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52 肖像画
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領主館と呼ばれるだけあり屋敷の敷地は広大だ。屋敷自体も大きく、歴代の勇者が一人だけで住んでいたと言うには広すぎるように感じる。
トビアスにこそりと聞けば、王家から勇者に褒美の一つして下賜されるのだから、見栄えが悪ければ王家に非難がいくと、そう言うことらしかった。
トビアスと共に屋敷の中へと入れば中はシックに整えられた空間で、いかにも歴史があるといった内装だ。
艶やかに磨かれた床に、綺麗に生けられた花々。塵一つ落ちていない完璧な屋敷。けれども、外見の煌びやかさでは誤魔化されないそこはかとない違和感をハルキとトビアスを包む。
正面玄関ホールから伸びる階段をアルバロの先導で上がり、部屋へと案内される。王宮での部屋よりも更に広さを増した自室として宛がわれた部屋に、春輝は思わず溜息が出でしまった。
春輝が住んでいたのは一般的なマンションの一室だ。広すぎず狭すぎず、家族四人が暮らすには十分な家で育っている。その感覚からすれば王宮で与えられていた部屋も、これから過ごすことになるこの部屋も広すぎて落ち着かない。
「トビアス様のお部屋ですが、魔王討伐の英雄であらせられますので、侍従や護衛と言った職の者達と同じ、と言うわけにはまいりません。ですので、他のお部屋をご用意致しました。場所はこのお部屋の丁度反対側にございまして、後ほどご案内を……」
「トビアスの部屋はこの部屋の隣でいいだろう」
「隣な部屋……でございますか?」
アルバロは怪訝な表情を隠しもしなかった。主人の部屋の隣は女主人が使うための部屋だと案内されながらアルバロから説明を受けていたので、何故怪訝な表情をするのか理解はできる。
だがガベルトゥスが居ない間は唯一の味方であるトビアスと離れるわけにはいかない。どのみちトビアスは昼夜問わず春輝に付いているので、部屋が隣だろうが多少離れていようがあまり関係はないのだが、ようは心の持ちようだ。
主人の部屋は、女主人の部屋と部屋の中にある扉で繋がっているので、ガベルトゥスが訪れた時に待機させるのも簡単だ。
「トビアス様もそれで宜しいのでしょうか」
「護衛も兼ねているから、寧ろ部屋が隣の方が都合がいい」
「左様で、ではすぐに整えさせましょう」
控えているメイドに指示を出したアルバロは、その間に屋敷の他の部分の案内をされる。アルバロは一人、この屋敷がいかに素晴らしい場所かと鼻高々に話す。
そんな物には興味が全くない春輝は勿論聞き流していたのだが、トビアスは真面目に聞いているようだった。
一階にある玄関ホールから、大広間へと向かう廊下の左右の壁には様々な美術品が美術館のように飾られていた。
歴代の勇者達が買い求めた物らしく、その趣味趣向は様々だった。風景画もあれば、抽象画のような物もある。並ぶ物は一部でしかなく、ギャラリーとしての部屋もあるようだった。
「ここからは歴代の勇者様方の肖像画になります」
流石に初代などの最初期の勇者の肖像画は無いと言うが、それでもかなりの数の肖像画が飾られていた。
聖剣に流し込まれた知識には詳しい勇者の知識はない。あるのは勇者がどういった役割で、どういう功績を残したかと言ったぐらいだ。
勇者の人種は様々であるようで、春輝と同じ国の者ももちろんいた。全て春輝が元居た世界と同じところから呼ばれているのかふと疑問に思う。
肖像画は本人の性格や趣味が美術品より明確に表れていた。豪奢に着飾られた者、鎧に身を包み勇猛さを見せる者、まるで神であるかのよな者。勿論、普通の肖像画のように描かれた者も多い。トビアスも興味深そうに肖像画を見ていた。
「楽しそうだな」
「肖像画などがあるとは思いもしませんでした。勇者という者については、一種の英雄譚と同じ扱いですから。ですが歴代勇者様のお名前を皆知りません。ただ勇者と、皆そう呼びます」
一人の人間として認識されているのではなく、勇者と言う名称でのみ知られているだけなのだ。
召喚され、偉業を成し遂げても個人として名を残すことすらないとは。しかし意外と短いスパンで召喚されていれば、勇者などそんなものなのかもしれない。
呆れながら春輝が肖像画を眺めていれば、ふと一枚の肖像画に引き付けられる。その肖像画は他のものと一見同じように見えるのだが、他の物よりも描かれている人物の目がやけにギラついているのだ。
年のころは青年だろうか。異様に暗い光を宿し、こちらを睨みつけているような、そんな絵だった。少し赤みがかった髪に、暗いブラウンの瞳、どこか既視感を覚えるその姿に春輝は内心首を傾げ、一人考えに耽る。
暫くして導き出した自身の答えに春輝は目を見開き、もう一度肖像画を見た。その考えに至ってしまえばもうそうにしか見えなかった。
「……ガイル」
ぽつりと零れた言葉は隣にいるトビアスにはしっかりと聞こえていたらしく、トビアスもまた肖像画を見直し驚愕に目を見開いた。
トビアスにこそりと聞けば、王家から勇者に褒美の一つして下賜されるのだから、見栄えが悪ければ王家に非難がいくと、そう言うことらしかった。
トビアスと共に屋敷の中へと入れば中はシックに整えられた空間で、いかにも歴史があるといった内装だ。
艶やかに磨かれた床に、綺麗に生けられた花々。塵一つ落ちていない完璧な屋敷。けれども、外見の煌びやかさでは誤魔化されないそこはかとない違和感をハルキとトビアスを包む。
正面玄関ホールから伸びる階段をアルバロの先導で上がり、部屋へと案内される。王宮での部屋よりも更に広さを増した自室として宛がわれた部屋に、春輝は思わず溜息が出でしまった。
春輝が住んでいたのは一般的なマンションの一室だ。広すぎず狭すぎず、家族四人が暮らすには十分な家で育っている。その感覚からすれば王宮で与えられていた部屋も、これから過ごすことになるこの部屋も広すぎて落ち着かない。
「トビアス様のお部屋ですが、魔王討伐の英雄であらせられますので、侍従や護衛と言った職の者達と同じ、と言うわけにはまいりません。ですので、他のお部屋をご用意致しました。場所はこのお部屋の丁度反対側にございまして、後ほどご案内を……」
「トビアスの部屋はこの部屋の隣でいいだろう」
「隣な部屋……でございますか?」
アルバロは怪訝な表情を隠しもしなかった。主人の部屋の隣は女主人が使うための部屋だと案内されながらアルバロから説明を受けていたので、何故怪訝な表情をするのか理解はできる。
だがガベルトゥスが居ない間は唯一の味方であるトビアスと離れるわけにはいかない。どのみちトビアスは昼夜問わず春輝に付いているので、部屋が隣だろうが多少離れていようがあまり関係はないのだが、ようは心の持ちようだ。
主人の部屋は、女主人の部屋と部屋の中にある扉で繋がっているので、ガベルトゥスが訪れた時に待機させるのも簡単だ。
「トビアス様もそれで宜しいのでしょうか」
「護衛も兼ねているから、寧ろ部屋が隣の方が都合がいい」
「左様で、ではすぐに整えさせましょう」
控えているメイドに指示を出したアルバロは、その間に屋敷の他の部分の案内をされる。アルバロは一人、この屋敷がいかに素晴らしい場所かと鼻高々に話す。
そんな物には興味が全くない春輝は勿論聞き流していたのだが、トビアスは真面目に聞いているようだった。
一階にある玄関ホールから、大広間へと向かう廊下の左右の壁には様々な美術品が美術館のように飾られていた。
歴代の勇者達が買い求めた物らしく、その趣味趣向は様々だった。風景画もあれば、抽象画のような物もある。並ぶ物は一部でしかなく、ギャラリーとしての部屋もあるようだった。
「ここからは歴代の勇者様方の肖像画になります」
流石に初代などの最初期の勇者の肖像画は無いと言うが、それでもかなりの数の肖像画が飾られていた。
聖剣に流し込まれた知識には詳しい勇者の知識はない。あるのは勇者がどういった役割で、どういう功績を残したかと言ったぐらいだ。
勇者の人種は様々であるようで、春輝と同じ国の者ももちろんいた。全て春輝が元居た世界と同じところから呼ばれているのかふと疑問に思う。
肖像画は本人の性格や趣味が美術品より明確に表れていた。豪奢に着飾られた者、鎧に身を包み勇猛さを見せる者、まるで神であるかのよな者。勿論、普通の肖像画のように描かれた者も多い。トビアスも興味深そうに肖像画を見ていた。
「楽しそうだな」
「肖像画などがあるとは思いもしませんでした。勇者という者については、一種の英雄譚と同じ扱いですから。ですが歴代勇者様のお名前を皆知りません。ただ勇者と、皆そう呼びます」
一人の人間として認識されているのではなく、勇者と言う名称でのみ知られているだけなのだ。
召喚され、偉業を成し遂げても個人として名を残すことすらないとは。しかし意外と短いスパンで召喚されていれば、勇者などそんなものなのかもしれない。
呆れながら春輝が肖像画を眺めていれば、ふと一枚の肖像画に引き付けられる。その肖像画は他のものと一見同じように見えるのだが、他の物よりも描かれている人物の目がやけにギラついているのだ。
年のころは青年だろうか。異様に暗い光を宿し、こちらを睨みつけているような、そんな絵だった。少し赤みがかった髪に、暗いブラウンの瞳、どこか既視感を覚えるその姿に春輝は内心首を傾げ、一人考えに耽る。
暫くして導き出した自身の答えに春輝は目を見開き、もう一度肖像画を見た。その考えに至ってしまえばもうそうにしか見えなかった。
「……ガイル」
ぽつりと零れた言葉は隣にいるトビアスにはしっかりと聞こえていたらしく、トビアスもまた肖像画を見直し驚愕に目を見開いた。
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