【完結】最初で最後の恋をしましょう

関鷹親

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64 思い出

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 お茶会に呼ばれたデュシャン家の面々は、再び訪れたミネルヴァとの交流に胸を高鳴らせていた。
 アガットはフェリチアーノが居ない事を良い事に奪ってきた宝飾品を身に着け、一緒に招かれているシャロン達にこれまた鼻高々に自慢し、マティアスはまた楽しくない令嬢達に囲まれては嫌だと話をしたウィリアムが是非ともエスコートさせてくれと言う甘言に了承し、ウィリアムを伴いまるでミネルヴァと知り合いなのは自分の様に振舞った。
 アンベールはシルヴァンを従え大きな顔をしているし、カサンドラは身の安全を保障されているからか、これまた大きな顔で次の寄生先を探し始めている。

 そんなデュシャン家の様子をミネルヴァは取り巻きの婦人達と共にじっくりと観察し、さてテオドールにどう報告するかとほくそ笑む。
 道化達の終わりが近い事は確かで、その事に些か残念な気持ちはあるが、フェリチアーノを苦しめて来た者が居なくなる事はとても良い事だ。
 道化に相応しい最後をどう飾るかをテオドールに進言してもきっと咎められはしないだろうと、ミネルヴァは開いた扇子の下で歯を覗かせ獰猛な笑みを作る。

「今年は本当に面白い事ばかりねぇ」

 ミネルヴァの発言に、周りの婦人達も賛同し歪な笑みを浮かべた。



 グレイス邸に戻って来たフェリチアーノの荷物は、あっけないほどに少なかった。元々が家族に搾取され、自分自身の為の物など最低限にしか揃えていなかった事もそうだが、衣服などはテオドールが新しく贈ると言って聞かないし、グレイス家に来てからと言う物、ミリアとジャンからも衣服は十分に贈られているので、元々必要では無いしそもそも所持していた衣服はグレイス家に滞在するにも、テオドールの隣に立つにも相応しくない物ばかりだ。

 別邸に隠してあった物もそこまで多くは無い。領地に関する物はロイズに預け、城へと持ち帰って貰う事になった。これで次に領地を治める領主へと不備なく届けられる事になる。
 テオドールから貰った宝飾品や衣服も無事に別邸から運び込まれたが、それも決して多くは無い。祖父や母の形見すらも、然程大きくはない箱に収まる程の物しか残されてはいない。金策の為に手放した物が多い為だ。

 フェリチアーノはセザールの部屋の床下から見つけ出した一つの箱を大事そうに抱えながら、テオドールと共に談話室に辿り着いた。そこにはフェリチアーノ達を心配しながら待っていたミリアとジャンの姿もある。
 そんな中フェリチアーノはなかなか箱の蓋を開けられずにいた。微かに震える手をテオドールの大きな手が包み込み、顔を上げれば一緒に開けようと促してくれる。

 漸く開けた中には紙の束が入っていた。よく見たセザールの字に、懐かしさと寂しさが込み上げ指先でなぞる。
 束を取り出した下には何通かの手紙と、大きな紙が畳んであるのと、小さな細長いケースも入っていた。
 それを見た瞬間、フェリチアーノの目からは堰が切れた様に涙が溢れ出す。

「フェリ!?」

 いきなり泣き出したフェリチアーノにその場に居た面々は狼狽えるが、一番狼狽えていたのはテオドールに他ならなかった。
 何か不味い物でも入っていたのかと、箱の中身を覗き込むがそこにある物が一体何なのかテオドールにはわからない。

 気がつけばミリアもフェリチアーノの隣に座り、落ち着くように背を撫で、優しい声でフェリチアーノに声を掛けた。

「フェリちゃんどうしたの? 何か……よくない物でも入っていたのかしら?」

 ふるふると頭を軽く振ったフェリチアーノは、畳まれた大きな紙を開いて見せる。

「まぁ……!」

 広げられた紙には、子供が描いたであろう絵が様々な色で描かれていた。そこに描かれているのは既にこの世にはいない祖父と母、そしてセザールだった。
 父の姿はそこには無い。幼い頃からアンベールはあまり屋敷には帰らなかった。焦がれた事もあったが、フェリチアーノが真に家族と呼べる者は昔からこの絵に描かれている人達だけだった。

「真ん中はフェリちゃんかしら? 楽しそうね」

 頭に塗られた髪色から察したのだろうミリアは、慈愛の籠った目で絵を見る。

「……小さい頃に、セザールの誕生日にあげた物なんです、これも、これも」

 細長い箱を開ければそこには使い込まれた万年筆が入っていた。これもセザールに何か上げたくて内緒でお小遣いを貰い、街へと自ら買い求めに行った物だった。
 今思えばセザールに必死に隠して準備をしていたが、全てバレていたのだろう事も分かる。それでも渡した時には心から驚いている様な表情を見せ、涙を滲ませ喜んでくれた。
 そんな光景を次々に思い出し、フェリチアーノは堪え切れずにテオドールに抱き着いた。塞がった筈の傷が再び開かれる。悲しみが一気に押し寄せるがそれと共にもたらされた物もあった。

「ずっと愛されて、大事にされていたのね」
「……はい」

 嬉しさが溢れる。裏切られたわけでは無かった。見捨てられたわけでも無かった。セザールは確かにずっと、フェリチアーノの少し後ろから、見守っていたのだ。
 それはどれ程歯がゆかっただろうか。表立って庇えなくなり、どんどんと憔悴し全てを諦めていくフェリチアーノを側で見ている事はどれ程辛かっただろうか。
 テオドールはフェリチアーノを抱きしめながら、ギリギリの所で守っていたセザールの冥福を祈ると共に、セザールの分もフェリチアーノを守るのだと再び誓うのだった。
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