線にある様な文面であったが、言葉一つにも何が良いかと頭を悩ませている程だった。
毎日がとても楽しい反面、会えない時間はとても辛い。その分会えた時の多幸感は言い知れないのだが、離れがたさもまた以前とは格段に違うのだから恋とはなんとも悩ましい物なのだとテオドールは思うのだった。
そんな主の変化を嬉しく思いながらも、ロイズの中には不安が募っていた。フェリチアーノの体の事もそうだが、これは短い期間のごっこ遊びでゆくゆくは解消される関係だ。
毎日楽しそうにしているテオドールに言うのは憚られるが、一番近くで仕える者としてはどうしても聞かなければならないし、伝えなければならない。
ウキウキとしながらデートは何処に行こうかと頭を悩ませているテオドールに、今日こそはとロイズは意を決して口を開いた。
「殿下は今後どうされるおつもりなのですか」
「今後?」
「……隣国の姫君と婚約される際、彼の事はどうなさるおつもりですか?」
ピシリと固まり急激に顔色が悪くなるテオドールに、ロイズは更に言葉を続けた。
「フェリチアーノ様と恋仲になった事は宜しいですが、しかし期限がおありでしょう? もしや忘れていましたか?」
本来であれば喜ばしい事だ。ずっと望んでいた恋人が出来たのだから。だがテオドールには王族として既に決められたレールが敷かれている。
ごっこ遊びとして認められた期間は、遊びの範疇であれば多くも少なくも無かっただろう。
しかしそうで無くなったのならそれは決して多い時間では無いし、ましてや幸せな未来はない。
「あぁ……そうだった、そうだ。……俺はフェリとはずっと一緒には居れない」
唖然としながらその事実を自身に言い含める様に呟いたテオドールの顔を、ロイズは見ている事が辛かった。
テオドールは唖然とした表情から、次第に自嘲するような表情に顔色を変えていく。いつの間にかペンはテーブルに転がり、手紙に黒い染みを広げてた。その染みが広がる様にテオドールの心に悲しみが広がっていく。
脳内で絶えず流れていたフェリチアーノとの過ごすひと時が胸を締め上げていった。
「殿下……」
堪らずロイズが声を掛ければ、とても悲しそうな表情をしたテオドールが情けない程の笑みを浮かべた。
「さっきロイズは俺達が恋仲になったって言っただろう? それは間違いだとだけ言っておくよ」
「違うのですか?」
「あぁ、俺が一方的にフェリを好きになっただけだからな。だからそう……俺が婚約する前に遊びが終わるだけだよ、何も問題はない」
チラリとフェリチアーノから貰った手紙が入った文箱を見るとその中の一つを開いた。あの日からテオドールに変化があった事に応える様に、フェリチアーノから送られてくる返信の手紙の文面には僅かな変化があった。
だからこそテオドールの浮ついた心は更に浮足立ったと言ってもいい。
これはごっこ遊びだ。片方が遊びに熱が入ればそれに応えるのは仕方がない。お互い同意の上で悔いなく過ごそうと言うごっこ遊びであるのだから尚更だ。
それにフェリチアーノはいつだってテオドールに寛容で、行動や言動全てに応えてくれる。
だからそう、勘違いしてしまったのだ。
フェリチアーノはテオドールと同じ気持ちであろうと。
よくよく考えてみれば確かに口付けをしたがあれは決して恋慕から来る物ではなく、令嬢達への牽制の為だ。
そこでテオドールは己の心を自覚したが、愛の告白も付き合ってくれと言う明確な言葉すらも、テオドールはフェリチアーノに伝えてはいないし、伝えていないのだからそれに対しての返答も何もフェリチアーノからは貰ってはいない。
既に仮の恋人として行動をしていたからなのだが、最も重要なソレが抜け落ちていたのだ。
静まり返った部屋でテオドールはそっと窓の外を見る。青々と生い茂る新緑が光で反射し輝いていた。
それを見ながらテオドールは静かに重苦しく体に留まっていた息を吐き出す。
自身の思いに気が付いてしまい、お互いに同じ気持ちではない事も気が付いてしまったが、それは今更変えようは無い。
テオドール自身がフェリチアーノを愛しいと恋しいと思う気持ちは今更どうしようも無いし、現実が突き付けられようとも容易く忘れ去れるものではない。
仮に告白し玉砕する可能性はごっこ遊びがある限りはあり得ない。テオドールはこの感情を隠したまま、今まで通りでいれば良いのではと考えた。
ごっこ遊びと言う遊びを免罪符に、フェリチアーノをギリギリまで側に置けるのだから、それは最高にいい考えなのではと。
だがそれと同時に、そんな事を考えてしまう自身の浅ましさに嫌悪感が芽生えるのも事実だ。
婚約するまでにこの感情を上手く飼いならし、気持ちに蓋を出来る様にしなければならないが、それまでは、それまでだけは、フェリチアーノに気が付かれないようにひっそりと想う事は許されるだろう。
そう考え自分自身に言い聞かせ続ける事しか今のテオドールには出来なかった。
今までロイズに言われるがまま人気だと言う菓子や花を贈っていたが、今では自ら深く考え選び、手紙も以前は友人に宛てる様な物の延長線にある様な文面であったが、言葉一つにも何が良いかと頭を悩ませている程だった。
毎日がとても楽しい反面、会えない時間はとても辛い。その分会えた時の多幸感は言い知れないのだが、離れがたさもまた以前とは格段に違うのだから恋とはなんとも悩ましい物なのだとテオドールは思うのだった。
そんな主の変化を嬉しく思いながらも、ロイズの中には不安が募っていた。フェリチアーノの体の事もそうだが、これは短い期間のごっこ遊びでゆくゆくは解消される関係だ。
毎日楽しそうにしているテオドールに言うのは憚られるが、一番近くで仕える者としてはどうしても聞かなければならないし、伝えなければならない。
ウキウキとしながらデートは何処に行こうかと頭を悩ませているテオドールに、今日こそはとロイズは意を決して口を開いた。
「殿下は今後どうされるおつもりなのですか」
「今後?」
「……隣国の姫君と婚約される際、彼の事はどうなさるおつもりですか?」
ピシリと固まり急激に顔色が悪くなるテオドールに、ロイズは更に言葉を続けた。
「フェリチアーノ様と恋仲になった事は宜しいですが、しかし期限がおありでしょう? もしや忘れていましたか?」
本来であれば喜ばしい事だ。ずっと望んでいた恋人が出来たのだから。だがテオドールには王族として既に決められたレールが敷かれている。
ごっこ遊びとして認められた期間は、遊びの範疇であれば多くも少なくも無かっただろう。
しかしそうで無くなったのならそれは決して多い時間では無いし、ましてや幸せな未来はない。
「あぁ……そうだった、そうだ。……俺はフェリとはずっと一緒には居れない」
唖然としながらその事実を自身に言い含める様に呟いたテオドールの顔を、ロイズは見ている事が辛かった。
テオドールは唖然とした表情から、次第に自嘲するような表情に顔色を変えていく。いつの間にかペンはテーブルに転がり、手紙に黒い染みを広げてた。その染みが広がる様にテオドールの心に悲しみが広がっていく。
脳内で絶えず流れていたフェリチアーノとの過ごすひと時が胸を締め上げていった。
「殿下……」
堪らずロイズが声を掛ければ、とても悲しそうな表情をしたテオドールが情けない程の笑みを浮かべた。
「さっきロイズは俺達が恋仲になったって言っただろう? それは間違いだとだけ言っておくよ」
「違うのですか?」
「あぁ、俺が一方的にフェリを好きになっただけだからな。だからそう……俺が婚約する前に遊びが終わるだけだよ、何も問題はない」
チラリとフェリチアーノから貰った手紙が入った文箱を見るとその中の一つを開いた。あの日からテオドールに変化があった事に応える様に、フェリチアーノから送られてくる返信の手紙の文面には僅かな変化があった。
だからこそテオドールの浮ついた心は更に浮足立ったと言ってもいい。
これはごっこ遊びだ。片方が遊びに熱が入ればそれに応えるのは仕方がない。お互い同意の上で悔いなく過ごそうと言うごっこ遊びであるのだから尚更だ。
それにフェリチアーノはいつだってテオドールに寛容で、行動や言動全てに応えてくれる。
だからそう、勘違いしてしまったのだ。
フェリチアーノはテオドールと同じ気持ちであろうと。
よくよく考えてみれば確かに口付けをしたがあれは決して恋慕から来る物ではなく、令嬢達への牽制の為だ。
そこでテオドールは己の心を自覚したが、愛の告白も付き合ってくれと言う明確な言葉すらも、テオドールはフェリチアーノに伝えてはいないし、伝えていないのだからそれに対しての返答も何もフェリチアーノからは貰ってはいない。
既に仮の恋人として行動をしていたからなのだが、最も重要なソレが抜け落ちていたのだ。
静まり返った部屋でテオドールはそっと窓の外を見る。青々と生い茂る新緑が光で反射し輝いていた。
それを見ながらテオドールは静かに重苦しく体に留まっていた息を吐き出す。
自身の思いに気が付いてしまい、お互いに同じ気持ちではない事も気が付いてしまったが、それは今更変えようは無い。
テオドール自身がフェリチアーノを愛しいと恋しいと思う気持ちは今更どうしようも無いし、現実が突き付けられようとも容易く忘れ去れるものではない。
仮に告白し玉砕する可能性はごっこ遊びがある限りはあり得ない。テオドールはこの感情を隠したまま、今まで通りでいれば良いのではと考えた。
ごっこ遊びと言う遊びを免罪符に、フェリチアーノをギリギリまで側に置けるのだから、それは最高にいい考えなのではと。
だがそれと同時に、そんな事を考えてしまう自身の浅ましさに嫌悪感が芽生えるのも事実だ。
婚約するまでにこの感情を上手く飼いならし、気持ちに蓋を出来る様にしなければならないが、それまでは、それまでだけは、フェリチアーノに気が付かれないようにひっそりと想う事は許されるだろう。
そう考え自分自身に言い聞かせ続ける事しか今のテオドールには出来なかった。
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