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75 観劇3
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ウィリアムが何故助けたのかわかり切っているフェリチアーノは、不信感を出さないように努めながらゆっくりと笑みを作る。
「助けて頂きありがとうございました、お怪我は大丈夫ですか?」
「いえいえ、こちらこそ。フェリチアーノ様が来られると知っていたら彼をここには連れて来なかったのですが……」
後悔に苛まれている様に眉根を寄せ、苦し気な表情を作るウィリアムは傍から見ればその通りに見えるだろう。そんなウィリアムを見ても、フェリチアーノには大した役者だなと言う感情しか湧かなかった。
ウィリアムと初めて会った時人の良さそうな笑みを浮かべていたが、ウィリアムの瞳の奥は笑ってはおらず、フェリチアーノを見下す視線と同時に、どう使えるかと値踏みする視線をよこして来たのだ。
フェリチアーノは人々の負の視線に関しては敏感だ。家でも外でもそんな視線ばかりに晒されて来たのだから当たり前ではあるのだが。
フェリチアーノは早々にデュシャン家によからぬ輩が近づいてきている事は知っていた。その中にはウィリアムも当然含まれている。それにテオドールが調べた中にも、ウィリアムには気を付けろとあった。
家の中で立場が弱いウィリアムが、態々あのタイミングでマティアスに近づいた事は決して偶然ではない。野心家な彼は、御しやすそうなマティアスを選び、見事に手中に収めた。
マティアスを介しフェリチアーノを操り王家に取り入ろうとしていたウィリアムだが、彼はフェリチアーノがマティアスの様に言いなりにならないとは思わなかったのだろう。
家族思いの哀れなガチョウは家族に乞われれば、すぐにでも飛んでくるとでも思っていたのかもしれないが、家族を捨てる決断をしたフェリチアーノはいくら乞われようとも手を貸す気は一切なかったのだ。
だがここにきてウィリアムは、フェリチアーノの目の前でマティアスを切り捨てると言う行動に出た。
フェリチアーノに護衛がいるにも拘らずマティアスの前に飛び出し、態々殴られて見せたのだ。態と大袈裟によろめき、人々の関心を引こうと大きな声を出して注目を集め、悲劇的に振舞った。
まるで心を痛めている様に振舞う目の前の男を、フェリチアーノはどうするべきかと考えを巡らす。
グレイス家に養子として入った折、フェリチアーノは今までの考えを捨てる様にミリアとジャンに言われていた。
今までは影に潜む様に、目立たぬようにと息を潜め生きて来た。しかしグレイス家は侯爵家だ。今までの伯爵家とは大いに立場が違ってくる。表舞台に立たねばならない事も多くなるし、社交も今まで以上に増えるのだ。そしてなにより、フェリチアーノの失態は全て良くしてくれているミリアとジャンの評判に影を落とす。グレイス家の一員としてしっかりと立たねばならないのだ。
そしてそれは今後テオドールの隣に立ち続ける事にも必要な事だ。貴族社会で生き、王族の一員としてゆくゆくは肩を並べる為に。今までの弱さを捨て、強かさを身に着け、立ち向かわねば守れる物も守れない。セザールを守れなかった時の様な後悔など二度としたくはない。
ウィリアムの狙いは王家とのつながりなのは明白だった。しかし賢く商才がある兄達とは違い、ウィリアムの評判はあまり良い物とは言わない。マティアスに近づいている辺りそれが良くわかる。マティアスをこの場で切り捨てた事も、悪手でしかなかった。それがわからないとは。
「私は殿下の大事な方を危険に晒してしまいました。フェリチアーノ様、ぜひ殿下に直接謝罪をさせて頂きたいのです」
「僕は気にしませんが……そうですね、貴方がそれで気が収まるのでしたら」
フェリチアーノはエスコートすると言うウィリアムの申し出を断り、テオドールの元へと向かった。
「助けて頂きありがとうございました、お怪我は大丈夫ですか?」
「いえいえ、こちらこそ。フェリチアーノ様が来られると知っていたら彼をここには連れて来なかったのですが……」
後悔に苛まれている様に眉根を寄せ、苦し気な表情を作るウィリアムは傍から見ればその通りに見えるだろう。そんなウィリアムを見ても、フェリチアーノには大した役者だなと言う感情しか湧かなかった。
ウィリアムと初めて会った時人の良さそうな笑みを浮かべていたが、ウィリアムの瞳の奥は笑ってはおらず、フェリチアーノを見下す視線と同時に、どう使えるかと値踏みする視線をよこして来たのだ。
フェリチアーノは人々の負の視線に関しては敏感だ。家でも外でもそんな視線ばかりに晒されて来たのだから当たり前ではあるのだが。
フェリチアーノは早々にデュシャン家によからぬ輩が近づいてきている事は知っていた。その中にはウィリアムも当然含まれている。それにテオドールが調べた中にも、ウィリアムには気を付けろとあった。
家の中で立場が弱いウィリアムが、態々あのタイミングでマティアスに近づいた事は決して偶然ではない。野心家な彼は、御しやすそうなマティアスを選び、見事に手中に収めた。
マティアスを介しフェリチアーノを操り王家に取り入ろうとしていたウィリアムだが、彼はフェリチアーノがマティアスの様に言いなりにならないとは思わなかったのだろう。
家族思いの哀れなガチョウは家族に乞われれば、すぐにでも飛んでくるとでも思っていたのかもしれないが、家族を捨てる決断をしたフェリチアーノはいくら乞われようとも手を貸す気は一切なかったのだ。
だがここにきてウィリアムは、フェリチアーノの目の前でマティアスを切り捨てると言う行動に出た。
フェリチアーノに護衛がいるにも拘らずマティアスの前に飛び出し、態々殴られて見せたのだ。態と大袈裟によろめき、人々の関心を引こうと大きな声を出して注目を集め、悲劇的に振舞った。
まるで心を痛めている様に振舞う目の前の男を、フェリチアーノはどうするべきかと考えを巡らす。
グレイス家に養子として入った折、フェリチアーノは今までの考えを捨てる様にミリアとジャンに言われていた。
今までは影に潜む様に、目立たぬようにと息を潜め生きて来た。しかしグレイス家は侯爵家だ。今までの伯爵家とは大いに立場が違ってくる。表舞台に立たねばならない事も多くなるし、社交も今まで以上に増えるのだ。そしてなにより、フェリチアーノの失態は全て良くしてくれているミリアとジャンの評判に影を落とす。グレイス家の一員としてしっかりと立たねばならないのだ。
そしてそれは今後テオドールの隣に立ち続ける事にも必要な事だ。貴族社会で生き、王族の一員としてゆくゆくは肩を並べる為に。今までの弱さを捨て、強かさを身に着け、立ち向かわねば守れる物も守れない。セザールを守れなかった時の様な後悔など二度としたくはない。
ウィリアムの狙いは王家とのつながりなのは明白だった。しかし賢く商才がある兄達とは違い、ウィリアムの評判はあまり良い物とは言わない。マティアスに近づいている辺りそれが良くわかる。マティアスをこの場で切り捨てた事も、悪手でしかなかった。それがわからないとは。
「私は殿下の大事な方を危険に晒してしまいました。フェリチアーノ様、ぜひ殿下に直接謝罪をさせて頂きたいのです」
「僕は気にしませんが……そうですね、貴方がそれで気が収まるのでしたら」
フェリチアーノはエスコートすると言うウィリアムの申し出を断り、テオドールの元へと向かった。
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